アニメ音楽年代記

サントラ盤を中心としたアニメ音楽の昔話

新竹取物語1000年女王(TV版)

1.新竹取物語1000年女王 TVシリーズ音楽編

 2年半という比較的長寿番組になった『銀河鉄道999』の後番組として始まったのが『新竹取物語1000年女王』でした。『ヤマト』『999』のヒットを受けてフジ=サンケイ・グループが一大プロジェクトとして新聞連載/TV番組/劇場映画を並行して製作したもので、当時フジTVでは『Dr.スランプ アラレちゃん』と並んで力を入れていた番組のようでしたが、『Dr.スランプ』が長寿番組として続き、その後番組『ドラゴンボール』『ドラゴンボールZ』が現在も続いているのとは逆に、この『1000年女王』が1年で放映終了の後に、松本零士作品が作られることはありませんでした。
 いわば松本零士から鳥山明の時代*1に変わる境界期の作品とも言えるわけですが、再放送も無いためかあまり印象に残ってはいませんね。

 音楽面でも本編の劇伴にはあまり印象に残るものはなく、どちらかというと松本零士作品ということで惰性でサントラ盤*2を買ったというのが正直なところですね。発売がキャニオン・レコード(現ポニー・キャニオン)と言う、アニメのサントラでは未知のメーカーだったし、なによりも「ボーカル曲が多い」とか「断片的な音楽が多い」という印象を強く感じました。また解説書に曲目解説が載っていないことに大いに驚きました。*3

 とりあえず、まず収録曲です。

  A1.コスモス・ドリーム ~宇宙をかける夢~   高梨雅樹
   2.宇宙の夜明け
   3.せまりくる悪魔
   4.涙こらえて
   5.明日の明星(ビーナス)          戸田恵子
   6.1000年盗賊のテーマ
   7.愛あればこそ
   8.ラーメタル・ララバイ           潘 恵子
   9.宿命の道

  B1.異次元惑星
   2.飛べ鉄のペガサス             高梨雅樹
   3.いつか別れが…
   4.謎の追跡
   5.星の航海
   6.さよならからの旅立ち ~Time has come, time has passed~
                          石川まなみ
   7.ふたりの楽園
   8.幸福へのパスポート
   9.まほろば伝説               石川まなみ


 これまでに取り上げて来たアルバムをご覧になれば分かると思いますが、それまでに聴いてきたアルバムの多くはボーカル曲が入っていないか、せいぜい主題歌が2曲ほど入っているほどで、劇伴そのものやシンフォニーアレンジの曲が中心でした。ところが、このアルバムには主題歌・挿入歌合わせて6曲も入っていて、収録時間の約半分をボーカル曲に割り当てられていたのです。
 肝心の劇伴はボーカル曲の間の穴埋めとは言わないまでも、アルバムの主体では無いような感じがしました。それを裏付けるかの如く、LPの帯に音楽担当として記載されていたのは宇崎竜童、阿木燿子の両氏*4でした。
 当時、宇崎・阿木コンビといえば歌謡曲のヒットメーカーでしたから、そのネームバリューを当て込んだのかも知れませんが、アニメのサントラ盤の音楽担当として作詞者の阿木燿子の名前が並んでいるのは奇妙な感じがしました。それよりアレンジャーとして実際の劇伴の大部分に関わっていたはずの朝川朋之氏*5の名前がここに無いのですね。
 LPのレーベルや解説書には朝川朋之氏の記載はありますが、とりあえず載せただけという感じだったことは否めないでしょう。『ヤマト』以降、アニメの劇伴作家に注目が向けられるようになったとは言え、コロムビアやキング以外のメーカーになると当時はまだまだこういう状態がありふれていたようです。これより数年後に「アニメージュ」レーベルを引っ提げて登場した徳間でさえも『超時空騎団サザンクロス』のサントラ盤にはついにどこにも音楽担当者の記載がありませんでしたね。

 実際にどこまで手掛けたかは別として、主題歌・挿入歌・BGMの作曲は全て宇崎竜童氏ということになっています。
 アニメの音楽を手掛ける作曲家を大雑把に見ると、純音楽作品とか本格的な映画音楽を作っている人と、ジャズや歌謡曲などポピュラー系のメロディーを作っている人とに分けられると思いますが、宇崎氏は言うまでもなく後者の人ですね。それもロック系の人で、ヒットメーカーであってもメロディー的に作り込んでいくというタイプの作家では無かったように思います。
 ボーカル曲を適当に散りばめて雰囲気を作れば良いような実写ドラマの音楽はともかくとして、アニメの、それも松本零士の作品の音楽には合っていないのではないかと思いました。だから、当時『1000年女王』の音楽には個人的に期待はしませんでした。

 TVのBGMそのものは、ある程度見つづけていれば愛着も出てくるのですが、このアルバムの収録曲はそれをフォローできるだけのBGMを含んではいませんでした。
 中にはシリーズ中でしばしば使われている重要な曲もあるのですが、構成が問題なのか、断片的に聞こえるものが目立っていて、アルバムのトータル的なイメージが散漫で、あまり印象に残っていませんね。

 ところが、劇伴を中心に見たらあまり良いイメージが無かったこのアルバムなのですが、極めて印象深く残ったものがありました。戸田恵子さんの「明日の明星」と潘恵子さんの「ラーメタル・ララバイ」という2つのボーカル曲です。
 戸田恵子さんは主人公・雨森始、潘恵子さんは雪野弥生役の、二人とも当時は人気の声優でした。声優がアニメの主題歌や挿入歌を歌うことは従来からも珍しくありませんが、ヤマト・ブーム以来の声優人気の中でその位置づけは変わって来たように思えます。
 アニメソングに声優を起用するというのが、声優人気に乗じてレコードの商品価値を高めるというメーカー側の戦略が出てきたわけですね。すでにキングでは『ガンダム』や『イデオン』をはじめとして声優を積極的に使っていたようですが、むしろ声優人気を煽り立てるという点では、これ以降のキャニオン(ポニー・キャニオン)が一段と目立っています。*6

 ヤマト以来、シンフォニーアレンジや劇伴を中心にアニメのアルバムを聴いてきた立場からすると、声優の歌うボーカル曲というのが前面に押し出されて来ているということに、強い衝撃を受けざるをえませんでした。それまではボーカル曲の入ったアルバムは、どうせヤマト以前の子供騙しみたいなアルバムだろうと、ある程度偏見を持っていたのですが、人気歌手を使った話題作りのための主題歌以外にもそうではない新しいタイプのアニメソングが作られてきているのだということを、このアルバムで感じることができました。

 ついでに、石川まなみさんの2曲も良い曲ですので機会があれば、是非聴いて欲しいですね。

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2.あとがき

 残念ながら以前に『松本零士音楽大全』にボーカル曲を中心に抜粋で収録されただけで、アルバム単体でのCD化はされていません。記事中ではサントラとしては期待はずれだったと書いてありますが、それでも購入して聴こうと思った作品のサントラだから、それなりには愛着があります。完全な形で聴けないというのは悲しいですね。

 主題歌に関しては現在はいくつかのオムニバス盤に収録されているので聴くのはそんなに困難ではなくなりましたが、以前は主題歌すらCD化されてない期間が長くありました。それを埋めていたのがコロムビアから発売されている『松本零士の世界』に収録されてる主題歌のカバーバージョンでした。
 カバー版の「コスモス・ドリーム」を歌っていた成田賢さんは先日亡くなられてしまったとのことで、ここでも時間の流れというのを痛感します。

 基本的には自分が気に入って影響を受けたサントラだから他の人にも聴いてほしいってものを中心に取り上げていますが、どちらかというと人に薦めようとは思わないアルバムでもこの連載では取り上げることもあります。それはそれで何らかの影響を受けたアルバムです。次に聴くアルバムの選択に影響を与えるということで、それはそれで個人的に意味の持ったアルバムということになります。今回はそんなアルバムの一つでした。

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(記事初出 ニフティサーブ・アニメフォーラムマガジン館 95.02.13)

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サントラ盤はいかんともしがたいので、とりあえす主題歌の収録アルバム。
成田賢かおりくみこによる主題歌のカバー曲。現行商品として入手容易なのはこれくらい。
松本零士の世界


オリジナルのOPとEDが両方入ってるので、比較的入手しやすいのはこれくらいかな。
みんなのテレビ・ジェネレーション アニメ歌年鑑1981

*1:富野由悠季の時代とか、宮崎駿の時代とか、押井守の時代とか……一般にアニメ界の中だけで見るとそういうアニメ作家の名前が並んできますけど、もっと社会全般の視野で見ると松本零士の次は鳥山明の時代のような感じがしますね。(1995年の視点から見ると)宮崎アニメも一時トレンディーな存在でしたが、鳥山明作品ほどの社会への浸透は無かったのではないでしょうか。(こういう視野からのアニメ評論を読んでみたい気もしますが……暴論かもしれないけど)

*2:松本零士の新竹取物語1000年女王 TVシリーズ音楽編』(C25G-0111 81.09.-- ¥2,500)
今に至るもアルバムそのものはCD化されていません。『松本零士音楽大全』に抜粋(ボーカル曲全曲とBGM数曲)で収録されているだけです。

*3:廉価版のCD発売時には割愛される場合も多いのですが、当時のサントラ盤の多く、特に「交響組曲」とか「交響詩」とか名乗ってるアルバムには一曲一曲ちゃんと楽曲解説が付いていたので、それが無いのは不親切なように感じました。

*4:謡曲メーカーとしては山口百恵への楽曲提供などで有名なわけですが、こと強く印象に残ってるのは宇崎氏が自ら率いていたダウン・タウン・ブギウギ・バンドの「港のヨーコ・ヨコハマ・ヨコスカ」ですので。

*5:その後、単独で『ファイブスター物語』や『女神候補生』の音楽も手がけてらっしゃいますが、むしろ近年はハープ奏者としての活躍のほうが有名でしょう。スタジオミュージシャンとして数々のサントラ盤などに参加されている他、ヴァイオリニストの川井郁子さんのコンサートの伴奏なんかもされています。

*6:声優のアルバムはむしろコロムビアやキングの方が早かったと思いますが、キャニオンの場合は結構売り方が特徴的ですね。声優の一般タレント化は昨今のセラムン声優以降に目立って来ていますが、高橋美紀さんをあの時期にああいう売りかたをしていたのは画期的でしたし、現在(1995年)でも井上喜久子さんのアルバムはかなり個性的ですし……