アニメ音楽年代記

サントラ盤を中心としたアニメ音楽の昔話

宇宙戦艦ヤマトⅢ

1.交響組曲 宇宙戦艦ヤマト

 現在のところヤマト最後のTVシリーズとなっている『宇宙戦艦ヤマトⅢ』ですが、その数カ月前に劇場公開された『ヤマトよ永遠に』とは全く傾向の違う作品でした。第1作の原点に帰るというフレーズをしばしば耳にしたように、作品を重ねる毎にスケールアップしてきた前作までとは違って、ある程度ヤマトの航海そのものに焦点をあてたような作品でした。
 音楽もパイプオルガンを使ったり、シンセサイザーを正面に持ってきたようなわざとらしい音楽ではなく、オーソドックスな作りだったと思います。新録曲もたくさんありますが、パート1のBGMが久し振りに使われていたり、『交響組曲 宇宙戦艦ヤマト』の「序曲」後半部や「明日への希望」「スターシャ」などこれまで劇中には使用されていなかった曲が劇伴として使われていたりと、音楽的にはバラエティに飛んでいました。
 サントラ盤は第1作に倣ってか、『交響組曲 宇宙戦艦ヤマトⅢ』*1として出されましたが、特にアルバム用にシンフォニック・アレンジされたような曲は見当たりません。*2

  A1.THE SUN 太陽のシンフォニー
   2.ヤマト新乗組員のテーマ
   3.ガルマンガミラス
   4.LOVE
   5.第18機甲師団
   6.ボラー連邦

  B1.シャルバート星
   2.デスラーズ パレス
   3.ルダ王女のテーマ
   4.ルダ王女の恋
   5.ガルマンガミラスの戦い
   6.ボラー連邦(ギター・ソロ)

 A1はこの作品のメインテーマである太陽のテーマです。イントロダクションの後、前半部は穏やかな恵みをもたらす母なる太陽のイメージ。川島和子さんのスキャットが、第1作の「無限に広がる大宇宙」に匹敵するように素晴らしく響きます。後半部は核融合異常増進を起こした脅威としての太陽。低音のブラスの音がその不気味さをどことなくもの悲しげに奏でています。
 作品中では後半部とそのバリエーションが多用されていましたが、スキャットとピアノの音が美しいハーモニーを奏でる前半部は初期に僅かしか使われていないのが寂しいですね。

 A2はこの作品からヤマトに配属された少年宇宙戦士訓練学校の卒業生たちの初々しく意気盛んな活躍振りを表した曲です。かなり本格的なマーチ曲として作られている曲で、力強さというものが実感できます。

 A3はシリーズ前半でヤマトの前に立ちはだかった、強大な軍事国家ガルマンガミラス帝国のテーマ曲です。シリーズ後半はむしろヤマトの味方としてデスラー総統のイメージが前面に出た音楽傾向が見られますから、どちらかというと東部方面軍ガイデル提督の強大な軍事力を表した曲と言えます。特にガイデル提督の機動要塞がヤマトを捕獲するシーンの緊迫感を非常に高めていた曲でした。

 A4は愛のテーマというわけですが、従来のヤマトのように作品の前面に押し出したテーマとしての愛ではなく、戦いの合間にひととき花を咲かせるほのかな恋愛感情を描いた音楽ですね。前半は惑星ファンタムの穏やかな自然を表すのにも使われていましたし、後半はしばしば相原と晶子の恋を奏でていました。音楽的にも大上段に構えたものではなく、ピアノやギターを主体にイージーリスニングっぽく作られています。そういう意味ではヤマトという作品を離れても単独の音楽としてなりたつような感じですね。しかし、この作品の愛のテーマというと、もっと頻繁に使われていた曲*3があるような気がするのですが、レコード化はされていないみたいですね。
 聴けばいかにも宮川泰氏らしい音楽ではあるのですが、それでいてヤマトらしくはないという不思議な曲です。

 A5はガイデル提督麾下のダゴン将軍率いる第18機甲師団のタイトルが付けられていますが、実際にはダゴン艦隊のテーマとしては使われていたような記憶はなく、むしろ惑星ファンタムの調査にヘルマイヤー少佐が派遣されてくるシーンの印象が残っていますね。明るく軽快な曲なので、やはり悪役のダゴン将軍よりもシリーズ後半のガルマン帝国の活躍を表すほうが似合っている気がします。

 A6はガルマン帝国と銀河系を2分するボラー連邦のテーマですが、これまたシリーズの初期と後半とではイメージが変わっているのですね。当初はガルマン帝国の侵攻の前に傷ついたラジェンドラ号の痛々しい戦いをもの悲しげに奏でていたのですが、そのうちに銀河の覇権を目指す冷酷なボラー連邦を表す不気味な音楽に感じられるようになりました。音楽そのものはスラブ音楽、それもコサックの舞踊音楽を下敷きにしているようです。
 ボラー連邦自体、旧ソ連をモデルにした国家ですから、こういう露骨な音楽表現にはどこか抵抗を覚えてしまうのも確かですが、その反面、エスニックな音楽はどこか新鮮なものを感じさせてくれたのも事実です。

 B1はシャルバート星のテーマですが、どちらかというとマザーシャルバートやシャルバート信仰を表した曲と言えるでしょう。A1に引き続きこれまた川島和子さんのスキャットの映える曲ですが、より具体的な音楽でありながら神秘的であり、祈りの対象を神々しく奏でています。それでいて現実の宗教臭くないのは、すでにヤマトという世界が確立されているからでしょうか。

 B2はガルマンガミラスを統一したデスラー総統に関するテーマ音楽をまとめあげた曲になっています。冒頭部はデスラーズパレスに君臨するデスラー総統の登場のモチーフ。そしてガルマン本星にデスラー総統を訪れるヤマト乗組員の回想や、デスラーのスターシャへの想いなどを綴った音楽が展開されていきます。
 最後に強大な軍事国家の指導者としての現実を表すフレーズで閉じられますが、このアルバムの中では唯一交響詩的な広がりを感じさせる曲です。

 B3はシャルバート星の後継者であるルダ王女のテーマですが、ピアノを主体にしたメロディーが軽やかに奏でています。ほとんどシリーズのラスト近くになってからの登場なので、そう使用頻度の高い音楽ではないのですが、惑星ファンタムでの登場シーン、スカラゲック海峡星団でシャルバート星への招待を告げる場面など、要所で印象に残る曲です。

 B4はルダ王女と揚羽の恋を描いた曲ということのようですが、実際にはシリーズ打切りのために恋愛はほとんど展開せず、どちらかというと最終話で揚羽機をルダ・シャルバートが手招きしているシーンの音楽の印象が強いですね。*4

 B5はガルマンガミラスのテーマをブラス主体の軽快なアップテンポの曲にアレンジしたものですが、やはりガルマン帝国のイメージとは合わないのか、あまり使用されていたような感じはありません。印象的なのはバーナード星で新反射衛星砲の攻撃シーンに使われていたところぐらいでしょうか。しかし、この時は非常に緊迫感が現れていたようです。ただし、ガルマン帝国側のテーマというよりガルマンと戦うヤマトのテーマと言う感じがして複雑ですね。

 B6はA6をギターソロにアレンジしたものですが、この頃のヤマトのアルバムはむやみやたらとギターソロの曲が入っているようで、あまり関心を持ちませんでした。演奏は良いのですが、曲そのものには興味が無かったという所です。

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2.交響組曲の終焉

 このアルバムが『交響組曲』として出されたという意図がよくわからないんですね。第2作以降のヤマトのサントラ盤は取り立ててそういう名乗りをしていないし、このアルバム自体、全面的にシンフォニーアレンジされているアルバムでもないわけですし。シンフォニー盤を名乗るのなら『ヤマトよ永遠に』の2枚目の音楽集のほうが遙かにふさわしいでしょう。

 当時のコロムビアのラインナップから見ると、ただのサントラ盤が『交響組曲』を名乗っていたりするのは珍しくも無いのですが、ヤマトといえば最初の『交響組曲 宇宙戦艦ヤマト』の印象が強いために、このアルバムは中途半端なものにしか感じませんでした。
 こうした『交響組曲』を詐称するアルバムの氾濫も、元はと言えば『交響組曲 宇宙戦艦ヤマト』のヒットに原点を発するものですから皮肉なものです。一方でキングレコード辺りがサンライズ作品を中心にBGM収録のサントラ盤を多くリリースし始めていた時代ですから、内容を問わず交響組曲交響詩組曲などを名乗ったアルバムというのは既に時代遅れだったような感があります。

 ヤマト自体、このアルバムの少し前に念願のBGM集が発売されているくらいですから、『交響組曲 宇宙戦艦ヤマトⅢ』というアルバムがちぐはぐな感じをファンに抱かせたことは否めないでしょう。

 これ以降、コロムビアでも最初から『交響組曲』を名乗るようなサントラ盤は次第に無くなっていきますが、この『交響組曲 宇宙戦艦ヤマトⅢ』というアルバムがその終焉期の侘しさを現しているようで、何となく複雑な気持ちがします。
 もちろん、『交響組曲』を名乗るアルバムは、その後も現在に至るまで存在していますが、文字通り既成のアルバムのシンフォニーアレンジ盤としてレコード会社の商品ラインナップの中に組み込まれて行き、そして一時の粗製濫造のような商品展開も現在では遙か過去のものとなっています。
 ある意味ではこれが本来のサントラ盤の作り方だと言えますが、反面、BGMをそのまま集めただけのアルバムこそ氾濫したものの、シンフォニー盤という大義名分の下に手間暇かけたアルバムが少なくなってきたことも事実のように思えますね。そしてシンフォニーを味わうことができるアルバムも絶対的に減ってきたようです。
 この時期のアルバムに慣れ親しんできた身にとって、今もシンフォニー盤には特別な感情を覚えてしまいます。ここ数年は新譜のシンフォニー盤には触れる機会がありませんでしたが、昨年(94年)は偶然2枚のアルバムに出会うことができました。『機動戦士Vガンダム』のモチーフを使った千住明氏の『交響組曲第2番 THOUSAND NESTS』、そして『交響詩 美少女戦士セーラームーンR』。
 前者はアニメ作品の枠を取り去って音楽の世界だけを昇華させたアルバム、後者は既成の音楽から離れて作品そのものの世界を新たな音楽で展開させたアルバムとして、それぞれかつてのサントラ盤の範疇でしかなかったアルバムたちと比べると、なかなか興味深いものがあります。これらについては、また別の機会に。

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3.『交響組曲』の未収録曲について(2018年補足)

 当然ながら劇中で印象深かった曲なのに『交響組曲』には入ってない曲は多いわけで、バーナード星で新反射衛星砲の攻撃受けてるところの戦闘曲*5とか、次元潜航艇の登場シーンの音楽*6とか、最終回の土門がハイドロコスモジェン砲を治そうと甲板に飛び出していくシーンの戦闘曲*7とか、あるいは惑星ファンタムで第2の地球の光景に安らぐシーンの音楽*8とか。

 ま、それらは後に『BGM集』*9が発売されて聴けるようになるわけですが、ここにちょっとトラブルが。「静かなる戦い」と「バーナード星の戦闘」がモノラルなのは当時は音源が見つからなかったそうなので仕方がありません。(ETERNAL EDITIONには収録されず、YAMATO SOUND ALMANACではステレオで収録されています)
 ただ、1995年発売の旧版の『BGM集』ではこの2曲が入れ替わって収録されていて、新反射衛星砲の曲に「静かなる戦い」、次元潜航艇の曲に「バーナード星の戦闘」と付けられていました。2000年代の再発売版では正しい収録順に直されているようです。(新反射衛星砲の曲の方が「バーナード星の戦闘」)

 旧版の『BGM集』しか持っていない人は、曲が入れ替わってるということと、あとYAMATO SOUND ALMANACシリーズのBGM集*10ならちゃんとステレオで聴けるということを知っておいてほしいと思います。 

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(記事初出 ニフティサーブ・アニメフォーラムマガジン館 95.01.24)

 

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YAMATO SOUND ALMANAC 1981-Ⅰ「交響組曲 宇宙戦艦ヤマトⅢ」


オリジナルBGMコレクション 宇宙戦艦ヤマトⅢ


ETERNAL EDITION File No.7 「宇宙戦艦ヤマトⅢ」


YAMATO SOUND ALMANAC 1981-Ⅱ「宇宙戦艦ヤマトⅢ BGM集 PART1」


YAMATO SOUND ALMANAC 1981-Ⅲ「宇宙戦艦ヤマトⅢ BGM集 PART2」

*1:『交響組曲 宇宙戦艦ヤマトⅢ』(CX-7015 81.02.25 ¥2,500)
現在はYAMATO SOUND ALMANACで出ているものが入手しやすいでしょう。(COCX-37397 13.01.23 ¥2,500)

*2:厳密に言えば劇伴そのものとは別テイクとかはあるでしょうが、アルバムのための目立った特別な作曲はされていないということです。

*3:『交響組曲』の「LOVE」の後半部分はギターとピアノのソロによって奏でられていますが、劇中で使用されているオーケストラバージョンは後に発売された『BGM集』に収録されました。

*4:『交響組曲』に収録の「ルダ王女の恋」の後半部分の出だしのフレーズはバイオリンの演奏で始まっていますが、実際に使われていたのは『BGM集』等に収録されている同じ出だしのフレーズをピアノで演奏しているものです。

*5:曲名は「バーナード星の戦闘」

*6:曲名は「静かなる戦い」
…作品中では次元潜航艇よりずっと早く、第2話でアルファ星がダゴン艦隊の攻撃を受けるシーンに使われていますが。

*7:曲名は「FIGHTⅠ」

*8:曲名は「つかの間の安らぎ」
…『完結編』でアクエリアスのワープ阻止に一瞬だけ成功したシーンに使われていたのが印象深いです。

*9:『オリジナルBGMコレクション 宇宙戦艦ヤマトⅢ』(COCC-12873 95.09.21 ¥2,700)

*10:『1981-Ⅱ 宇宙戦艦ヤマトⅢ BGM集 Part1』(COCX-37398 13.09.18 ¥2,500)
『1981-Ⅲ 宇宙戦艦ヤマトⅢ BGM集 Part2』(COCX-37399 13.09.18 ¥2,500)
1枚目には第17話のガルマン・ガミラス本星までの音楽、2枚目には第18話のフラウスキー少佐による太陽制御作戦失敗以降の音楽が入っています。