アニメ音楽年代記

サントラ盤を中心としたアニメ音楽の昔話

宇宙海賊キャプテンハーロック

1.交響組曲 宇宙海賊キャプテンハーロック

 キャプテンハーロックというキャラクターは松本零士氏がいろいろな作品の中で様々に描いて来たもので、松本キャラの筆頭に挙げられるものでしょう。ただ黙して立っているだけで圧倒的な存在感を持つ、アニメ史上でも最も特異なキャラクターとして燦然と輝く存在といえます。
 そのハーロックが初めてフィルムに登場したのがこの『宇宙海賊キャプテンハーロック』でした。*1
 ・・・などと書いていますが、実はこの作品を当時は見ていなかったのです。再放送時にとびとびに少し見ていた程度で、もちろんサントラ盤を聴いたりはしていません。近年になって中古レコード店でCDを見つけて聴き出したと言うのが正直のところです。

 当時出ていたサントラ盤はヤマトの例に倣って交響組曲*2という形でしたが、楽曲の構成やオーケストレーションの面ではかなり本格的に作られている感じです。

  1.序曲 ~果てしない宇宙の海~
     メインテーマと宇宙の広がりを表わす導入部。
  2.海賊船 ~戦闘への船出~
     アルカディア号のテーマ。
  3.愛 ~愛、そして平和への祈り~
     愛のテーマ。
  4.惑星 ~全能なるマゾーンと女王ラフレシア
     マゾーンのテーマ。
  5.楽園 ~41人の海賊と猫と鳥と~
     アルカディア号艦内のやすらぎの音楽。
  6.戦闘 ~戦うハーロックアルカディア号~
     侵略と戦闘の音楽。
  7.寂光流離(さすらい) ~悲しみ、怒り、そして旅立ち~
     ハーロックの心情。
  8.終曲 ~歓びの讃歌~
     勝利の讃歌。

 全体を通して幾つかのテーマを共通モチーフとして使っていて、各楽曲ではそれらと個別のテーマとの組み合わせにより音楽が作られています。ライナーノーツでは
  ① 宇宙の海のテーマ
  ② マゾーン・悪のテーマ
  ③ 海賊船アルカディア号のテーマ
  ④ 愛と友情のテーマ
  ⑤ 勝利の歓びのテーマ
の5つが挙げられていますが、よく耳につくところでは、①~③が多用されているようです。特に①はこのアルバムのメインテーマとしてしばしば用いられています。
 この『キャプテンハーロック』の劇伴の作曲者は横山菁児*3で、一方、主題歌の作曲者が平尾昌晃氏*4ということで、主題歌のモチーフはあまり多用されていませんが、それでも1コーラス用いている箇所や、要所で効果的に使われていて印象的です。

 「序曲」は①のテーマが最初と最後に現われていて作品の導入曲として作られているようです。シンフォニーならでの雄大な①のテーマがくり返し奏でられることによって、この作品の音楽世界に引き込まれることになります。ただ、間に挟まれている幾つかのテーマが極めて印象薄く、また楽曲全体としての統一感に欠けるため、この「序曲」のイメージよりも①のテーマのイメージの方が遥かに上回ってしまっているのです。
 これは『ヤマト』のように既製の劇伴のイメージから新たにアレンジした曲ではなく、劇伴製作と並行して作られている状況からはしかたのないことなのでしょうけど、当時の《サントラ盤==シンフォニー盤》という形で出されたアルバムに共通する欠点と言えます。

 「海賊船」は③のテーマが主体となった曲ですが、冒頭部のところは、アルカディア号の登場のイメージを表わした感じとしては、なかなか颯爽とした展開*5で聴かせてくれます。この感覚は後の劇場版『銀河鉄道999』の青木望氏の音楽や『わが青春のアルカディア』の木森敏之氏の音楽にも引き継がれているようで、どの作品の音楽を聴いてもすぐにアルカディア号をイメージできますね。その冒頭部に続く③のテーマは、このアルバムでは一番軽快なテーマなのですが、間に挟んだ主題歌のテーマが幾分重厚で、楽曲全体に重みを添えています。

 「惑星」は②のテーマのオンパレードですね。様々な形にアレンジされた②のテーマが楽曲全体に展開されています。マゾーンの恐怖、強大さ、悲壮感などを巧みに展開していて、このアルバムの中でも一番重厚な楽曲に仕上がっていますね。もっとも、一番最後に出撃シーンの音楽が入っていることで、この曲が持つテーマ性が若干弱められてしまっているような感じもします。

 「戦闘」の前半部は②のテーマを組み込んでマゾーンの圧倒的な侵略の様子を奏でていますが、後半部は①~③のテーマを組み合わせ、畳み掛けるようなハーロックの戦いぶりの音楽に仕上がっています。この辺りは、やはり『わが青春のアルカディア』の木森氏の音楽に共通するものが感じられますが、後の作品を担当する人は前任者の仕事を意識しているのでしょうか。

 全体的には非常にバランスのとれたアルバムですので、『宇宙海賊キャプテンハーロック』という作品の看板を外しても、これ単独で楽しむことができるアルバムになっています。機会があれば一聴を薦めますね。

----------------------------------------------------------------------
2.宇宙海賊キャプテンハーロック BGM集

 後にコロムビアで旧作TVアニメのBGM集がいろいろと出されるようになりましたが、この作品のBGM集*6もその時期に発売されています。
 ただし、もともと『交響組曲』自体が劇伴素材として録音されていたためか、新たに製作されたBGM集に収録された音楽は主題歌、挿入歌およびそれらのインストゥルメンタル曲、それに未収録BGM集と言う感じでしかありません。『交響組曲』未収録のブリッジ、予告編音楽等のルーチン的なもの以外は馴染みの薄い音楽が多く、『キャプテンハーロック』の音楽世界を表わしたものとは必ずしも言えないところが難点でしょう。
 作品中で印象深く使われていたオカリナの「まゆの子守唄」が『交響組曲』に入らず、このBGM集でしか聴けないとかいうことはありますが、BGM集ゆえの散漫な構成に加え、馴染みの薄い曲が多いと言うのは致命的な欠点であり、コレクター以外には聞きづらいアルバムであることは否めません。

 TVアニメのBGMに大編成のシンフォニーを使ったものは『ヤマト』以降でも、そう無いと思われますが、そのことを考えると『キャプテンハーロック』という作品はアニメ音楽史上でも特筆すべき作品なのかもしれません。
 ただし、当時は一部の作品を除いてアニメのステレオ放送などされていない時代ですし、通常の劇伴と比べてどれだけの効果があったかは不明です。それよりも画面が音楽に負けてしまっていたのではという心配もあるのですが、こればかりは実際に作品を見てみないと何とも言えませんね。

----------------------------------------------------------------------
(記事初出 ニフティサーブ・アニメフォーラムマガジン館 94.11.03)

f:id:animepass:20180618015255j:plain


『交響組曲』と『BGM集』は廉価盤が現行商品として出ているので入手は容易です。
〈ANIMEX 1200シリーズ〉(3) 交響組曲 宇宙海賊キャプテンハーロック
〈ANIMEX 1200シリーズ〉(3) 交響組曲 宇宙海賊キャプテンハーロック
〈ANIMEX 1200シリーズ〉(17) テレビオリジナルBGMコレクション 宇宙海賊キャプテンハーロック
〈ANIMEX 1200シリーズ〉(17) テレビオリジナルBGMコレクション 宇宙海賊キャプテンハーロック
宇宙戦艦ヤマト』のシリーズとは違って、ハーロックの『ETERNAL EDITION』は再発売等はされていないようなので、中古市場で高騰化してしまってるのは残念です。
宇宙海賊キャプテンハーロック ETERNAL EDITION 1&2
宇宙海賊キャプテンハーロック ETERNAL EDITION 1&2

*1:それ以前、『宇宙戦艦ヤマト』の39話分の初期プロットで後半部にハーロックの登場が設定されていましたが、26話打ち切りになって実現しなかったというのは有名な話ですね。

*2:『交響組曲 宇宙海賊キャプテンハーロック』(32C35-7662 85.12.21 ¥3,200)※CD

*3:不勉強ながら『宇宙海賊キャプテンハーロック』以外はよく知りませんが、後に『聖闘士星矢』の音楽を担当されていますね。元記事を書いた時に『マーチ組曲 恐竜戦隊コセイドン』とか『ジャズ組曲 炎の超人メガロマン』『闇の帝王吸血鬼ドラキュラ』『交響組曲 超人機メタルダー』等のお薦めを頂いたのですが、『闇の帝王吸血鬼ドラキュラ』以外は後にCDで再発売されていますが、今となっては中古を探すしか……。特撮系の作品が多い人みたいです。

*4:謡曲のヒットメーカーで、アニメソングも多くのものを担当されていますね。『銀河鉄道999』、『宇宙空母ブルーノア』等々。女優の畑中葉子さんとのデュエットで「カナダからの手紙」なども歌ってらっしゃいましたし。

*5:最初、どこかで似たような感じの曲を聴いたことがあるなと思ったら『ゴジラVSビオランテ』の「スーパーX2」の冒頭部と雰囲気が似ていました。このアルバムにはあと1ヵ所、「ビオランテ」と似ている箇所もありましたし……はて?

*6:『テレビ・オリジナル・BGM・コレクション 宇宙海賊キャプテンハーロック』(28CC-2294 88.05.21 ¥2,800)※CD
 これに未収録のBGMは後に『松本零士音楽大全』(GES-31170~79 00.05.28 ¥50,000)や『宇宙海賊キャプテンハーロック ETERNAL EDITION FILE No.1&2』(COCX-31697~8 01.11.21 ¥3,800)で商品化されています。