アニメ音楽年代記

サントラ盤を中心としたアニメ音楽の昔話

銀河漂流バイファム

1.銀河漂流バイファム 音楽集

 この83年当時のTVアニメと言うと、マクロスの後を受けて超時空シリーズ第2弾をうたった『超時空世紀オーガス』とか、ロボットアニメにファンタジーの世界を取り込んだ『聖戦士ダンバイン』とか、マクロスのヒットにあやかったのかロボットアニメ作品が元気でした。
 その中でちょっと毛色の変わった作品が『銀河漂流バイファム』でした。他の作品がリアリティを追求せんがために大人のキャラクターを主役にしていこうとする中で、この作品の主役は13人の子供たちだったのですね。
 練習艦ジェイナスに乗り込んでククトニアンからの攻撃を防ぎ、生き別れになった親たちを求めて宇宙を漂う13人の不安、希望、喜び、悲しみを奏でてくれたのが渡辺俊幸氏の音楽でした。

 渡辺俊幸氏というと『バイファム』以降の作品は『ボスコアドベンチャー』と後はアルバムで『ふぁんたじあ』『交響詩 美少女戦士セーラームーンR』辺りしか馴染みが無いのですが、『バイファム』の音楽の印象は非常に強く残っていますね。*1
 東映の特撮番組とか『マジンガーZ』等の音楽を手掛けられている渡辺宙明氏のご子息に当たるわけですが、独特の宙明節に彩られた音楽世界を創る宙明氏と比べると、どちらかというとオーソドックスな音楽の傾向が感じられますね。しかし、血は争えないのか、ブラス系のアクションサウンドには特に魅力的なものが感じられます。

 『バイファム』という作品、本放送で見たきり、10年以上も全く見る機会がありませんでしたので*2、細かいところなんかは全部忘れてしまっていますから、これまでの他の作品のように詳しいことは書けませんけど、いつものようにアルバム収録曲を順に追って行きましょう。
 まずは1枚目のサントラ盤からです。*3

   A1.宇宙空間(星々のテーマ)
    2.疑惑(サスペンス)
    3.HELLO,VIFAM
    4.ほ・ほ・え・み
    5.探索
    6.異星人

   B1.バイファムのテーマ
    2.きみはス・テ・キ
    3.戦闘(まえぶれ)
    4.鎮魂歌(レクイエム)
    5.希望
    6.NEVER GIVE UP
    7.銀河漂流

 A1はバイファムの舞台となる宇宙空間を表わした音楽ですね。前半部分は幽玄に広がる宇宙の星々のきらめきを奏でているかのように静かで優雅な曲をバイオリンが奏でています。
 後半は子供たちだけで宇宙をさすらう不安感が織り成す不気味な感じをピアノとブラスが奏でています。作品の舞台背景を的確に感じさせてくれる音楽ですね。

 A2の前半はA1の前半と同じモチーフを用いて、敵の罠が潜んでいるかも知れない宇宙空間を疑心暗鬼で進んで行く緊迫した光景を描いている曲です。本編でもしばしば使われていたBGMだと思いますが、不気味さの中で空間の広がりを感じさせてくれる音楽ですね。
 中間部は低音系の楽器がスローテンポの曲で不気味さを感じさせてくれます。そして後半はテンポがあがってやや高音系の楽器が緊迫感のある音楽を奏でています。ややアドリブがかったサックスが不気味さを感じさせてくれますが、どちらかというと単に緊迫した感じを強く感じさせてくれる曲ですね。

 A3はTAOによるオープニングテーマです。オール・イングリッシュの歌詞は当時は大きな話題になりましたが、今から振り替えるとやはり時代と言うものを感じますね。

 A4はジェイナス艦内での日常生活の場面に使われていた曲ですね。子供たちだけの艦らしいコミカルな場面とか、あるいはフレッドとペンチのほのかな恋とか、そういうシーンを思い出させてくれる音楽です。

 A5の前半も引き続きジェイナス艦内の描写を思い浮かばせてくれる曲です。艦内でのトラブル等でその原因を探っている様子などをややコミカルに描いていますね。
 中間にシンセを使ったME的な曲が入っています。
 後半は緊迫したリズムとともに、今度は宇宙空間での敵との遭遇の気配を感じさせる曲が入っています。それほど大きな編成を使っているとは思わないのですが、この辺のシンフォニックな広がりを感じさせてくれるところに渡辺氏らしさが感じられますね。

 A6はいよいよククトニアンとの接触という感じの緊迫した曲が続きます。前半は徐々に敵が接近してくるという感じの音楽ですが、後半はいよいよ敵の襲撃を受けているという非常に息詰まる展開を感じさせてくれます。ジェイナスがベルウィック星を離れてククト星にたどり着くまで、何回この音楽が聞かれたことでしょうか。

 B1は「HELLO, VIFAM」のオーケストラ・バージョンです。TAOの原曲をブラス系主体にアレンジしてあるのですが、テンポが小気味よく、非常に雄大さを感じさせてくれるアレンジになっていますね。
 いよいよ主役メカの登場ということで盛り上げてくれます。ただ、終わり方がそっけないかなという感じがするのが物足りないのですが。TAOの歌を聴いただけではあまりアニメ作品のテーマ曲らしさは感じられないのですが、この曲を聴くと一遍にイメージが変わってしまいますね。

 B2は戦いの中の安らぎの曲という感じですね。戦闘を終えたロディやバーツたちをやさしく迎えてくれるジェイナスと仲間たち。あるいはスコットとクレアのシーンなんかも思い出させてくれます。

 B3の前半は敵の接近を受けてジェイナスが戦闘配備につく辺りの緊迫感を感じさせる曲です。そして中間部は敵の攻撃にさらされ、危機に陥るような感じかな。緊迫感ここに極まれりという感じのボレロ調の曲です。
 後半は一転して、どうにか戦いで生き延びたジェイナス、あるいはバイファムたちを描いている音楽ですが、いわゆる勝利のテーマというような感じの曲ではなく、どこか物悲しい、戦いの虚しさを感じさせてくれる静かなストリングス系主体の曲になっています。

 B4はよくはわかりませんが、雰囲気的にはケイトさんが行方不明になった回とか、それを悲しむロディやカチュアの描写に使われていたのかなと思います。なまじ主人公側のキャラクターが限られているだけに、こういう曲が使われる機会は限られていたわけですから、その点ではかなり効果的に用いられた曲かなという感じがしますね。

 B5の前半は絶望の中でわずかな情報を希望に、明日に向かって進んで行こうとする13人の子供たちの決意が感じられるような曲です。戦いの後でつかんだわずかばかりの希望を頼りに、ジェイナスの進路を決めるような場面を感じさせてくれる優雅な感じの音楽ですね。
 後半は一転して明るいポップな感じの曲ですが、戦いを離れて希望に胸を膨らませている子供たちの様子が思い浮かびます。他にも日常シーンで比較的頻繁に使われていた曲のように思います。

 B6はTAOによるエンディングテーマですが、個人的にはあまりバイファムには合っていなかったように思います。

 B7の前半は雰囲気的には戦いの後の安らぎの音楽という感じなのですが、よくわかりません。後半はどちらかというとスコットが航海日誌を付けている時のBGMのような感じがしますね。バイファムの世界らしい広がりの感じられる良い曲です。

 この1枚目の音楽集は、音楽を追って行くだけでもストーリーが作れそうな、非常にオーソドックスな構成になっているので、1枚通して聴き易いアルバムだと思いますね。普通、1枚目のサントラはこういう感じであって欲しいのですが、そうでないものが多いですからね。

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2.銀河漂流バイファム 音楽集Vol.2

 この『バイファム』という作品はワーナー・パイオニア*4が本格的にアニメ作品のアルバムを手掛けた最初の作品だと思いますが、それにしては結構卒ないサントラを出してくれたので、2枚目のサントラ*5にも期待が持てました。

   A1.君はス・テ・キ
    2.行動派
    3.悲しみ色
    4.星々の友情
    5.潜む影
    6.不退転の決意

   B1.惑星ククト
    2.ミューラァのテーマ
    3.追撃戦
    4.謎の遺跡
    5.闇からの脱出
    6.THE ASTRO ENEMY (ミューラァのテーマ)
    7.讃歌~明日へ

 A1は1枚目のよく似たタイトルの曲とはまったくの別曲ですが、バイファムの世界によく似合ったイメージソングですね。*6

 A2はシリーズ前半の終始受け身に立って戦うバイファムたちではなく、自分たちの目標の前に積極的に作戦行動に移って行く雰囲気を感じさせてくれる曲です。特に前半の派手なプラス系の曲はそうですね。
 舞台をククト星系に移してから使われ出した曲だと思いますけど、まさに主役の格好良さと力強さを感じさせてくれます。地球軍の新兵器トランファムの登場シーンにも似合いそうな感じもします。

 A3はどちらかというと13人の中で一人だけククトニアンだったカチュアの不安とか寂しさ、悲しみを現した曲かな。後半はミューラァにも使われていたような感じもしますが。

 A4の前半は戦いが終わって、互いの友情を確かめあっているような感じの曲です。カチュアとロディの仲直りとか、そういうシーンが似合っていそうです。後半は少しコミカルな感じの曲調で、ジミーとカチュアとか、侵入して来たククトニアンの子供たちとか、そういうシーンが思い浮かびそうです。

 A5は低音の弦が奏でる重く漂う感じの曲。敵が潜むかもしれない空間を警戒しながら進んでいく、そんな感じのサスペンス曲。後半はややリズミカルに斥候や待ち伏せの準備中といったイメージです。

 A6はククトニアンからの攻撃に反撃していくシーンとか、逆に敵側の根拠地に襲撃をかけるシーンに使われていた戦闘テーマですね。A2なんかと比べると奇麗事を抜きにしたシビアで緊迫感のある曲です。

 B1はククトニアンの本拠地ククト星の音楽ですけど、いわゆる敵の星というようなものじゃなくて、あくまで作品の舞台として、13人の前に見せる様々な側面のククト星を表わす曲を集めたものですね。
 とくに前半部のきれいな曲はむしろ安らぎを感じさせる音楽になっています。中間部はリズム楽器主体のテンポのある曲で、敵地に侵入した緊迫感を感じさせます。後半は得体の知れない不気味さを表わしています。

 B2は地球人とククトニアンとの間に生まれたミューラァのテーマ曲ですが、シンセ主体の寂しく物悲しい感じのする曲になっています。ククトニアンの社会で生きていく上での彼の不幸がどことなく感じられます。

 B3も戦闘シーンの音楽ですが、どちらかというとロディたちではなく、地球軍の猛攻シーンに似合いそうな曲ですね。しかし、ククト星編の序盤で大量に出て来た地球軍のトランファムがその後見掛けなくなったように思いますが、ククトニアンに一掃されてしまったのかな。

 B4はよく分からない曲です。少し緊張感があってミステリアスな、そんなシチュエーションの音楽なか。

 B5も戦闘シーンの音楽です。前半は重苦しい感じの悲壮感漂う戦闘という雰囲気のなかで、それを打開しようという力強さの感じられる曲です。後半は一転して軽快な音楽になっています。絶体絶命の危機を乗り越えて死線を脱して来たたくましさと爽快感を描いていて、希望が持てる感じの曲になっています。

 B6はミューラァのテーマのイメージソングですが、ちょっと意図が理解しにくい曲です。

 B7もちょっと良く分からないんですが、イメージ的には各話のラストで使われているBGMを集めたものかと思います。だからトラックでの統一したイメージが無いのがちょっと難点ですね。1枚目の最後の曲も似たようなものだと思いますが、あちらはそれほどアンバランスは無かったですね。
 前半の曲は悲しみの曲なのでタイトルにも合っていないのですが、どちらかというと絶望を感じさせるような気配がありますね。後半はマイナーの弦のフレーズが続きながらも、どこか希望を感じさせるような雰囲気。ラストは一転して軽快な曲ですが、やはりアルバムの最後はこういう希望を残してくれる曲が良いです。

 2枚目のサントラ盤にしては、曲の構成に無理が無いアルバムです。1枚目にしろ、この2枚目にしろちゃんと聴けるアルバムを作ってくれたことで、『バイファム』の音楽とワーナー・パイオニアには期待していたのですが、それもここまで。
 その後のアルバム発売には大いに疑問と不満を感じることがあったので、結局TVシリーズのアルバムは2枚しか買いませんでした。(いくら何でもオリジナリティの無いドラマ編と音楽集を抱き合わせで売ることはないでしょう。恐らくこれはビクター『マクロス』の商品展開を大いに真似ていたのでしょうけど)

 この『バイファム』でカチュアを演じて人気の出た新人声優の笠原弘子が以降ワーナー・パイオニアの看板娘的な存在になり、『究極超人あ~る』のイメージアルバムや初期『機動警察パトレイバー』を経て、ソロアルバムの活動を展開するようになるのですが、これは余談ということで……

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3.メモリアルCD-BOXについて(2021年のあとがき)

 この記事を書いてた時期にちょうど発売されたのが4枚組の『銀河漂流バイファム メモリアルCD-BOX』*7でした。
 当時のこの手の企画商品は未収録音源を発掘したり、曲をM No.毎に分けて並べ替えたり、詳細な解説が付いたり、既存のアルバムとは別のアプローチをしてる商品が多く、このCD-BOXにもそれを期待していたのですが……

 手にとって唖然としたのを覚えています。

 1枚目はボーカル曲を集めたもの。まあ、これはこれでよくある構成なので、とくに構いません。問題は2枚目以降です。
 2枚目は音楽集の1、2からボーカル曲を抜いたものをそのまま並べてあるだけ。3枚目はその後に出た音楽集3とドラマ編の抱き合わせ2枚組アルバムから、音楽集の中のボーカル曲以外とドラマ編の前半をそのまま。そして4枚目はドラマ編の残りと、『“ケイトの記憶”涙の奪回作戦!!』のBGM集から、やはりボーカル曲以外をそのまま並べただけのもの。
 独自のアプローチどころか付加価値も何もなく、ボーカル曲だけ聴きやすいように1枚に集めて、あとは一応全部詰めましたというだけ。元々のアルバムの構成が蔑ろにされてるどころか、中途半端にドラマ編を2枚に分けやがったおかげで、音楽だけ聴くのも面倒臭いというひどい有様。ボーカル曲を1枚にまとめる脳みそあるなら、ドラマ編もまとめて音楽とは別ディスクにしろよと言いたいです。
 正直言って、元のアルバムそのままの構成で5枚組にしてくれたほうが良かったかな。

 文句を言いたいのはブックレットも同じ。新たに解説をつけろとは言わないけど、せめて元のアルバムのライナーぐらいは復刻して欲しいところだけど、これに付いてたのはそんなものじゃなく、アルバム発売当時に販促用に配布していたバイファムニュースをまとめたもので、CD-BOXの収録内容に関するものは一切なし。楽曲の解説もなけりゃ、歌詞の掲載どころか、歌手名さえ記載がないという……
 せめてトラック毎のM No.の構成とか、音楽メモ的なものでも付いてりゃ嬉しかったのですが。

 廉価盤商品じゃないんだから、もうちょっと考えてほしかった物件ではあります。これが初めてのCD化かと思ったら、(ドラマ編が付いてるの以外は)それ以前にCD化はされてたようなので、それもあってこういう商品になったのかもしれませんが。

 とはいえ、25年以上も前の商品に苦情を言ってもねぇ……
 
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(記事初出 ニフティサーブ・アニメフォーラムマガジン館 95.05.22)

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音楽集のCD。定期的に再発売されたりする商品じゃないので、廉価盤が出てたとはいえ90年代後半なので厳しそうです。

銀河漂流「バイファム」音楽集1



銀河漂流「バイファム」音楽集2



CD-BOXはさらに厳しいですね。

VIFAM MEMORIAL

 

*1:その後、平成モスラ三部作の音楽を手掛けられ、東宝怪獣映画の音楽に新風をもたらしたのも今は昔。近年では『シンカリオン』の音楽を手掛けられているようです。(劇場版を見たけど、ゴジラエヴァンゲリオンの音楽と初音ミクっぽい歌しか記憶に残ってないのは内緒)

*2:まさか、その後に『銀河漂流バイファム13』とかいう新作(続編じゃなく、途中のエピソード)が作られるとは思いませんでしたが、その直前に毎日放送でやってた再放送、新作に繋がるところまでやっただけで以降は打ち切りだったのが残念でした。

*3:銀河漂流バイファム 音楽集』(K-10026 83.12.21 ¥2,500)

*4:かつてワーナー・ミュージックとパイオニアの共同出資で作られてた国内メーカー。90年代になってパイオニアが資本を引き上げたため、純粋なワーナーミュージックの国内法人であるワーナーミュージック・ジャパンになって現在に至ります。音楽資産はワーナーミュージック・ジャパンに引き継がれていますが、以降のアニメ作品への関与はパイオニアが新たに子会社として建てたパイオニアLDCの方が活発でした。こちらはその後、パイオニアの本業不振に伴い電通に買収されてジェネオン、さらに外資系に買収され、現在ではNBCユニバーサルへと変わってます。

*5:銀河漂流バイファム 音楽集Vol.2』(K-10028 84.07.25 ¥2,500)

*6:歌っているのはムーヴというグループですが、ジャケットの記載等から白鳥座の別名、まったは一部のメンバーが参加したユニットという説が長年唱えられていたようですが、関係者からは否定されてるようです。

*7:銀河漂流バイファム メモリアルCD-BOX』(WPC6-8098~101 95.04.25 ¥7,767)