アニメ音楽年代記

サントラ盤を中心としたアニメ音楽の昔話

超時空要塞マクロス(TVシリーズ)

1.超時空要塞マクロス

 かつて人類存亡の危機に、その歌声をもって銀河を駆け抜け、地球を守り抜いた一人の少女がいた。伝説のそのアイドル歌手の名は『リン・ミンメイ』。

 TVシリーズ『超時空要塞マクロス』というと、毎週日曜日の午後2時、かかさずチャンネルを4に合わせていましたね。作ったバルキリーのプラモの数は知らず。高校時代に一番はまっていた作品でした。
 当初はF-14もどきのリアルな可変戦闘機と巨人サイズの巨大戦艦の組み合わせというメカニックな要素が魅力に思えていたのに、いつのまにかそれがリン・ミンメイというキャラクターに取って代わられていました。(最初はただの中華街の女の子が、途中で歌手デビューするなんて思わなかったですからね)

 そのミンメイの歌の作曲を含めて、音楽を担当していたのが羽田健太郎氏です。羽田氏と言うと劇場版『宇宙戦士バルディオス』でもシンフォニー・ロックとか称する華麗な音楽を聴かせてくれていましたけど、この頃はまだ『ヤマト』音楽のピアニストという印象が個人的には強かったですね。
 このTV版『マクロス』を経て、翌年の『宇宙戦艦ヤマト完結編』、翌々年の劇場版『マクロス 愛・おぼえていますか』、『さよならジュピター』と立て続けに大作を手掛けられたことにより、否が応でも作曲家として意識することになりますが。

 この『マクロス』のサントラ盤*1を出していたのがビクター音産(現・ビクターエンタテインメント)ですが、老舗のメーカーですからこれ以前にもアニメ主題歌に関しては幅広く扱っていましたけど、本格的にアニメのサントラ盤を手掛けるようになったのは『マクロス』あたりからのような気がします。
 いかに『マクロス』のレコードが売れたかは、今なお『マクロス』のボーカル集CDがビクターの定番商品の中に入っていることからも伺えますね。

  A1.マクロス
   2.運命の矢
   3.涙のバイオリン
   4.小白竜
   5.悲しみのメロディー
   6.待ち伏せ
   7.あ・こ・が・れ
   8.偵察
   9.進宙式
   10.愛は流れる

  B1.ドッグ・ファイター
   2.シルバームーン・レッドムーン
   3.ビバ!ゼントラディアン
   4.悲しき宇宙兵
   5.総攻撃
   6.幼年期の終り
   7.0-G Love
   8.アクション
   9.旅立ち
   10.ランナー


 A1は藤原誠の主題歌ですが、結構『ヤマト』を意識したかのような正統派の主題歌になっています。アイドルソングそのもののミンメイの歌と並べても違和感が無いのは不思議ですが、これは慣れの問題かな。

 A2、6、8、B1、5、8と言ったところが作品中でしばしば使われた戦闘シーンの音楽ですね。特に目立つのがB1で、アイキャッチや次回予告の音楽なんかにも使われていました。戦闘に巻き込まれて行くという雰囲気を感じさせるA2なんかもマクロスらしい曲です。B8は主にトランスフォーメーションの時に使われていた、数少ないマクロス側の景気の良い音楽のひとつです。

 A3、5、B4、6と言ったところは果てしなき戦闘の中での絶望感とか挫折感とか孤独感、やるせなさといった辺りを羽田氏独特のメロディーが巧妙に奏でています。マクロスの音楽と言うと、派手な戦闘シーンの音楽よりもこんな音楽の方が味わいがありますね。

 A4、10、B2、7が飯島真理の歌うミンメイの歌です。「小白竜」は作品中でミンメイ主演で製作された同名の映画の主題歌、「0-G Love」は2枚目のシングルだったかな? 「愛は流れる」は実際に27話*2で使われていたバージョンとは違いますが、フルコーラスでミンメイの歌が聴ける数少ない曲のひとつです。「シルバームーン・レッドムーン」はどちらかというと、劇場版
で輝と美沙が地球に戻ってきたマクロスに帰還した時に街に流れていたシーンが印象的でした。

 A7はこのアルバムでは唯一の日常場面の音楽です。『マクロス』では日常のシーンがきっちり描かれていたのが印象的でした。そのための艦内の街であったわけですけどね。

 A9、B9というところは戦闘シーンを抜きにしてマクロスという艦を描いた音楽という感じの曲です。とくにB9は主題歌のイントロのメロディーが展開されているわけですが、聞き応え十分です。

 B10は藤原誠によるエンディングテーマ。これも最終回は飯島真理バージョンだったんですが。これまた正統派に近いエンディングの作りなんですけど、古さが感じられませんね。

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2.超時空要塞マクロス VOL.Ⅱ

 1枚目のアルバムはBGMに関しては主要曲を網羅しているし、サントラの出来としては良い方だったと思いますが、聴いていて物足りなさを大きく感じてしまいました。なぜならミンメイのデビュー曲である「私の彼はパイロット」が入っていなかったからです。
 幸いにして放映延長が決まり、「私の彼はパイロット」を収録した2枚目のサントラ盤が発売されることになりました。*3

  A1.冥想
   2.ユニバース
   3.EMPTY
   4.私の彼はパイロット
   5.青春の街角
   6.スペクタクル
   7.ゼントラディアン大要塞
   8.ダーティー・ヒーロー
   9.傷
   10.ノスタルジア
   11.メロディアス・愛
   12.スターダスト・メモリー
   13.やさしさ SAYONARA

  B1.SUNSET BEACH
   2.カーニバル
   3.パッション
   4.復興のひびき
   5.潜行
   6.ファースト・コンタクト
   7.ララバイ
   8.鐘のある風景
   9.望郷
   10.ロング・フォー
   11.沈痛
   12.マイ・ビューティフル・プレイス

 未収録BGMを集めてくると、どうしてもアルバムそのものの聴き心地という点では質の低下が起こってきます。正直言って「私の彼はパイロット」がかかるまでが苦しいんですね。
 そんな曲ばかりかと言うと決してそういうことはなく、A9、B6、7、10辺りは羽田氏ならではの美しいメロディーが堪能できますし、A6、7、B3辺りの戦闘シーンの音楽もTVで耳に馴染んだものですから。
 A4、13、B1、12の4曲がミンメイの歌です。「私の彼はパイロット」と「マイ・ビューティフル・プレイス」は前回の未収録曲で、残りの2曲は新録です。「マイ・ビューティフル・プレイス」は27話のラストでマクロスが地表に着地するシーンに使われていた印象深い曲です。「SUNSET BEACH」
は地球編に入ってからのミンメイの新曲と言う感じ。「やさしさ SAYONARA」は最終回に使われていました。
 新録の2曲は以前の6曲と比べると、より本格的に作られている感じがしますし、歌っている飯島真理自身が以前よりも成長しているので、それがミンメイの成長に反映されているようで、なかなか興味深く聴けます。

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3.超時空要塞マクロス 飯島真理SONGメモリー

 リン・ミンメイの歌を抜きにしては語れない『マクロス』ですが、1コーラスしか無い歌が多かったり、サントラ盤が分かれていたりと、あまりミンメイの歌だけを目的に楽しむと言うことは当時は困難でした。
 ドラマ編アルバムとして当時『MISS D.J.』というミンメイのディスクジョッキー番組を題材にしたアルバム*4が出ましたけど、状況的には変わらなかったですね。いまなら間違いなく「リン・ミンメイのデビュー・アルバム」とか題した企画盤が出されるでしょうけど、当時のアニメレコード市場は、まだそんな状況ではありませんでした。

 そのうちに飯島真理が歌手デビューしたので、そのアルバムをミンメイのアルバム代わりに聴いていたりしましたけど、所詮ミンメイと飯島真理ではパーソナリティが別物なので、無謀な試みという以外にはありませんでした。ただ、飯島真理の2枚目のアルバム『Blanche』*5はミンメイファンにとって聴き逃せないアルバムでしたけどね。
 劇場版『愛・おぼえていますか』の後で『マクロス』のボーカル曲を集めたオムニバス盤が出ましたが、ミンメイの曲の比重は大きくなく、あまりありがたいアルバムとは言えませんでした。

 ところが、劇場版から2年経ち、次第に『マクロス』という作品が忘れられて行く頃になって、唐突にミンメイの歌を集めたアルバム*6が発売されました。別に新曲が入ってたりするわけではないのですが、未収録曲が何曲か入っていたりして、ミンメイファンには美味しいアルバムでした。
 時期的には飯島真理がビクターからアルファ・ムーンに移籍した頃なので、シンガー《飯島真理》を育てて行く必要の無くなったビクターが、過去の資産を放出したという感じかな。

   1.私の彼はパイロット PARTⅠ
   2.愛・おぼえていますか
   3.やさしさ SAYONARA
   4.0-G Love
   5.小白竜
   6.愛は流れる PARTⅡ
   7.星のささやき
   8.SUNSET BEACH
   9.私の彼はパイロット PARTⅡ
   10.マイ・ビューティフル・プレイス
   11.シルバームーン・レッドムーン
   12.天使の絵の具
   13.愛は流れる PARTⅠ
   14.ランナー

 2、12は劇場版の曲なので今回は対象外です。(劇場版はいずれ取り上げる予定です)

《PARTⅠ》《PARTⅡ》と二つある曲は、《PARTⅠ》の方が上記のサントラ盤に収録されていたバージョンです。
《PARTⅡ》のほうは別バージョンになりますが、「私の彼のパイロット」では『MISS D.J.』に入っていた2番の歌詞のバージョン、「愛は流れる」では第27話で使われていたマーチ風アレンジ版が収録されています。
 もっとも、「私の彼はパイロット」はカラオケが1コーラス分しか無いので、1番目と2番目が別の曲になっててどこか締まりが無いのに加えて、飯島真理の歌い方に違いがあって、聴き比べると奇妙な感覚に襲われます。
 マーチ風アレンジの「愛は流れる」も歌詞は1コーラスだけで、伴奏も2番目の途中でF.O.してしまっていて、楽曲としては中途半端ですね。もっとも劇伴そのものとして作られたわけで、当初はレコード化など意識していなかったのだから当然かもしれません。

 「星のささやき」は『MISS D.J.』のオープニングとエンディングに使われていた曲ですが、フルコーラス版は先のボーカル集アルバムに収録されたのが最初だったという、一歩間違えば幻の曲になりかねないところの曲でした。
 ミンメイの子守歌という雰囲気の曲で、ミンメイファンには堪えられないところがありますね。

 「ランナー」は同じく『MISS D.J.』で使われていた1コーラスだけのバージョンです。最終話のエンディングにも使われていました。藤原誠の力強い歌も良いですけど、語り掛けるような飯島真理の歌も魅力的ですね。

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4.マクロス・ザ・コンプリート

 TV版のサントラが出た時分はアナログレコード全盛の時期でしたが、最後の「飯島真理SONGメモリー」が出た時はLPとCDの同時発売という形になっていました。
 マクロスのサントラは比較的早くからCD化されていましたけど、当時はまだアナログレコードも健在で、LPとの差別化のためかどうか、CDはTV版と劇場版をごっちゃまぜにした構成で出されていました。その後、アナログレコードが完全に駆逐されてしまいましたが、消費税が導入され、CDの低価格化が進む中でもマクロスのCDが発売し直されることはしばらくありませんでした。

 ところがOVA『超時空要塞マクロスⅡ』が製作されるに当たって、ようやく旧作サントラをまとめた3枚組のCD*7が発売されたのです。
 1枚目がTV版の VOL.Ⅰ、VOL.Ⅱ (LP2枚分がCD1枚におさまってる……)で、2枚目が劇場版のサントラ盤(ただし、「愛・おぼえていますか」はロング・バージョンに差し替え)とカラオケ集、3枚目がⅠ、Ⅱに未収録のボーカル曲集とTV版および劇場版の未収録BGM集。
 とりあえず3枚の既製のサントラ盤はそのまま収録して、それに未収録BGMやカラオケが入っているわけですから、結構美味しいアルバムでした。もっとも、まともにマクロスの音楽を聴こうと思えば、当時このアルバム以外には選択肢は無かったわけですが。*8

 このアルバムにしか収録されていないボーカル曲として貴重なのは、シリーズ後半でマックス&ミリア夫妻が赤ん坊のコミリアを連れて出撃していくエピソードに使われていた、竹田えり「ミリアのララバイ」でしょうね。
 本編だけの使用を条件に自宅録音で作られた曲だそうで、その当時のアルバムには収録されていなかったわけですが、さすがに本職がシンガーソングライターの方だけあって、ミリアというキャラクターを十二分に盛り込んだ素晴らしい歌になっています。

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5.MARI IIJIMA sings LYNN MINMAY(2019年追記)

 時は流れて2000年代になってから、現在はロサンゼルス在住の飯島真理自身によるセルフカバーのアルバムが発売されました。*9

   1.天使の絵の具
   2.愛は流れる
   3.0-G Love
   4.シンデレラ
   5.私の彼はパイロット
   6.愛・おぼえていますか
   7.Why

 「シンデレラ」はもともとは飯島真理が制作中だったものを劇場版『愛・おぼえていますか』の劇中で使用した曲ですが、アフレコ現場でアカペラで歌ってたためか、劇中使用バージョンは今に至るも音盤化はされていません。
 その後、完成した曲が飯島真理のアルバム『Blanche』に収録されていますが、ここに入っているのはそのアルバム収録バージョンのカバーです。(『マクロス・ザ・コンプリート』に収録されているのも『Blanche』のもの)
 『Blanche』収録のものはほとんどアコースティックなギターメインの伴奏なので、このカバー曲の方が若干派手なアレンジという珍しい形です。

 「Why」はこのアルバムの新曲。ミンメイの作詞・作曲の歌というコンセプトらしいです。

 このアルバムにはミンメイの曲が全曲収録されてるわけではありませんが、オリジナルでは1コーラスの曲もフルコーラスになっています。ただし、如何せん飯島真理によるアレンジが、80年代のアイドル路線を志向した羽田健太郎氏によるオリジナルのアレンジとは別物なので、当時の楽曲のリメイクというよりも、大人になったリン・ミンメイがアイドル時代の曲をカバーして歌ってるって感じしかしませんね。

 楽曲のフルコーラス化自体は『マクロス7』の頃のミレーヌ・ジーナスのカバーや、『マクロスジェネレーション』のアルバムですでになされていますが、伴奏のアレンジがオリジナルと違うというのは同じで、劇中で使われたアレンジのままのフルコーラス化というのは、少なくとも公式のカバーバージョンでは存在しません。
 羽田健太郎氏自身、レコーディングの終わった楽譜は残さないというタイプだったらしく、2007年に亡くなられた際、遺品の中に残っていた楽譜は『交響曲 宇宙戦艦ヤマト』だけだったとかいう話もあるので、カバー曲のアレンジを本人に依頼しても新規のアレンジになった可能性は高いです。

 ともあれ、作品当時は劇伴使用の中途半端なサイズでしかレコーディングされていなかったリン・ミンメイの曲を、別アレンジとは言え、飯島真理の歌でフルコーラスで聴けるようになったのはうれしいものでした。

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(記事初出 ニフティサーブ・アニメフォーラムマガジン館 95.04.15)

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1枚目のサントラ盤。
マクロスF』の頃に再発売されたものが現行商品として残っているようです。

超時空要塞マクロス マクロス



2枚目のサントラ盤。
これも『マクロスF』の頃に再発売されたのが現行商品。

超時空要塞マクロス マクロス Vol.II



これは1980年代に出たまま再発売されてないのかな。中古品がそれなりに高くなってます。これの収録曲は『マクロス・ザ・コンプリート』にすべて収録されていますが……

超時空要塞マクロス 飯島真理SONGメモリー ~ミンメイ SINGS FOR YOU~



テレビシリーズと劇場版の音楽をまとめたもの。未収録BGMに関してはテレビシリーズは若干漏れがあるようですが、劇場版は全曲網羅されています。

超時空要塞マクロス マクロス・ザ・コンプリート



飯島真理による新録のカバーアルバム
すでに廃盤みたいですが、中古は比較的入手しやすそうです。

MARI IIJIMA sings LYNN MINMAY



ミンメイのDJ番組という想定のアルバム。これも『マクロスF』の頃の再発売品。

超時空要塞マクロス マクロス Vol.III MISS D.J.



「シンデレラ」と別アレンジの「天使の絵の具」が収録されてるアルバム
後に紙ジャケット盤が出てますが、すでに在庫切れで高騰してるようです。こちらは90年代に出た廉価盤で、入手は比較的容易かと。

blanche

*1:超時空要塞マクロス』(JBX-25008 82.12.16 ¥2,500)

*2:マクロス』の第27話「愛は流れる」というと、「27話」だけで通じるぐらいシリーズ中でも抜きんでた出来の回でした。実質上はこの回が最終回で、残り1クールの延長分は蛇足という感じがありますね。

*3:超時空要塞マクロス VOL.Ⅱ』(JBX-25013 83.03.05 ¥2,500)

*4:超時空要塞マクロス VOL.Ⅲ MISS D.J.』(JBX-25016 83.06.21 ¥2,500)

*5:『Blanche 飯島真理2』(SJX-30224 84.--.-- ¥2,800)

*6:超時空要塞マクロス 飯島真理SONGメモリー』(VDR-1280 86.10.21 ¥3,200)

*7:マクロス・ザ・コンプリート』(VICL-40031~33 92.03.21 ¥7,500)

*8:マクロス7』の頃になって、ようやくアナログ時代のアルバムがそのままの形でCDで復刻されましたが、すでに『マクロス・ザ・コンプリート』持ってたら欲しいのは『RHAPSODY IN LOVE』ぐらいだけというのが正直なところでした。

*9:『MARI IIJIMA sings LYNN MINMAY』(VICL-60992 02.11.07 ¥2,000)