アニメ音楽年代記

サントラ盤を中心としたアニメ音楽の昔話

ルパン三世 カリオストロの城

1.ルパン三世の音楽

 今回は番外編です。
 『ルパン三世』の音楽というと、読売テレビで頻繁に再放送されていた第1シリーズのアンニュイな感じの山下毅雄*1の音楽が最初に思い浮かぶ世代ですが、頭に思い浮かぶ劇伴曲というと各話のラストあたりで使われてる曲ぐらいで、もっぱら頻繁に変更されてたOPの印象が強かったですね。

 その後、第2シリーズで登場した大野雄二氏*2の音楽は一転してオシャレなセッション音楽という印象でした。
 当時の『ルパン三世』のアルバムというのは、アダルト的な指向で他のアニメ作品のように何が入ってるのかわかりやすいジャケットというものでは無かったこともあり、ちょっと手が出しにくい感じでした。結局、リアルタイムで買ったレコードというのは第2シリーズの最初のOPとED(どちらもボーカルが入る前のインスト曲)のシングル*3ぐらいでした。

 『ルパン三世』はその後もTVシリーズの『PARTⅢ』が作られたり、年1作のペースでのTVスペシャルが作られたりで続いてきましたが、音楽は一部の作品を除いて大野雄二氏の続投となり、第2シリーズで登場した「ルパン三世のテーマ」がいまだに作品ごとにアレンジされて使われているのも一つのお約束になってしまっています。*4

 映画『ルパン三世 カリオストロの城』は第2シリーズの放映中に公開された劇場版の第2作ですが、音楽はTVの第2シリーズの大野雄二氏がそのまま担当しています。劇場版第1作の「ルパン音頭」*5ほどのインパクトはありませんが、TVシリーズでお馴染みの「ルパン三世のテーマ」がテーマ曲としては使われていないという点では特徴的な作品と言えるでしょう。


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2.ルパン三世 カリオストロの城 ミュージックファイル

 本来なら公開当時に出ていたアルバムとか、後に映画のサントラ盤として出たアルバムとかを取り上げるべきなんでしょうが、自分が発売当時聴いていたというわけでもなく、またどれも1枚で『カリオストロの城』の音楽を過不足なく楽しむには甚だ不親切っぽいところもあるので、今回は21世紀になってから発売されたこのアルバムを取り上げることにします。

 「ミュージックファイル」というアルバム名は以前はVAPから発売されていた昔の邦画とかドラマや特撮番組とかのリニューアルサントラ盤とかそのコンピレーション盤とかに付いていたように記憶しています。(ウルトラシリーズとか東宝特撮とかで何枚かは買ってるはずですが)
 コロムビアから出た『カリオストロの城』のアルバムにそのタイトルが付いてることに違和感がありました(というか、てっきりVAPが出した商品かと思ったりしました)が、CDの商品化を手掛けた担当者が同じ人*6なんですね。
 この「ミュージックファイル」、CDの容量を活かして今までのサントラでは未収録の曲も積極的に掘り出してるという商品が多く、この『カルオストロの城』でもそういう辺りを期待せざるを得ません。

 このアルバムと既製のサントラ盤の大きな違いというのは、既製のサントラ盤が主にレコード発売用に録音された曲をメインに収録されているのに対し、映画で実際に使用された曲を流用曲も含めて揃え、映画での使用順に構成されているということです。「レコード用音源」と「使用順に構成された劇伴使用曲」という相違というのは『さらば宇宙戦艦ヤマト』における『映画音楽集』と『ETERNAL EDITION』に近いものがあります。

 実際、『カリオストロの城』で使用された音楽は、レコード用音源から劇伴用に編集した曲、劇伴専用として録音された曲、TVの第2シリーズからの流用曲、劇場版第1作からの流用曲など多岐にわたるようです。
 また、レコード音源から用いられた曲で劇伴としては短縮編集(&モノラル化)されているような曲はできる限りフルサイズのレコード音源(ステレオ)のまま収録し、アルバムとしての聴き心地に配慮してる感じですね。

 なにせ全65トラックと曲数が多いので全てに触れることは出来ませんが、代表的な曲を取り上げてみましょう。


 炎のたからもの

 言わずとしれた本作品の主題歌。ボビーの歌は作品中ではOPとEDのどちらにも使われていますが、両方とも作品中での使用サイズで収録されています。これは作品中での使用バージョンはレコード音源を編集したものではなく、別個に録音されているからです。
 またこの曲のインストバージョンが作品中でいくつか使用されていますが、それらも余すことなく収録されています*7クラリスの塔に忍び込んだルパンが伯爵に地下に落とされた後、ルパンが残したバラをクラリスが拾うシーンの曲*8ヴィブラフォンとフルートが主体のゆっくりとした演奏が印象的ですが、このアルバムが初収録。


 ルパン三世'80

 TV第2シリーズのOP曲からの流用ですが、本作品では短く編集されたものがルパンというキャラを印象づける効果的なシーンで使われているだけです。フルサイズは他のアルバムで用意に入手できるからか、ここでは貴重な劇伴用の編集版が収録されています。1コーラスすらまるまる使われたりはしてないので、そこを期待したりしてはいけません。


 サンバ・テンペラード

 地下洞窟から銭形と共に脱出したルパンがオートジャイロを奪ってクラリス救出に向かうシーンの音楽。現在では『カリオストロの城』で最も人気の高いアクション曲です。レコード版では他の曲とつなげて収録されていたのを、レコード用音源からこの曲だけをフルサイズで収録。大野雄二氏らしい軽快でオシャレっぽいセッション曲です。


 出動はない…

 曲名がなんですが、劇場版第1作の「銭形マーチ」のバラード風のトランペットバージョン。以降の作品でも銭形と言えば「銭形マーチ」という印象付けを与えた曲です。スローなバラードが銭形の浪花節的なキャラ付けを強調しているようです。


 ウェディング

 クラリスと伯爵の結婚式で流れるバッハの「パストラーレ ヘ長調 BWV590」。本来はオルガン曲ですが、録音時はエレクトーンで代用したとのこと。『さらば宇宙戦艦ヤマト』の「白色彗星」のところでも書きましたが*9、当時の日本ではパイプオルガンという楽器はとても珍しかったもの。今でも簡単に使えるものではありませんが。これが『魔法騎士レイアース』の頃になるとPCM音源とかでどうにかなるのですが、この時代のシンセサイザーのFM音源で再現させてもエレクトーンと変わらないでしょうね。*10

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最後に

 『ルパン三世 カリオストロの城 ミュージックファイル』は映画で実際に使用された音楽をできるだけそのままの形で使用順に構成されているという典型的なBGM集ですが、なかなかこういう理想的なアルバムが出る作品は少ないので、こういうものに出会うとうれしくなります。人気がある定番作品だからこそ商業的な成功が見込める商品なんでしょうが。

 難を言えばほとんど同じOPとEDの「炎のたからもの」が共に映画用テイクで収録されていること。片方はレコード音源のフルコーラス版でも良かったような気がしますが、ま、このアルバム買うような人はすでに他のアルバムで持ってるでしょうけどね。

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(記事初出 新規書き下ろし)

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今回のアルバム
ミュージックファイルシリーズ/ルパン三世クロニクル ルパン三世カリオストロの城MUSIC FILE
ミュージックファイルシリーズ/ルパン三世クロニクル ルパン三世カリオストロの城MUSIC FILE

アナログ時代からの従来のサントラ盤。再発売されるたびにボーナストラックの収録曲が違うというコレクター泣かせの一品。もっとも他のアルバムの収録曲から持ってきてるので、そっちを持ってれば関係ないという話。これは2015年の第4シリーズの時に出た最新版。
ルパン三世 カリオストロの城 オリジナル・サウンドトラックBGM集
ルパン三世 カリオストロの城 オリジナル・サウンドトラックBGM集
こちらの紙ジャケット仕様もまだ販売中。ボーナストラックに「サンバ・テンペラード」が入ってるのが特徴(本来のサントラ盤には収録されていない)。
ルパン三世 カリオストロの城 オリジナル・サウンドトラック BGM集(紙ジャケット仕様)
ルパン三世 カリオストロの城 オリジナル・サウンドトラック BGM集(紙ジャケット仕様)

これは『カリオストロの城』の公開当時に発売されていたアルバム。TV第2シリーズの追加曲と映画用の曲がレコード用音源で収録されています。「サンバ・テンペラード」はもちろん入ってますが、「ルパン三世'80」や「炎のたからもの」もフルサイズで収録されています。
ルパン三世 オリジナル・サウンドトラック3
ルパン三世 オリジナル・サウンドトラック3

おまけ。山下毅雄氏の音楽によるTV第1シリーズのサントラ盤。
ルパン三世 THE 1st SERIES ANTHOLOGY - MUSIC by TAKEO YAMASHITA
ルパン三世 THE 1st SERIES ANTHOLOGY - MUSIC by TAKEO YAMASHITA

*1:他には『ガンバの冒険』の音楽なども手掛けられているようですが、ドラマでは『大岡越前』、関西人に馴染みの深いところでは『パネルクイズ アタック25』(『新婚さんいらっしゃい』とセットだから関西ローカルかと思ったらどっちも全国ネットでやってるのね)のテーマ曲とか。

*2:日テレ系24時間テレビのアニメ作品の音楽とか手掛けられてるようですが、なにぶん『ルパン三世』にイメージが強過ぎます。

*3:ルパン三世のテーマ/ルパン三世愛のテーマ』(YK-95-AX 77.10.25 ¥600)

*4:現在放映中の『ルパン三世 PART5』では「LUPIN TROIS 2018」という曲名で最新版が使われています。主な舞台がフランスなのでフランス語のタイトルですが、イタリアが舞台の前作ではイタリア語じゃなかったような。

*5:言わずとしれた三波春夫の曲。違和感マックスの有名曲として今でも話題にされることが多いですが。作品中では使用されていないようですが、「銭形マーチ」の歌バージョンなんてのもあるんですねぇ。

*6:高島幹雄氏。元VAPの社員の人で、現在はフリーで音楽関係のやってられるようです。「ミュージックファイル」と題したCDを見掛けたら要チェック?

*7:塔に忍び込んだルパンがクラリスと再会したシーンの「炎のたからものバリエーションⅢ」(フルサイズ)やヴィブラフォンとフルートの「バラとクラリス」、クラリス救出に失敗したルパンが次元に過去のクラリスとの出会いを語るシーンの「ルパンの回想」後半部、結婚式場からルパンがクラリスを連れ出していくシーンの「炎のたからもの・アレンジ曲」、ルパンとの別れのシーンの「炎のたからものバリエーションⅢ」(編集版)、おまけに未使用音源としてオーバーハイムのシンセを使った演奏も入っています。
ただし、従来のサントラ盤に収録されている「炎のたからものバリエーションⅠ」とか「炎のたからものバリエーションⅡ」は作品中で未使用のためか、このアルバムでは収録されていません。

*8:トラック名は「バラとクラリス

*9:さらば宇宙戦艦ヤマト』の記事を参照。https://animepass.hatenablog.com/entry/2018/06/02/104404

*10:魔法騎士レイアース』では2クール目の敵・デボネアのテーマにパイプオルガンの音色が使われていました。これは他の劇伴曲もそうなので生楽器は使ってなさそうです。それ以前、『ふしぎの海のナディア』ではネモ船長の弾くパイプオルガンの曲が使われていますが、これはどうなんでしょう? まぁこの頃には各地にオルガン付きのホールも出来てるし、NHKの番組だからNHKホールにあるパイプオルガンが使えた可能性はありますが。