アニメ音楽年代記

サントラ盤を中心としたアニメ音楽の昔話

銀河漂流バイファム

1.銀河漂流バイファム 音楽集

 この83年当時のTVアニメと言うと、マクロスの後を受けて超時空シリーズ第2弾をうたった『超時空世紀オーガス』とか、ロボットアニメにファンタジーの世界を取り込んだ『聖戦士ダンバイン』とか、マクロスのヒットにあやかったのかロボットアニメ作品が元気でした。
 その中でちょっと毛色の変わった作品が『銀河漂流バイファム』でした。他の作品がリアリティを追求せんがために大人のキャラクターを主役にしていこうとする中で、この作品の主役は13人の子供たちだったのですね。
 練習艦ジェイナスに乗り込んでククトニアンからの攻撃を防ぎ、生き別れになった親たちを求めて宇宙を漂う13人の不安、希望、喜び、悲しみを奏でてくれたのが渡辺俊幸氏の音楽でした。

 渡辺俊幸氏というと『バイファム』以降の作品は『ボスコアドベンチャー』と後はアルバムで『ふぁんたじあ』『交響詩 美少女戦士セーラームーンR』辺りしか馴染みが無いのですが、『バイファム』の音楽の印象は非常に強く残っていますね。*1
 東映の特撮番組とか『マジンガーZ』等の音楽を手掛けられている渡辺宙明氏のご子息に当たるわけですが、独特の宙明節に彩られた音楽世界を創る宙明氏と比べると、どちらかというとオーソドックスな音楽の傾向が感じられますね。しかし、血は争えないのか、ブラス系のアクションサウンドには特に魅力的なものが感じられます。

 『バイファム』という作品、本放送で見たきり、10年以上も全く見る機会がありませんでしたので*2、細かいところなんかは全部忘れてしまっていますから、これまでの他の作品のように詳しいことは書けませんけど、いつものようにアルバム収録曲を順に追って行きましょう。
 まずは1枚目のサントラ盤からです。*3

   A1.宇宙空間(星々のテーマ)
    2.疑惑(サスペンス)
    3.HELLO,VIFAM
    4.ほ・ほ・え・み
    5.探索
    6.異星人

   B1.バイファムのテーマ
    2.きみはス・テ・キ
    3.戦闘(まえぶれ)
    4.鎮魂歌(レクイエム)
    5.希望
    6.NEVER GIVE UP
    7.銀河漂流

 A1はバイファムの舞台となる宇宙空間を表わした音楽ですね。前半部分は幽玄に広がる宇宙の星々のきらめきを奏でているかのように静かで優雅な曲をバイオリンが奏でています。
 後半は子供たちだけで宇宙をさすらう不安感が織り成す不気味な感じをピアノとブラスが奏でています。作品の舞台背景を的確に感じさせてくれる音楽ですね。

 A2の前半はA1の前半と同じモチーフを用いて、敵の罠が潜んでいるかも知れない宇宙空間を疑心暗鬼で進んで行く緊迫した光景を描いている曲です。本編でもしばしば使われていたBGMだと思いますが、不気味さの中で空間の広がりを感じさせてくれる音楽ですね。
 中間部は低音系の楽器がスローテンポの曲で不気味さを感じさせてくれます。そして後半はテンポがあがってやや高音系の楽器が緊迫感のある音楽を奏でています。ややアドリブがかったサックスが不気味さを感じさせてくれますが、どちらかというと単に緊迫した感じを強く感じさせてくれる曲ですね。

 A3はTAOによるオープニングテーマです。オール・イングリッシュの歌詞は当時は大きな話題になりましたが、今から振り替えるとやはり時代と言うものを感じますね。

 A4はジェイナス艦内での日常生活の場面に使われていた曲ですね。子供たちだけの艦らしいコミカルな場面とか、あるいはフレッドとペンチのほのかな恋とか、そういうシーンを思い出させてくれる音楽です。

 A5の前半も引き続きジェイナス艦内の描写を思い浮かばせてくれる曲です。艦内でのトラブル等でその原因を探っている様子などをややコミカルに描いていますね。
 中間にシンセを使ったME的な曲が入っています。
 後半は緊迫したリズムとともに、今度は宇宙空間での敵との遭遇の気配を感じさせる曲が入っています。それほど大きな編成を使っているとは思わないのですが、この辺のシンフォニックな広がりを感じさせてくれるところに渡辺氏らしさが感じられますね。

 A6はいよいよククトニアンとの接触という感じの緊迫した曲が続きます。前半は徐々に敵が接近してくるという感じの音楽ですが、後半はいよいよ敵の襲撃を受けているという非常に息詰まる展開を感じさせてくれます。ジェイナスがベルウィック星を離れてククト星にたどり着くまで、何回この音楽が聞かれたことでしょうか。

 B1は「HELLO, VIFAM」のオーケストラ・バージョンです。TAOの原曲をブラス系主体にアレンジしてあるのですが、テンポが小気味よく、非常に雄大さを感じさせてくれるアレンジになっていますね。
 いよいよ主役メカの登場ということで盛り上げてくれます。ただ、終わり方がそっけないかなという感じがするのが物足りないのですが。TAOの歌を聴いただけではあまりアニメ作品のテーマ曲らしさは感じられないのですが、この曲を聴くと一遍にイメージが変わってしまいますね。

 B2は戦いの中の安らぎの曲という感じですね。戦闘を終えたロディやバーツたちをやさしく迎えてくれるジェイナスと仲間たち。あるいはスコットとクレアのシーンなんかも思い出させてくれます。

 B3の前半は敵の接近を受けてジェイナスが戦闘配備につく辺りの緊迫感を感じさせる曲です。そして中間部は敵の攻撃にさらされ、危機に陥るような感じかな。緊迫感ここに極まれりという感じのボレロ調の曲です。
 後半は一転して、どうにか戦いで生き延びたジェイナス、あるいはバイファムたちを描いている音楽ですが、いわゆる勝利のテーマというような感じの曲ではなく、どこか物悲しい、戦いの虚しさを感じさせてくれる静かなストリングス系主体の曲になっています。

 B4はよくはわかりませんが、雰囲気的にはケイトさんが行方不明になった回とか、それを悲しむロディやカチュアの描写に使われていたのかなと思います。なまじ主人公側のキャラクターが限られているだけに、こういう曲が使われる機会は限られていたわけですから、その点ではかなり効果的に用いられた曲かなという感じがしますね。

 B5の前半は絶望の中でわずかな情報を希望に、明日に向かって進んで行こうとする13人の子供たちの決意が感じられるような曲です。戦いの後でつかんだわずかばかりの希望を頼りに、ジェイナスの進路を決めるような場面を感じさせてくれる優雅な感じの音楽ですね。
 後半は一転して明るいポップな感じの曲ですが、戦いを離れて希望に胸を膨らませている子供たちの様子が思い浮かびます。他にも日常シーンで比較的頻繁に使われていた曲のように思います。

 B6はTAOによるエンディングテーマですが、個人的にはあまりバイファムには合っていなかったように思います。

 B7の前半は雰囲気的には戦いの後の安らぎの音楽という感じなのですが、よくわかりません。後半はどちらかというとスコットが航海日誌を付けている時のBGMのような感じがしますね。バイファムの世界らしい広がりの感じられる良い曲です。

 この1枚目の音楽集は、音楽を追って行くだけでもストーリーが作れそうな、非常にオーソドックスな構成になっているので、1枚通して聴き易いアルバムだと思いますね。普通、1枚目のサントラはこういう感じであって欲しいのですが、そうでないものが多いですからね。

------------------------------------------------------------------------
2.銀河漂流バイファム 音楽集Vol.2

 この『バイファム』という作品はワーナー・パイオニア*4が本格的にアニメ作品のアルバムを手掛けた最初の作品だと思いますが、それにしては結構卒ないサントラを出してくれたので、2枚目のサントラ*5にも期待が持てました。

   A1.君はス・テ・キ
    2.行動派
    3.悲しみ色
    4.星々の友情
    5.潜む影
    6.不退転の決意

   B1.惑星ククト
    2.ミューラァのテーマ
    3.追撃戦
    4.謎の遺跡
    5.闇からの脱出
    6.THE ASTRO ENEMY (ミューラァのテーマ)
    7.讃歌~明日へ

 A1は1枚目のよく似たタイトルの曲とはまったくの別曲ですが、バイファムの世界によく似合ったイメージソングですね。*6

 A2はシリーズ前半の終始受け身に立って戦うバイファムたちではなく、自分たちの目標の前に積極的に作戦行動に移って行く雰囲気を感じさせてくれる曲です。特に前半の派手なプラス系の曲はそうですね。
 舞台をククト星系に移してから使われ出した曲だと思いますけど、まさに主役の格好良さと力強さを感じさせてくれます。地球軍の新兵器トランファムの登場シーンにも似合いそうな感じもします。

 A3はどちらかというと13人の中で一人だけククトニアンだったカチュアの不安とか寂しさ、悲しみを現した曲かな。後半はミューラァにも使われていたような感じもしますが。

 A4の前半は戦いが終わって、互いの友情を確かめあっているような感じの曲です。カチュアとロディの仲直りとか、そういうシーンが似合っていそうです。後半は少しコミカルな感じの曲調で、ジミーとカチュアとか、侵入して来たククトニアンの子供たちとか、そういうシーンが思い浮かびそうです。

 A5は低音の弦が奏でる重く漂う感じの曲。敵が潜むかもしれない空間を警戒しながら進んでいく、そんな感じのサスペンス曲。後半はややリズミカルに斥候や待ち伏せの準備中といったイメージです。

 A6はククトニアンからの攻撃に反撃していくシーンとか、逆に敵側の根拠地に襲撃をかけるシーンに使われていた戦闘テーマですね。A2なんかと比べると奇麗事を抜きにしたシビアで緊迫感のある曲です。

 B1はククトニアンの本拠地ククト星の音楽ですけど、いわゆる敵の星というようなものじゃなくて、あくまで作品の舞台として、13人の前に見せる様々な側面のククト星を表わす曲を集めたものですね。
 とくに前半部のきれいな曲はむしろ安らぎを感じさせる音楽になっています。中間部はリズム楽器主体のテンポのある曲で、敵地に侵入した緊迫感を感じさせます。後半は得体の知れない不気味さを表わしています。

 B2は地球人とククトニアンとの間に生まれたミューラァのテーマ曲ですが、シンセ主体の寂しく物悲しい感じのする曲になっています。ククトニアンの社会で生きていく上での彼の不幸がどことなく感じられます。

 B3も戦闘シーンの音楽ですが、どちらかというとロディたちではなく、地球軍の猛攻シーンに似合いそうな曲ですね。しかし、ククト星編の序盤で大量に出て来た地球軍のトランファムがその後見掛けなくなったように思いますが、ククトニアンに一掃されてしまったのかな。

 B4はよく分からない曲です。少し緊張感があってミステリアスな、そんなシチュエーションの音楽なか。

 B5も戦闘シーンの音楽です。前半は重苦しい感じの悲壮感漂う戦闘という雰囲気のなかで、それを打開しようという力強さの感じられる曲です。後半は一転して軽快な音楽になっています。絶体絶命の危機を乗り越えて死線を脱して来たたくましさと爽快感を描いていて、希望が持てる感じの曲になっています。

 B6はミューラァのテーマのイメージソングですが、ちょっと意図が理解しにくい曲です。

 B7もちょっと良く分からないんですが、イメージ的には各話のラストで使われているBGMを集めたものかと思います。だからトラックでの統一したイメージが無いのがちょっと難点ですね。1枚目の最後の曲も似たようなものだと思いますが、あちらはそれほどアンバランスは無かったですね。
 前半の曲は悲しみの曲なのでタイトルにも合っていないのですが、どちらかというと絶望を感じさせるような気配がありますね。後半はマイナーの弦のフレーズが続きながらも、どこか希望を感じさせるような雰囲気。ラストは一転して軽快な曲ですが、やはりアルバムの最後はこういう希望を残してくれる曲が良いです。

 2枚目のサントラ盤にしては、曲の構成に無理が無いアルバムです。1枚目にしろ、この2枚目にしろちゃんと聴けるアルバムを作ってくれたことで、『バイファム』の音楽とワーナー・パイオニアには期待していたのですが、それもここまで。
 その後のアルバム発売には大いに疑問と不満を感じることがあったので、結局TVシリーズのアルバムは2枚しか買いませんでした。(いくら何でもオリジナリティの無いドラマ編と音楽集を抱き合わせで売ることはないでしょう。恐らくこれはビクター『マクロス』の商品展開を大いに真似ていたのでしょうけど)

 この『バイファム』でカチュアを演じて人気の出た新人声優の笠原弘子が以降ワーナー・パイオニアの看板娘的な存在になり、『究極超人あ~る』のイメージアルバムや初期『機動警察パトレイバー』を経て、ソロアルバムの活動を展開するようになるのですが、これは余談ということで……

------------------------------------------------------------------------
3.メモリアルCD-BOXについて(2021年のあとがき)

 この記事を書いてた時期にちょうど発売されたのが4枚組の『銀河漂流バイファム メモリアルCD-BOX』*7でした。
 当時のこの手の企画商品は未収録音源を発掘したり、曲をM No.毎に分けて並べ替えたり、詳細な解説が付いたり、既存のアルバムとは別のアプローチをしてる商品が多く、このCD-BOXにもそれを期待していたのですが……

 手にとって唖然としたのを覚えています。

 1枚目はボーカル曲を集めたもの。まあ、これはこれでよくある構成なので、とくに構いません。問題は2枚目以降です。
 2枚目は音楽集の1、2からボーカル曲を抜いたものをそのまま並べてあるだけ。3枚目はその後に出た音楽集3とドラマ編の抱き合わせ2枚組アルバムから、音楽集の中のボーカル曲以外とドラマ編の前半をそのまま。そして4枚目はドラマ編の残りと、『“ケイトの記憶”涙の奪回作戦!!』のBGM集から、やはりボーカル曲以外をそのまま並べただけのもの。
 独自のアプローチどころか付加価値も何もなく、ボーカル曲だけ聴きやすいように1枚に集めて、あとは一応全部詰めましたというだけ。元々のアルバムの構成が蔑ろにされてるどころか、中途半端にドラマ編を2枚に分けやがったおかげで、音楽だけ聴くのも面倒臭いというひどい有様。ボーカル曲を1枚にまとめる脳みそあるなら、ドラマ編もまとめて音楽とは別ディスクにしろよと言いたいです。
 正直言って、元のアルバムそのままの構成で5枚組にしてくれたほうが良かったかな。

 文句を言いたいのはブックレットも同じ。新たに解説をつけろとは言わないけど、せめて元のアルバムのライナーぐらいは復刻して欲しいところだけど、これに付いてたのはそんなものじゃなく、アルバム発売当時に販促用に配布していたバイファムニュースをまとめたもので、CD-BOXの収録内容に関するものは一切なし。楽曲の解説もなけりゃ、歌詞の掲載どころか、歌手名さえ記載がないという……
 せめてトラック毎のM No.の構成とか、音楽メモ的なものでも付いてりゃ嬉しかったのですが。

 廉価盤商品じゃないんだから、もうちょっと考えてほしかった物件ではあります。これが初めてのCD化かと思ったら、(ドラマ編が付いてるの以外は)それ以前にCD化はされてたようなので、それもあってこういう商品になったのかもしれませんが。

 とはいえ、25年以上も前の商品に苦情を言ってもねぇ……
 
------------------------------------------------------------------------
(記事初出 ニフティサーブ・アニメフォーラムマガジン館 95.05.22)

f:id:animepass:20210425140340j:plain


音楽集のCD。定期的に再発売されたりする商品じゃないので、廉価盤が出てたとはいえ90年代後半なので厳しそうです。

銀河漂流「バイファム」音楽集1



銀河漂流「バイファム」音楽集2



CD-BOXはさらに厳しいですね。

VIFAM MEMORIAL

 

*1:その後、平成モスラ三部作の音楽を手掛けられ、東宝怪獣映画の音楽に新風をもたらしたのも今は昔。近年では『シンカリオン』の音楽を手掛けられているようです。(劇場版を見たけど、ゴジラエヴァンゲリオンの音楽と初音ミクっぽい歌しか記憶に残ってないのは内緒)

*2:まさか、その後に『銀河漂流バイファム13』とかいう新作(続編じゃなく、途中のエピソード)が作られるとは思いませんでしたが、その直前に毎日放送でやってた再放送、新作に繋がるところまでやっただけで以降は打ち切りだったのが残念でした。

*3:銀河漂流バイファム 音楽集』(K-10026 83.12.21 ¥2,500)

*4:かつてワーナー・ミュージックとパイオニアの共同出資で作られてた国内メーカー。90年代になってパイオニアが資本を引き上げたため、純粋なワーナーミュージックの国内法人であるワーナーミュージック・ジャパンになって現在に至ります。音楽資産はワーナーミュージック・ジャパンに引き継がれていますが、以降のアニメ作品への関与はパイオニアが新たに子会社として建てたパイオニアLDCの方が活発でした。こちらはその後、パイオニアの本業不振に伴い電通に買収されてジェネオン、さらに外資系に買収され、現在ではNBCユニバーサルへと変わってます。

*5:銀河漂流バイファム 音楽集Vol.2』(K-10028 84.07.25 ¥2,500)

*6:歌っているのはムーヴというグループですが、ジャケットの記載等から白鳥座の別名、まったは一部のメンバーが参加したユニットという説が長年唱えられていたようですが、関係者からは否定されてるようです。

*7:銀河漂流バイファム メモリアルCD-BOX』(WPC6-8098~101 95.04.25 ¥7,767)

宇宙戦艦ヤマト完結編

1.宇宙戦艦ヤマト完結編 テーマ音楽集1

 ヤマトという作品がラストを迎えるに当たって、ヤマトの顔でもあった音楽の方もいろいろと力が入れられたようです。
 以前に取り上げた『ファイナルへ向けての序曲』のようなイメージアルバムが1年前に出されたり、「DIGITAL TRIP」や「ヤマト・イージーリスニング・シリーズ」等のアルバムが立て続けに発売されました。ただ、ここまで来ると、当時の高校生の経済力ではとうていカバーできず、涙流しながら購入を断念したアルバムは未だに入手できなく、悔しい思いをしていますが……*1

 この『完結編』の音楽がこれまでのヤマトの音楽よりも目を引いて違っていたのは羽田健太郎氏の参加による本格的なシンフォニックサウンド、そしてコロムビアだけでなく徳間音工からもサントラ盤が同時に発売されたということ(結局、合計5枚にもなってしまいました)ですね。

 先陣を切ってその年の1月に発売された徳間版の1枚目のサントラ*2は、アニメージュの名を冠した1枚目のアルバムでもあったわけですが、同時発売されたコロムビア版のサントラとの重複は約半分と意外に少なく、映画公開時に発売されるであろう2枚目のアルバムも入手する必要を痛烈に感じさせてくれました。

  A1.水の星アクエリアス     (作曲:宮川 泰)
   2.ウルクの歴史        (作曲:羽田健太郎
   3.ヤマト悲愴なる出撃     (作曲:宮川 泰/編曲:羽田健太郎
   4.神殿部の斗い        (作曲:羽田健太郎
   5.雪の悲しみ         (作曲:宮川 泰)

  B1.ウルクの大テーマ      (作曲:宮川 泰)
   2.アクエリアス45億年     (作曲:羽田健太郎
   3.移動要塞          (作曲:宮川 泰)
   4.新コスモゼロ        (作曲:宮川 泰/編曲:羽田健太郎
   5.神秘の星アクエリアス    (作曲:宮川 泰)

 A1はアクエリアスという回遊水惑星自身を表わした音楽です。第19回目のワープを終え、ヤマトの前にその神秘に包まれた姿を表わした時に使われていましたが、川島和子のスキャットが『ファイナルへ向けての序曲』の時より前面に押し出されていて、穏やかで平和なアクエリアスを高らかに歌い上げています。
 純粋にレコード用に作られた以前のバージョンと違って、サントラ用に大がかりなアレンジがなされていますけど、美しいメロディーが女神のテーマとしてより印象的に感じられます。全体的に重々しい緊迫感に包まれた『完結編』の中で、唯一安らぎを感じられるシーンに用いられた曲です。

 A2は冒頭、ヤマトを撃墜したルガール・ド・ザール将軍の移動要塞が都市衛星ウルクに帰還する際、圧倒的な重厚感のあるウルクの出現シーンに使われていた曲です。そしてルガール大総統が息子に王家の秘密を話す際にも使われていました。
 都市衛星ウルクの圧倒的な威圧感、彼らの持つ宗教的な性格、そして地球から来てディンギルを征服したルガール王家の歴史……そういうものが羽田健太郎氏の重厚なサウンドで描かれています。前作までのパイプオルガンとかシンセサイザーとか楽器の配分により描かれた敵の音楽より、普通のオーケストラで重厚に奏でられる方がより強大で恐ろしく感じられるように思わせてくれる曲です。

 A3は本編未使用です。ヤマトのテーマ曲と、『ファイナルへ向けての序曲』で使われた鎮魂曲のモチーフを使って、敵艦隊の地球攻撃とアクエリアス接近という絶望的状況の中で発進していくヤマトと乗組員の心情を描いているような感じです。

 A4は都市衛星ウルクに強行着陸したヤマトがアクエリアスのワープを阻止するためにワープ施設に集中砲火を浴びせるシーンに使われていました。後半はそれに対して自ら兵を率いてワープの時間まで支えようとするルガール総統の強烈な決意が印象的でした。
 ヤマトと言えば艦隊戦が当たり前のようですけど、これはウルクに強行着陸して動きが取れないヤマトと、原始的な宗教色あふれるディンギル軍とのスリリングな戦いを盛り上げてくれる名曲です。

 A5は「雪の悲しみ」となっていますけど、雪に限らず、全体的に地球人類の悲しみを描いた曲になっています。
 前半部分はアクエリアスの接近に際して、避難船団が出発していくシーンに使われていました。中盤の特に痛々しい音楽は自動運転で帰還したヤマトの艦橋でヘルメットをしていないまま倒れている古代を発見した雪が銃で自殺を図ろうとしたシーンに用いられていました。後半部は前半部のリフレインですが、ピアノやギターの独奏部分を表に出したアレンジになっています。

 B1はタイトルの割にはそんなにたいそうな使われ方はしていませんでしたね。本編では前半部分が、ヤマトの波動砲の前に敗れたルガール・ド・ザール将軍が敗走し、ルガール大総統に言い訳をするシーンに使われていました。
 今回のディンギル側の音楽はスパニッシュ・ギターを多用したラテン系の音楽が効果的に使われていますが、この曲も節々にその傾向が顕著に聴かれます。中盤にはディンギル側の戦闘シーンに用いられているモチーフが入っていたり、以前の『ファイナルへ向けての序曲』の中盤で用いられていたモチーフが入っていたりして、ディンギル側の音楽としてはまとまりのあるような感じがしますけど、これらは未使用ですね。

 B2はアクエリアスの浮遊大陸の湖に着水したヤマトの前にクイーン・オブ・アクエリアスが姿を表わしたシーンの音楽です。基本的には作品冒頭で水惑星をめぐる宇宙神話が語られる部分に用いられた音楽と同じですが、アレンジが若干異なっています。それから、ラストでアクエリアスが地球を離れていくシーンにも用いられていましたが、これは一般公開された35mm版では途中で切られた部分らしいですね。*3
 水惑星アクエリアスの音楽と言うより、試練を愛だと語るクイーン・オブ・アクエリアスのテーマ曲という感じがします。川島和子のスキャットに加えて男声コーラスが入っているのも、A1などとはまったく別の世界を感じさせてくれます。

 B3はディンギル星の水没から脱出してきたヤマトが地球に報告を送った後、ルガール・ド・ザール将軍の奇襲を受けるシーンに使われたのが効果的でした。そして冥王星海戦で水雷艇発進直前の移動要塞の位置を、古代と雪のコスモゼロが報告する緊迫したシーンにも使われていました。
 今回のディンギル側の音楽を一番象徴的に表わしている音楽と言えます。まるでビゼーの「カルメン組曲」でも聴いているかのような小気味良いスパニッシュ・ギターの多用が何よりの特徴でしょう。
 A2がその歴史的、宗教的な面からウルクの強大さを表わしているのに対し、こちらは単純に軍事的な強さを表わした音楽と言えます。

 B4も本編未使用曲です。イメージとしては、冥王星海戦で古代と雪を乗せたコスモゼロが敵要塞の位置を突き止めるために追撃していくシーンに使われる予定だったのではないかと思われます。スピーディーな感じの曲で、未使用というのが勿体ない気がします。しかし、コスモゼロという割にはヤマトのテーマがちらつく音楽ですね。

 B5はアクエリアスに着水したヤマトが地表を探査している際に、浮遊大陸に滅びた文明の存在を示す遺跡を発見したシーンに使われていました。『ファイナルへ向けての序曲』では印象深いテーマだったので、映画ではどのように聴かせてくれるのか楽しみでしたが、実際には触りが少し流れただけという感じでした。
 このサントラ版では少しノスタルジックを感じさせる雰囲気に仕上がっていますが、以前のメロディックな軽快さが無くなっていたのが少し残念でした。

 今から聴くと、この1枚目のアルバムも堅実な選曲なのですけど、当時は具体的な場面が予想できず、なんかイメージテーマ曲集みたいな感じがしました。まあA3、B4なんかは確かにそうなんですけど。だいたい当時は主にコロムビア版のサントラを主に聴いていましたから……

------------------------------------------------------------------------
2.宇宙戦艦ヤマト完結編 テーマ音楽集2

 いよいよ劇場公開されて実際の映画を観てみると、やはり1枚目のアルバムの曲ってそう印象的なところとかには使われていないんですね。まあコロムビア版に比べると少しはマシだったようですけど。
 そんなわけで2枚目のアルバム*4が出るや否や……というわけには残念ながらいかなかったですけど、まあ発売から割とすぐに徳間版のサントラを買っていましたね。1枚目はコロムビア版のついでに買ったようなものだったんですが、2枚目は最初から徳間版に的を絞って買ってきました。コロムビア版を買ったのはもっと後でしたね。

  A1.二つの銀河         (作曲:宮川 泰)
   2.水没するディンギル星    (作曲:羽田健太郎
   3.ルガール総統の戦争     (作曲:宮川 泰)
   4.ウルクの猛攻        (作曲:宮川 泰)
   5.島を想う          (作曲:宮川 泰)
   6.古代君よかった       (作曲:宮川 泰)
   7.ディンギル少年のテーマ   (作曲:羽田健太郎

  B1.FIGHT コスモタイガーⅡ   (作曲:宮川 泰)
   2.大魔神           (作曲:羽田健太郎
   3.薄幸のディンギル少年    (作曲:羽田健太郎
   4.沖田(父)と古代(子)   (作曲:宮川 泰)
   5.悲愴のボレロ        (作曲:羽田健太郎
   6.SYMPHONY OF THE AQUARIUS  (作曲:羽田健太郎

 A1は作品冒頭、タイトルバックに二つの銀河が交差する天変地異が描かれていたシーンの音楽です。本来ならさながら一大スペクタクルとして描かれるような場面なんですけど、この作品ではあくまで舞台設定のための背景でしかないため、オープニングのスタッフクレジットのバックに使われているだけです。
 だから音楽の方も具体的な天変地異を描いたというよりも、全体的なイメージテーマという感じなのですが、それでも銀河レベルの現象なのですから迫力ある音楽に仕上がっています。壮絶なオーケストラの中にときおりピアノが出てくるのもヤマトらしいといえばそうですね。

 A2はヤマト初登場の場面に使われていました。そしてアクエリアスの接近したディンギル星が水没していくシーンが印象的です。これまた天変地異の音楽なわけですけど、こちらはせいぜい惑星レベルの現象ですし、内容的にも物語と深く関わるところですから音楽も具体的に作られています。
 前半部分はアクエリアスの登場から水柱がディンギルに降り注いでいくシーン、後半はそんな天変地異に為す術もなく飲み込まれて行くディンギルの人々の悲しい運命を奏でているようです。

 A3はアクエリアスに着水しているヤマトに対して、ハイパー放射ミサイルを擁するディンギル艦隊が接近していくシーンに使われていました。
 これと同じモチーフを使った戦闘シーンの音楽が多くあるのでややこしいですが、この曲は割と素直にオーケストラを使ったアレンジです。コスモタイガーによる敵艦隊の発見からヤマトの緊急発進まで、非常に緊迫したスリリングな展開を奏でてくれました。

 A4は冥王星海戦で敵艦隊の本拠地の位置を探るため、引き上げる敵機を追撃していくコスモゼロが、敵機とドッグファイトを繰り広げるシーンに使われていました。
 スピード感が冴え、非常に緊迫感を高めてくれる音楽なのですがディンギルのモチーフが本編に使われた音楽ではなく、アクエリアスのモチーフが使われていたりと『ファイナルへ向けての序曲』の世界の音楽のままで、実際の本編の音楽とは少し違和感があることも確かです。*5

 A5は『完結編』で一人だけ貧乏くじを引いてしまった島のテーマです。崩壊する都市衛星ウルクからヤマトを脱出させ、第1艦橋で息を引き取るヤマト航海長・島大介の悲しい最後を奏でた音楽です。
 さすがにこの辺の人間の心情に訴え掛けるような音楽は宮川泰氏ならではの深い味わいがありますね。島の最後も印象的ですが、これはウルクの最後のテーマでもあるわけです。脱出ロケットが発進していったとはいえ、あの都市の住民の多くは都市と運命を共にしてしまったのでしょう。ルガール総統以下、脱出していくディンギル将兵にも悲しみの感情はあったのでしょうか。

 A6はヤマトが地球に帰還した後、奇跡的に一命を取り止めた古代の意識が回復したシーンに使われていました。いわば雪の喜びを表わしたテーマというわけです。
 軽快なギターとバイオリン、ピアノの音が、いつもの宮川氏のヤマトの音楽らしさを感じさせてくれます。しかし、ギター・木村好夫、バイオリン・徳永二男、ピアノ・羽田健太郎という豪華な演奏陣が相変わらず凄いですね。

 A7はヤマトがディンギル星で多大な犠牲を払いながらただ一人だけ救出できたディンギル少年のテーマですが、いわばイメージテーマという感じで本編では未使用です。これまたギター、バイオリン、ピアノ、フルートとメインの楽器が変わりながら軽快なイージーリスニング曲になっています。

 B1はコスモタイガーのドッグファイトのテーマ曲です。冥王星海戦でヤマト以下の地球残存艦隊が戦闘態勢に入り、コスモタイガーが発進していく緊迫感あふれるシーン、そして都市衛星ウルクの攻防戦で島の懸命の努力により開いた着艦口からコスモタイガーが発進していく勇壮感あふれるシーンに使われていました。
 『新たなる旅立ち』以来のディスコビートのブラス的なテーマとは一転して、重厚なオーケストラとエレキギターによるスピーディーなテンポの音楽がコスモタイガーの力強さを奏でています。曲の導入部に「ブラックタイガー」の一部が使われているのも印象的です。*6

 B2はウルクの神殿部に突入した古代たちが、巨大な魔神像の前で銃撃戦を繰り広げるシーンに使われていました。宗教的な不気味さを表わすためか、おどろおどろしい不気味な音楽になっています。大魔神といっても、乙女の祈りで動き出したり、顔を撫でると表情が変わったりするわけではないんですけどね。

 B3はディンギル少年がルガール総統と対峙する古代をかばおうとして、実の父親であるルガール総統に撃たれて命を失うシーンに用いられていた曲です。
 弱肉強食のディンギルに生まれながら、ヤマトに救助されたことで人に尽くすことの大切さを知り、その価値観を実践しようとして命をなくした健気なディンギル少年の夢や希望、そして悲しみのすべてが織り込まれている音楽ですね。

 B4はヤマト乗組員が退艦した後、最後に古代と雪が沖田艦長と別れるシーンに用いられていた曲です。
 沖田の決意を知り、第1艦橋を退出した後で泣きはじめた雪に対して古代が語り掛けるセリフ「雪、僕は泣かないよ。あの人を見送るまでは」というのは70mm版になって変更されてしまいましたけど*7、この音楽とこのセリフの組み合わせが非常に気に入っていました。

 B5は冥王星海戦でヤマトの盾になって次々に駆逐艦が撃沈されて行くシーンに使われていた悲壮感あふれる曲です。
 ガミラス戦以来のヤマトの活躍を知るからこそ、ヤマトさえいれば地球の未来は託せるとばかりに自らの艦をハイパー放射ミサイルの矢面に立たせる艦長たちの心情がにじみあふれてくるような感じがします。

 B6はラストで地球に接近してきたアクエリアスから伸びた水柱を沖田艦長がヤマトの自爆によって阻止する一連のシーンに流れていた大曲です。羽田健太郎氏によるこの大曲は、かなり本格的なピアノコンチェルトに仕上がっていますが、地球に向かいつつあるアクエリアスの水流という、スリリングで緊張感あふれる一大スペクタクルシーンを見事なまでに高揚させてくれています。
 どちらかというと(テーマが明快簡潔ではない)ヤマトらしからぬ音楽なので、これでヤマトが最後を迎えるというのは何かちょっと寂しい気がしましたけど、かといって既製の音楽の延長でこのシーンが描ききれたかというと、なんとも言えませんね。

 この2枚目のサントラは、かなり映画の雰囲気を再現してくれていました。そういう意味では歴代のヤマトのサントラ盤の中でも一番のアルバムだと言えます。従来のコロムビアのアルバムはイメージ音楽集的なものが多くて、実際の劇伴とはかけ離れたものになってるものがしばしば見受けられたのですが、徳間から出た『完結編』のサントラは十分に満足できるものでした。
 しかし、この徳間版のサントラでは未収録の曲もまだまだあるわけです。そういう点ではサントラを3枚も出したコロムビア版の方でフォローできると良いのですが、ある程度なら補完できるものの完全ではありません。5枚もサントラが出ていながら未収録の劇伴が存在するというのは、いかにもヤマトらしいといえばそうなのですが……*8

 

f:id:animepass:20190503212834j:plain
------------------------------------------------------------------------
3.宇宙戦艦ヤマト完結編 音楽集PART1

 続いて徳間版に対する補足と言うことで、コロムビアから出た3枚のアルバムを見て行きたいと思います。さっそく、1枚目のサントラ*9から。

  A1.水の星アクエリアス     (作曲:宮川 泰)
   2.アクエリアス45億年    (作曲:羽田健太郎
   3.ヤマト悲愴なる出撃     (作曲:宮川 泰/編曲:羽田健太郎
   4.ルガールJRの戦争     (作曲:宮川 泰)
   5.ユキ            (作曲:宮川 泰)

  B1.ウルクの歴史        (作曲:羽田健太郎
   2.冥王星海戦         (作曲:宮川 泰)
   3.ディンギル星        (作曲:羽田健太郎
   4.FIGHT!コスモタイガー    (作曲:宮川 泰)
   5.神秘の星アクエリアス    (作曲:宮川 泰)

 A1、A3、B5は徳間版と同一曲なので割愛します。

 A2は徳間版に同名曲がありますけど、アレンジが異なります。徳間版は女声スキャットと男声コーラスを主体にした厳かな演奏でしたが、こちらは弦主体の重厚なオーケストラによって壮大に奏でられています。ヤマトの他の音楽の例に漏れず、どちらもピアノが鍵になってる部分があるのですが、ピアノの使い方からして相当違っていますね。
 このコロムビア版は映画冒頭の水惑星にまつわる宇宙神話が語られるシーンに使われていた方のバージョンです。

 A4は徳間版の「ルガール総統の戦争」等と同じく、ディンギル側の戦闘テーマ曲ですが、劇中未使用曲です。タイトルにあるようにルガール・ド・ザール将軍の戦いを表わす曲らしく、ルガール総統のテーマに比べると若干アップテンポな感じです。
 ルガール将軍の快進撃を表わす部分には木琴の音が効果的に使われていますし、トランペットが多用されてたり、どこか爽快感の感じられるところがありますね。中間部ではスローテンポでルガール将軍の心情が奏でられる辺りからスパニッシュギターが入ってきてディンギルのテーマとしての統一感が図られています。
 でも宮川氏のディンギル側のテーマって、一向にビゼーから脱却できていないんですね。そこが宮川氏らしいと言えばそうなんですけど、この『完結編』では同じような曲がいくつもレコード化されているから、耳につきやすいんです。

 A5も劇中未使用曲です。徳間版の「雪の悲しみ」や「古代君よかった」び使われているモチーフをストレートにアレンジした感じの曲です。例によって羽田氏のピアノ、徳永氏のバイオリン、木村氏のギターの組み合わせが森雪のテーマを高らかに歌い上げています。
 『ヤマトよ永遠に』での「愛し合う二人」と同じ路線の曲のようですが、全体的に曲調がマイナーなのが単独曲として聴くには辛い感じがします。

 B1は徳間版にも同名曲がありますが、演奏が異なります。徳間版には重厚な男声コーラスが入っているのですが、コロムビア版にはそれがなく、代わりにピアノの音が目立って聞こえます。最初のうちは徳間版のコーラスが消えただけと言う感じですが、ラストに近づくにつれてピアノが表に出てきますね。ピアノが前面に出た分だけ曲の終わりがあっさりとした感じになっています。
 実際の劇中に使われていたのは仰々しい徳間版の方ですが、単独の曲として聴くにはコロムビア版みたいにあっさりした方が良いのかもしれませんね。個人的には徳間版の方が好きですけど。

 B2は「冥王星海戦」というタイトルになっていますが、実際にはディンギル艦隊の地球空襲のシーンに使われていました。冒頭部分が長官の渡したメモを見て驚く雪のシーンに重なっていて、ミステリー感を出していたのも印象的でした。
 すでに宇宙艦隊を失ってしまっていて、何一つ有効な反撃も出来ないまま、為すがままにやられていく地球の絶望感と、非情な攻撃をくり返すディンギル軍の残酷さをブラス系主体の音楽が奏でているという感じです。

 B3も未使用曲です。雰囲気的にはアクエリアスの接近によって天から雨が降り続いているという感じの曲ですが、ハープとピアノの単調な繰り返しの音楽が神秘的で物悲しい雰囲気を出しています。
 トランペットによるスパニッシュなフレーズが入って、ルガール総統のディンギル星だということを感じさせますが、それが無ければ、ただの悲劇の惑星だということもこの曲の含むテーマのひとつなのでしょう。

 B4は徳間版の「FIGHT コスモタイガーⅡ」と同じテーマを、いわゆるオーケストラサウンドを排してセッションジャズのサウンドで作り上げた曲ですね。テンポは若干緩め。どちらかというと「新コスモタイガー」に雰囲気が似ているかなという感じですが、ヤマトの劇伴に用いるにはちょっとという気がします。
 実際の劇中には徳間版の方が使われているので、この曲は未使用に終わりましたが、最初にサントラ盤を聴いた時はちょっと不安に思いましたね。

 というわけで、1枚目からしてちょっと傾向の掴みにくいサントラ盤なんですね。実際の劇伴に使用されたものから別アレンジのバージョン、未使用曲。徳間版が実際の劇伴使用曲を中心にした構成だったのに比べると、よく分からない構成のアルバムとしか言えませんね。
 まあ、この1枚目の時点ではどの曲が実際に使用されるかなんてのはまだ不明だったはずですけど、それにしてもね……

------------------------------------------------------------------------
4.宇宙戦艦ヤマト完結編 音楽集PART2

 引き続き2枚目*10を行きます。

  A1.二つの銀河         (作曲:宮川 泰)
   2.水没するディンギル星    (作曲:羽田健太郎
   3.移動要塞          (作曲:宮川 泰)
   4.ハイパー放射ミサイル    (作曲:羽田健太郎
   5.大魔神           (作曲:羽田健太郎
   6.ファイナル ヤマト      (作曲:宮川 泰)
   7.悲しみ           (作曲:羽田健太郎

  B1.超巨大戦艦ガルンボルスト  (作曲:宮川 泰)
   2.古代とヤマト        (作曲:宮川 泰)
   3.薄幸のディンギル少年    (作曲:羽田健太郎
   4.二人のコスモゼロ      (作曲:宮川 泰)
   5.アクエリアス レクイエム   (作曲:羽田健太郎
   6.SYMPHONY OF THE AQUARIUS  (作曲:羽田健太郎

 A1、A2、A5、B3、B6は徳間版と同一曲なので割愛します。

 A3は徳間版に同名曲がありますが、コロムビア版の方はかなりアップテンポにアレンジされています。徳間版は要塞の登場シーンから始まって、重厚で圧倒的な存在感を聴かせてくれるのですが、コロムビア版の方は緊迫感あふれる戦闘シーンにピッタリといった感じがあります。モチーフもサビのところだけというような雰囲気がありますし……でも、残念ながら本編では未使用なんですね。
 この『完結編』ではディンギル側の戦闘テーマだけでもかなりの曲数が作られていますが、映画の上映時間は限られているから未使用曲の山が累々としています。他の作品に比べるとまったくもって勿体ない限りですが……

 A4はディンギル軍の強力兵器ハイパー放射ミサイルの使用されるシーンで使われていたテーマです。最初のヤマトが襲撃されるシーン、地球艦隊が奇襲されるシーン、そして当初の35mm版では冥王星海戦でも流れていました。
 特にディンギル側のテーマというわけでもなく、ハイパー放射ミサイルの脅威や、それに対応するヤマト艦内の緊迫感とか、そういう状況的な側面を音楽で表わした曲です。これは羽田氏の音楽ですが、宮川氏との音楽傾向の違いを感じさせてくれる1曲です。

 A6は『ファイナルへ向けての序曲』の最後で使われていた戦艦大和鎮魂曲のモチーフをストリングス系主体にメジャーアレンジした感じの曲ですが、本編では使用されていません。
 「ファイナル・ヤマト」という曲名が示すように、最後を迎えるヤマトに対する愛惜というものを感じさせる音楽で、ある意味では作品そのものを代表するイメージ曲と成り得た曲のような感じがしますが、未使用曲で終わったことが残念ですね。

 A7も劇中未使用曲です。羽田氏の音楽らしく『マクロス』の音楽なんかとの類似性が非常に強く感じられます。具体的にどういう場面を想定して作られた曲なのかは不明ですが、アクエリアス20回目のワープを終えて、残るは水没のみとなった絶望的な地球を思いやるヤマト乗組員の悲しみという感じかな。
 羽田氏の楽曲独特のバイオリンの効果が果たしてヤマトの作品に合ったかどうかは今となってはわかりませんが、この手の曲は宮川氏の作品が多いだけに興味深い音楽ですね。

 B1は都市衛星ウルクでの決戦でルガール総統率いるロボットホースの部隊がヤマトを襲うシーンに使われていた曲です。『ファイナルへ向けての序曲』での「大ディンギル帝国星」の音楽をアップテンポにアレンジした感じです。
 前半のマーチ部分はロボットホースを駆るルガール親衛隊の威容を誇る布陣を描いていますし、中盤のスパニッシュギターの部分は自らロボットホースを駆ってヤマトの甲板上で戦うルガール総統の軽快な戦いぶりを見事に感じさせてくれました。

 B2は挿入歌「古代とヤマト」のインストゥルメンタル版です。もちろん劇中では未使用です。1コーラス目はギターとトランペット、2コーラス目がバイオリンとピアノが主題を奏でていますが、宮川氏のヤマトの音楽ってこのパターンばかりみたいな気がしますね。(いわゆるイージーリスニング曲に限ってですが)

 B4も劇中未使用曲ですが、非常にテンポの早いスピード感あふれる曲です。徳間版の「新コスモゼロ」とはタイトルが似ていますが、全く別の音楽です。冒頭のパーカッションとストリングスの掛け合いによるスリリングな感じが一転して、後半ではギターが主体の伸びやかな展開になっているところが戦いの中での清涼感を感じさせてくれます。
 タイトルからはやはり冥王星海戦でのコスモゼロの追撃シーンを想定した音楽だと思われますが、いかにも宮川氏らしい軽快なテーマのこの曲が未使用のままに終わってしまったのは残念ですね。

 B5はB6のモチーフを元に、ストリングス主体のレクイエム調にアレンジされた曲です。当然、劇中では未使用です。
 ピアノコンチェルトの原曲に比べると臨場感とか緊迫感、躍動感と言うものは無くなっていますが、その運命的なもの、精神的なものが抽出された感じになっています。さながらアクエリアスの海に沈んだヤマトの葬送曲という感じですね。

 この2枚目も徳間版と比べるとよくわからないアルバムなんですね。劇中使用曲は収録曲の半分。単純な未使用曲はともかく、別バージョン、アレンジ曲が多いというのがコロムビア版の顕著な特徴です。
 構成的に見ても、A1、A2、B6という映画全体のキーとなる曲を配置しながら、このアルバムを通して聴いても映画の雰囲気が掴めない。ベストに近い徳間版の2枚目に比べると雲泥の差と言えますね。
 サントラ盤としてはB面の構成がちぐはぐでまとまりがないし、イメージ曲集と考えるならむしろA1、A2、B6がかえってネックになってしまっている感じ。従来のヤマトのサントラ盤ならアルバムだけで開き直り、ひとつの世界を創りあげてしまっているような感じもあるのですが、『完結編』のサントラに限ってはそれさえ出来ていないのですね。う~ん。

------------------------------------------------------------------------
5.宇宙戦艦ヤマト完結編 音楽集PART3

 先の2枚はそれぞれ映画の公開と前後して、徳間版のアルバムと同時に発売されたのですが、この3枚目*11は劇場公開の半年後と言う、よくわからない時期に発売されました。未収録音楽集だと思えば納得も行くのですが、一概にそうとは言えない内容ですからね……

  A1.驚異のニュートリノビーム  (作曲:羽田健太郎
   2.ファイナルヤマト斗い    (作曲:宮川 泰)
   3.古代とヤマト        (作曲:宮川 泰)
   4.ディンギル少年のテーマ   (作曲:羽田健太郎
   5.抜けるヤマト        (作曲:羽田健太郎
   6.沖田と古代         (作曲:宮川 泰)

  B1.ディンギル星の水没     (作曲:羽田健太郎
   2.ルガール総統の斗い     (作曲:宮川 泰)
   3.ユキのテーマ        (作曲:宮川 泰)
   4.島大介のテーマ       (作曲:宮川 泰)
   5.アクエリアスレクイエムII  (作曲:羽田健太郎

 A1はルガール・ド・ザール将軍の艦隊を壊滅させ都市衛星ウルクに迫ってきたヤマトに対して、ルガール総統がニュートリノビーム防御幕で都市を覆い、さらにヤマトにビームを発射してくるシーンに使われていた音楽です。
 「ハイパー放射ミサイル」同様、何かのテーマ曲とか言うものではなく、ニュートリノビームによる恐怖と緊迫感を描いた音楽になっています。*12

 A2は2枚目の「ファイナル ヤマト」の音楽を勇壮にアレンジした感じの曲で、同じく劇中では未使用です。最後の航海に旅立つヤマトの悲壮な決意とかが感じられるような曲です。*13

 A3は2枚目のアルバム同様、インストゥルメンタル版です。2枚目のものはボーカル曲をストレートにアレンジしたという感じでしたが、3枚目では古代の心情を音楽的に歌い上げた劇伴的な雰囲気に仕上がっています。

 A4は徳間版に同名曲がありますが、アレンジが異なります。むしろ徳間版を元にイージーリスニング的にアレンジしたものでしょうね。ラストに思いっきりマイナー調のバージョンが付いているのですが、曲の構成としてはアンバランスで不自然です。
 劇中未使用のイメージ曲って感じですが、曲全体の構成からは徳間版の方がすっきりしていて良いです。

 A5は冥王星海戦の後、第11番惑星で《冬月》と別れたヤマトが、いよいよアクエリアスのワープ阻止に向かう準備をするシーンに使われていた曲です。弦のユニゾンによる緊迫した音楽がヤマトの置かれている差し迫った状況を雄弁に語っています。
 ヤマト乗組員の決意や不安、それらを乗せたまま宇宙空間を進むヤマトの新しい音楽がここにあります。

 A6は徳間版の同名曲とは別アレンジです。これまたコロムビア版に収録されているのはイージーリスニング的にアレンジされたものですね。まあ例によってバイオリン、ギター、ピアノのソロパートが持ち回りで聴けます。

 B1は「水没するディンギル星」の後半のモチーフを展開した感じの曲です。アクエリアスの水による大洪水に飲み込まれて行くディンギルの人々とその文明をまざまざと語り掛けて来る音楽です。でも、どちらかというと構成が冗長で、「水没するディンギル星」ほどの迫真性が感じられないんですね。

 B2は冥王星海戦で古代のコスモゼロとディンギルの戦闘機がドッグファイトを繰り広げるシーンに用いられていた曲です。一連のディンギル側戦闘テーマの中では一番ピチカートの効いた感じの曲です。スパニッシュギターに加えてリズミカルなピアノの音が小気味良いドッグファイトの音楽を演出しているかの感じがします。

 B3は「ユキ」や徳間版の「古代君よかった」のモチーフをイージーリスニング的にアレンジした感じの曲です。八神純子「ラブ・シュープリーム」のB面に収録されていた「ユキの愛」と同一の曲です。
 1枚目の「ユキ」とは違ってメジャー系にアレンジされているので非常に聴き心地の良い曲に仕上がっています。メインに使われている楽器はいつも通りですね。

 B4は徳間版の「島を想う」のモチーフをイージーリスニング的にアレンジした感じの曲です。後半部分で島の最後のシーンの劇伴と同じアレンジの曲が付けられていますが、こういう切り貼りした作りは感心できませんね。

 B5は「アクエリアス レクイエム」同様、「SYMPHONY OF THE AQUARIUS」のアレンジ曲ですが、こちらは完全にイージーリスニング的な仕上がりになっています。後半でピアノがメインになっていますが、もはや原曲とは雰囲気の異なった曲と言う感じです。

 この3枚目もアルバムの出来としては中途半端な感じです。未収録音楽集なのかイメージ曲集なのか、アルバムの位置付けがはっきりしていない。実際の劇伴に使われたのは3曲だけだからイメージ曲集という感じが強いけど、いくらなんでも1曲目が「驚異のニュートリノビーム」というのはアルバム構成のセンスを疑いたくなりますね。アレンジ曲にも意図の不明なものが多いし……

------------------------------------------------------------------------
あとがき 徳間版とコロムビア版についての雑感(2019年加筆)

 個々の曲についてはコロムビア版だけの劇中使用曲もあるし、一部にアレンジの疑問が残る曲があっても、十分に魅力が感じられます。それでいてアルバムにあまり魅力が感じられないのですね。1枚目はともかく、2枚目以降は中途半端に劇伴とイメージ曲が混在して、アルバムそのもののコンセプトが見えないのです。
 例えば『ヤマトよ永遠に』の2枚目のサントラ盤なんかは、実際の劇伴そっちのけでアルバムだけでひとつの世界を構成してしまっている感じなのですが、そういうのもなく、ただの劇伴集にも徹していない。ひたすら劇伴集に徹しただけの徳間版サントラと比べて、聴くものにアピールするものが無いんですね。

 ヤマトのアルバムと言うとコロムビアのイメージが強いだけに、最後になってこういうアルバムになってしまったことは大いに残念でした。おかげで『完結編』のサントラといえば今では徳間版が真っ先に出てきますし、長らく徳間版でしかCDが聴けなかったこともあってか、コロムビア版のイメージは薄いですね。

 とはいえ、80年代半ばに発売された徳間版の2枚組CDは今となっては中古市場にしかなく、また当時のマスタリング技術では音質に限界があるため高音質盤での復刻が望まれるところですが、さすがに2010年代に発売された『YAMATO SOUND ALMANAC』でも音源そのものはカバーしてるものの、徳間版のアルバム構成の形での復刻はなされませんでした。
 『完結編』の音楽の全体像を手軽に楽しむには徳間版の2枚組CDが適切だと思うので、関係各位にはぜひ復刻を検討してもらいたいところです。ただ、このCD、ディスク構成がLPの発売順とは逆になってるんですね。1枚目に『テーマ音楽集2』の内容が、2枚目に『テーマ音楽集1』の内容が収録されています。

 LPの発売順での収録内容というのはちゃんと考えられていて、作品公開時期より早い1枚目では作品の全体像を示すような導入的な音楽としてアクエリアスウルクのテーマ曲が収録され、作品公開時期に合わせた2枚目で個々のシーンで印象的だった数々の音楽が収録されています。
 CDの発売時期を考えると、もう購入者は『完結編』の作品内容を知っていて、アナログ盤からCDへの買い替えが多いとの想定で、オリジナルの発売順にはこだわらず、むしろ好んで聴かれることが多い『テーマ音楽集2』の内容を1枚目に収録したのかとも思いますが、真相は不明です。

------------------------------------------------------------------------
(記事初出 ニフティサーブ・アニメフォーラムマガジン館 95.05.01/95.05.15)

f:id:animepass:20190503212933j:plain

 

現行商品で出てるコロムビア版音楽集の3枚

YAMATO SOUND ALMANAC 1983-I「宇宙戦艦ヤマト完結編 音楽集 PART1」



YAMATO SOUND ALMANAC 1983-II「宇宙戦艦ヤマト完結編 音楽集 PART2」



YAMATO SOUND ALMANAC 1983-III「宇宙戦艦ヤマト完結編 音楽集 PART3」



旧商品の3枚組。中古で安いのがあればお得かも。ただし、当然ながら上の『YAMATO SOUND ALMANAC』の音楽集に収録されてるボーナストラックは存在しません。

「宇宙戦艦ヤマト」 完結編 音楽集



コロムビア版音楽集には含まれてない劇伴使用曲。「FIGHT コスモタイガーⅡ」等の徳間版にしか収録されなかった音源も主要曲はこちらに収録。

YAMATO SOUND ALMANAC 1983-IV「宇宙戦艦ヤマト完結編 BGM集」



2000年代初頭に出たETERNAL EDITIONの2枚組。1枚目は徳間版だけの音源も含めて1枚で『完結編』の音楽世界を構築しようとした作りですが、必ずしも徳間版の音源優先ではないので既存BGM集との被りを考えると中途半端。 2枚目は『ヤマトファイナルへ向けての序曲』のSE・ナレーション抜きの音源とボーナストラックに『アニメピアノ組曲宇宙戦艦ヤマト』、どちらも『YAMATO SOUND ALMANAC 1974-1983 YAMATO MUSIC ADDENDUM』に収録されています。

ETERNAL EDITION File No.8&9「宇宙戦艦ヤマト・完結編」



90年代発売の『BGM集』(2000年代に再発売) 当時はまだ徳間版が現行商品として出てた時期なので、あくまでコロムビア版音楽集の補完的構成。他のBGM集と同様、キャラクター毎のテーマ別の構成になってるがユニークかな。

オリジナルBGMコレクション 宇宙戦艦ヤマト 完結編



『YAMATO SOUND ALMANAC』シリーズの捕逸盤 めぼしい音源としては70mm版でヤマトの出航シーンに使用された「誕生」の別テイク(35mm版はオリジナルのバージョン)と、アクエリアスの驚異が去った後に流れる「序曲」の別テイクかな。

YAMATO SOUND ALMANAC 1974-1983 YAMATO MUSIC ADDENDUM



最後に徳間版2枚組 Amazonに画像がない古い商品だけど、発売期間が長かったためか中古はけっこう出回ってるようなので、それほと入手に苦労はしないかな。

宇宙戦艦ヤマト FINAL YAMATO BEST COLLECTION

*1:元記事を書いてたのが90年代半ばのヤマト音楽の一斉CD化の真っ只中で、『イージーリスニングシリーズ』もほどなくして復刻されたのですが、ジャケットがLPと違ってたという。LPのジャケットに使われていたのは先年物故した写真家デイヴィッド・ハミルトンによるセミヌードの女性写真で、あえて大人向けの商品ということをアピールしてたのかと思いますが、その写真の使用権が切れていたのでCDでは使えなかったというのが真相のようです。
『YAMATO SOUND ALMANAC』での復刻の際にも90年代の復刻版CDのジャケットが使われているので、もうオリジナルのジャケットを見る機会は無さそうなので、残念で仕方ありません。

*2:宇宙戦艦ヤマト完結編 テーマ音楽集1』(ANL-1001 83.01.21 ¥2,500)
後に発売された次のCDの2枚目に収録されています。
宇宙戦艦ヤマト Best Collection』(27ATC-124~5 86.10.25 ¥5,400)
現在ではコロムビア版との重複曲以外は『YAMATO SOUND ALMANAC』の『完結編音楽集』のボーナストラックや『完結編BGM集』に分散して収録されています。

*3:自分は公開初日に35mm版の全長版を見てるのですが、ラスト付近の出来が西崎Pは気に入らなかったらしく、公開途中でいわゆる「ラブ・シュープリーム」とラストのアクエリアスが去っていくシーンのフィルムがカットされたようです。アクエリアスの方は後に70mm版で復活するのですが、「ラブ・シュープリーム」の方は切られたままになってしまいました。
もっとも、今はこれも円盤の特典映像として見れるようになっています。本当に幻になったのは35mm版にしか無かった「宇宙戦艦ヤマト'83」の流れるエンディングですね。

*4:宇宙戦艦ヤマト完結編 テーマ音楽集2』(ANL-1004 83.04.01 ¥2,500)
後に発売された次のCDの1枚目に収録されています。
宇宙戦艦ヤマト Best Collection』(27ATC-124~5 86.10.25 ¥5,400)
こちらも『YAMATO SOUND ALMANAC』に分散して収録されています。

*5:でも、『復活篇』でアマールに向かう第三次移民船団を護衛するヤマトが大ウルップ星間国家連合軍と戦うシーンに使われてたのよりは。確かに戦闘音楽としてはスリリングのある曲なんですが、敵味方と全然関係のないディンギルアクエリアスのモチーフが入ってる曲って……

*6:とはいえ『復活篇』以降で再登場することはなく、以前の「新コスモタイガー」のテーマが復活してしまってますが。

*7:70mm版のセリフではなぜか「雪、泣くんじゃない。あの人を見送るまでは」に変えられています。変更前のセリフだと古代が弱々しく感じるということなのですが、そんな側面があったっていいじゃないかと。35mm版と70mm版の違いの中で一番気になっている部分です。

*8:この辺の未収録曲は例によって『オリジナルBGMコレクション』、『ERTERNAL EDITION』、『YAMATO SOUND ALMANAC』の『BGM集』などによって現在では網羅されていますが、ここでは割愛します。

*9:宇宙戦艦ヤマト完結編 音楽集PART1』(CX-7081 83.01.21 ¥2,500)
90年代に3枚組のCD(COCC-12233~35 95.01.01 ¥7,282)の1枚目として復刻された後、現在は『YAMATO SOUND ALMANAC』に単独で復刻されています(COCX-37404 2013.11.20 ¥2,500)。

*10:宇宙戦艦ヤマト完結編 音楽集PART2』(CX-7095 83.04.01 ¥2,500)
90年代に3枚組のCD(COCC-12233~35 95.01.01 ¥7,282)の2枚目として復刻された後、現在は『YAMATO SOUND ALMANAC』に単独で復刻されています(COCX-37405 2013.11.20 ¥2,500)。

*11:宇宙戦艦ヤマト完結編 音楽集PART3』(CX-7114 83.09.21 ¥2,500)
90年代に3枚組のCD(COCC-12233~35 95.01.01 ¥7,282)の3枚目として復刻された後、現在は『YAMATO SOUND ALMANAC』に単独で復刻されています(COCX-37406 2013.11.20 ¥2,500)。

*12:特定のテーマとかいう音楽じゃないから『復活篇』ではブラックホールを使ったフライバイワープのシーンに用いられたりしてましたけど。

*13:というか、今となっては『大YAMATO零号』の影が脳裏にちらついて鬱陶しいですね。

魔法の天使クリィミーマミ

1.魔法の天使クリィミーマミ オリジナル・サウンド・トラック

 リン・ミンメイと来たら次はクリィミーマミというのがお約束でしょう。

 はっきり言って、『マミ』のTVシリーズはほとんど見ていません。今も昔も読売テレビは自局のアニメ番組の製作には熱心でも日本テレビ製作のアニメ番組の放映には冷淡なので、マミの放映はとてもみられる時間ではありませんでした。*1
 記憶に残ってるのは大学受験前の自宅学習期間に見た「ふしぎな転校生」と「優のフラッシュダンス*2ぐらいですね。どちらもマミというより優ちゃんの方に焦点を当てた回のような感じです。
 マミと言う作品に本格的に触れたのは『永遠のワンスモア』がTV放映された時でした。(読売テレビでもちゃんと放映してくれました) その後、『ロング・グッドバイ』以降のブームの時に出たビデオをレンタル店で借りて、一部のエピソードだけですけどTVシリーズの作品を見ることが出来ました。

 マミと言ったらやはり太田貴子の歌が頭に思い浮かびますが、馬飼野康二*3の劇伴音楽も、明るくてポップな曲がクリィミーマミの世界を作り上げていたように思います。
 『ロング・グッドバイ』の音楽は山中のりまさ氏でTVシリーズとは雰囲気の違う本格的な劇伴として作られていますが、それはまた後に取り上げます。

 サントラ盤*4の発売は徳間ジャパンから。『宇宙戦艦ヤマト完結編』でアニメージュレーベルを引っ提げて本格的にアニメサントラに入ってきましたが、現在では宮崎作品の音楽のイメージが強いところなので『風の谷のナウシカ』以前と以後とはイメージが違います(これは雑誌の『アニメージュ』も同じだけど)。マミの頃は新人アイドルを使った普通のアニメアルバムを出してるという感じでしたね。

  A1.デリケートに好きして
   2.フェザースターの舟
   3.ホップ・ステップ・ジャンピング~
   4.水玉のパジャマ(パジャマのままで)
   5.優のクリィミーマミ
   6.うきうき・エンジェル~ラブミー・エンジェル
   7.さみしい顔は見せないで
   8.ポジ・アンド・ネガ

  B1.クリィミーサンバ(パジャマのままで)
   2.ラストキッスでGood Luck!
   3.光のマジックゲーム
   4.スペース ハリケーン
   5.メランコリックなあなた
   6.魔法のダンシング
   7.夢見る気分で
   8.素顔の優ちゃん(デリケートに好きして)
   9.パジャマのままで

 A1は太田貴子の主題歌です。新人アイドルのデビュー曲ということで、当時としてはいわゆるアニメソングっぽさを外したアイドルソングになっていますが、今聞けば、すでに典型的なアニメソングとなっている感じです。(アニメソングそのもののイメージが変わってきましたからね)

 A2は優が魔法をもらうきっかけとなったフェザースターの舟の音楽ですが、神秘的とかいう感じはなく、日常的でどこかノスタルジックな感じのする曲です。優が魔法を返す最終回の使われ方が印象的でした。

 A3は優が駆け回ってる場面とか日常のドタバタ劇に使われたBGMを集めたものです。後腐れの無いポップな明るさと言うものが感じられていいです。単に明るいドタバタの音楽ならいくらでもありますけど、爽快感を併せ持ってる音楽は少ないですからね。

 A4はエンディング曲のアレンジですが、競馬の音楽を思い浮かばせるリズムが特徴です。『永遠のワンスモア』で(セントラル競馬場で行われた)ファイナル・ステージの直前に流れていたのが印象的です。

 A5は優の視点からマミと言う存在を歌ったイメージソングです。本編で使われたかどうかは定かでは無いけど、マミのミュージックビデオ『ラブリー・セレナーデ』には入っていましたね。

 A6はマミの登場シーンの音楽ですね。前半はコンサートなんかでマミが登場するシーンの音楽に使われていたように思います。確かTV版のファイナル・ステージもそうだったかな。後半はもうちょっと神秘的な登場シーン。最初に優がマミになった時なんかも使われていたのかな。ラストで魔法を失った優が俊夫の前に現れるシーンも印象的です。

 A7はどことなく寂しさを感じさせる曲ですが、メロディーが美しくて心に和む音楽です。ガットギターのように聞こえるのは多分シンセだと思うけど、マミの音楽の中ではかなり好きな曲ですね。

 A8はフェザースターから来た2匹のネコ、ポジとネガのテーマ曲ですが、かなりコミカルな曲になっています。この2匹じゃなくても、街なんかをぶらぶらと歩いてるシーンには似合いそうです。

 B1は文字どおりエンディング曲をサンバ調にアレンジした曲です。原曲はそれほど明るい曲ではないのですが、見事に南国の太陽が似合う明るい曲になっています。かなり聞き覚えはあるのですが、具体的に使われたシーンはちょっと思い出せません。

 B2はマミの所属するパルテノンプロの先輩アイドル歌手、綾瀬めぐみの歌です。歌っているのは島津冴子ですが、この当時の太田貴子よりはうまいですね。でも、マミ放映の1年の間にマミの曲はたくさん出たのに、めぐみさんの曲はこれ1曲だけだったのが寂しいですね。

 B3はシンセを使ったME的な曲ですが、よくわかりません。

 B4はサスペンス感あふれるスリリングな曲ですが、単調ではなく結構複雑な展開をしている聞き応えのある音楽ですね。『ロング・グッドバイ』で優が突然マミに変身してしまうシーンが印象的です。

 B5はあまりメランコリックな感じはしないんですけど、その代わり春の日だまりの中の何となく物憂げな感じがする曲です。なかなかメロディーの良い曲ですけど、どこで使われていたかはわかりません。

 B6はダンシングというより、事件の展開の流れを追って行くようなイメージがする曲です。もちろんリズムなんかはダンス音楽的なものですけど、メロディーが不安定なので、効果的な音楽にしか使えないようでもったいないですね。この曲は『永遠のワンスモア』で優たちがプロジェクトMの秘密を探るために行動を開始した辺りに使われていたのが印象に残っています。

 B7はマミの音楽では珍しくストリングス主体の音楽です。ちょっと現実から離れた幻想的なイメージを感じさせる曲です。

 B8はオープニング曲のアレンジです。少しバラード調のスローテンポな曲になっていますが、その分メロディーの美しさを十分聴かせてくれます。『永遠のワンスモア』でファイナル・ステージ後、魔法を失った優が俊夫の前に現れてから、新作のストーリーに入るまでの間に使われていたのがこの曲だと思いますが(ひょっとしたらTV版のラストの方かな)、1年続いたマミの物語を締めくくるのに十分印象的な曲でした。

 B9はシリーズ前半のエンディング曲です。後半は「LOVEさりげなく」に変わってしまいましたが、最終回は再びこの曲が使われていました。「LOVEさりげなく」が完全にマミの曲であるのとは反対に、この「パジャマのままで」は優の気持ちを表わしているような部分もあるので、最終回で優が魔法を失い、普通の女の子に戻った後のエンディングは、やはりこの曲の方が似合っていたのでしょう。

------------------------------------------------------------------------
2.クリィミーマミ ファイナル・ステージ

 リン・ミンメイが既製のSFロボットアニメというジャンルから作り出されたアイドルであるのに比べると、クリィミーマミはむしろ現実のアイドルの世界が魔法少女アニメと言うジャンルに投影された存在のように思います。
 演じている声優にしても、飯島真理があくまで歌手デビュー前のシンガーソングライターの卵だったのとは対照的に、太田貴子はこの作品と同時にデビューした新人アイドルでした。リン・ミンメイの歌はあくまでリン・ミンメイの歌であり、現実の飯島真理とは別物でしたが、クリィミーマミの歌は同時に太田貴子の歌でもあったのです。

 アニメソングを新人歌手のプロモートに使うというのは、この当時から現在まで数多くありますけど、アニメ番組そのものを新人歌手のプロモートに使うというのはそれほど多くありませんが、この『クリィミーマミ』から始まって『アイドル天使ようこそようこ』あたりまで、幾つか存在します。中にはアニメ放映中に早々と廃業してしまった例もありますので、実際どれだけ効果的かはわかりませんが、その草分けとなったのが『マミ』でした。

 デビュー当初の太田貴子の歌は「デリケートに好きして」を聞けばわかるように、決して飛び抜けて歌が良かったわけではありませんけど、次々と新曲が出るに連れて、だんだんとパワフルで魅力的な歌声になってきました。『クリィミーマミ』の物語はそうした太田貴子の成長の記録でもあるのです。
 そして、その1年間の総決算がTVシリーズ最終話のファイナル・ステージでした。この時のマミの歌を順に挙げると、次の通りです。

   1.BIN♥KANルージュ
   2.美衝撃
   3.囁いてジュテーム
   4.パジャマのままで
   5.LOVEさりげなく
   6.デリケートに好きして

 1はマミの代表曲と言って良いくらいの名曲で、『ロング・グッドバイ』ではめぐみさんがバスのカラオケで歌っていたのが受けていましたね。セカンドシングルの曲です。

 2は『永遠のワンスモア』でエンディングに使われていましたが、「LOVEさりげなく」のB面の曲です。

 3は「BIN♥KANルージュ」のB面曲なのですが、なぜかマミ関連のLPには収録されていない、幻の曲です。けっこう好きな曲なんですが……*5

 5は2代目エンディングに使われていたサードシングルの曲です。レコード版も良いのですが、「私のすてきなピアニスト」の回に使われていたピアノ・バージョンが聞き物ですね。ただし、ピアノ・バージョンはレギュラー声優の中にピアノが弾ける人*6がいて、アフレコ現場で直接録音したみたいなので、音源としては残ってないようです。

------------------------------------------------------------------------
3.デリケートに好きして (21st century ver.)(2019年おまけ)

 時は流れて21世紀になってから太田貴子自身によるマミ曲のセルフ・カバー盤が出ました。*7

   1.デリケートに好きして (21st century ver.)
   2.LOVEさりげなく (21st century ver.)
   3.BIN♥KANルージュ (21st century ver.)
   4.ハートのSEASON (21st century ver.)
   5.Zutto Kitto Motto (優と俊夫のデュエットver.)
   6.デリケートに好きして (Nao Remix)
   7.BIN♥KANルージュ (Lightin' grooves Remix)
  (8~12.1~5のカラオケ)

 4は『ロング・グッドバイ』のOP曲。
 5はもともとは『マミ』のLD-BOXに特典として収録されてた太田貴子のソロ曲*8を、俊夫役の水島裕とのデュエットにしたもの。
 6、7は1、3をクラブ系にリミックスしたもの。ボーナストラック扱いでも、この手の収録は好き嫌いが分かれるところです。
 以下は主に馴染みの深いマミ曲の1~4について。

 全般的にアレンジはオリジナルのアレンジをそのまま今風に再アレンジした感じで、マミの曲としての違和感はありません。ただ「デリケートに好きして」は太田貴子自身が当時の歌い方に合わせようとしてるのにちょっと苦しさを感じたりします。
 一転して「LOVEさりげなく」以降はロックシンガーとしての経歴を経た太田貴子のボーカルの力強さがストレートに反映されて、純粋にパワーアップされた21世紀のマミのボーカルとして楽しむことが出来ます。

 前回の『超時空要塞マクロス』で取り上げた『MARI IIJIMA sings LYNN MINMAY』が、あくまで飯島真理がカバーしたリン・ミンメイの曲って印象だったのと比べると、こちらはクリィミーマミの歌そのものが大人になったマミによってカバーされているって感じがします。

 ここ10年ばかり割と『マミ』が取り上げられることが多く、このセルフ・カバーの後にも『公式トリビュートアルバム』*9が発売され、ここにも何曲か太田貴子によるセルフ・カバー曲や新曲が収録されています。
 当時のぴえろ魔法少女を見てきたファンとしては『マミ』以外の『ペルシャ』とか『マジカルエミ』とかも取り上げてほしいって気がしますが、現実的には難しいでしょうね。*10

------------------------------------------------------------------------
(記事初出 ニフティサーブ・アニメフォーラムマガジン館 95.04.24)

f:id:animepass:20190329181646j:plain


 

TVシリーズサントラ盤
現行商品はこれ。1枚目が既製のサントラで、2枚目がDJ形式のドラマ編

BEST COLLECTION 魔法の天使クリィーミーマミ



サントラのみの旧製品。中古で安く手に入れるなら。

魔法の天使クリィミーマミ



30周年記念のBOX商品。TVシリーズのサントラ、ドラマ編、『ロング・グッドバイ』のサントラ、ベスト盤『カーテンコール』、ベスト盤『名作アニメ総集編』、『クリィミータカコ』のDVD、カラオケの入ったボーナスディスク付きのセット。収録曲のダブりが半端ない……

クリィミーマミ サウンド・メモリアルBOX(DVD付)



ミュージックビデオと同じタイトルのベスト盤『カーテンコール』。廉価盤の現行商品なので入手しやすいところ。

魔法の天使クリィミーマミ SONG BOOK・カーテンコール



上のBOX商品にも収録されている『名作アニメ総集編』。BOXのものはLP版の復刻みたいですが、こちらのCD版は3曲(2曲はBGM)多くて収録順も違っています。
マミのベスト盤としては『カーテンコール』よりも収録曲が多い(「優のクリィミーマミ」と「ラストキッスでGood Luck!」)のでお得。(ただしLP版は「I CAN SAY "BYE BYE"」が未収録)

「魔法の天使クリィミーマミ」総集編



21世紀新録のセルフ・カバーバージョン

デリケートに好きして(21st century ver.)



最近の声優さん等によるカバー。太田貴子島津冴子のセルフ・カバーもあり。

魔法の天使クリィミーマミ 公式トリビュートアルバム



「囁いてジュテーム」が入ってる太田貴子のベスト。『公式トリビュートアルバム』で井口裕香がカバーしてる「天使のミラクル」(「あなたに一番効く薬」のA面曲)も収録。

太田貴子 ベストコレクション



「囁いてジュテーム」収録の、ぴえろ魔法少女シリーズのベスト盤。『ハーバーライト物語』『ファンシーララ』までちゃんと入ってるのが良いです。

アニメージュ 魔法少女コレクション ぴえろ魔法少女シリーズ・ソング集

*1:平日の朝の11時だったり7時半だったり……。当時はまだビデオデッキは持ってなかったし、通学距離が長いから7時半には家を出ていたし……
そういうのが後々までずっと続いていて『機動警察パトレイバー』とか『ミラクル☆ガールズ』が早朝に放映されたり……まあそれでも放映されなかったいくつかの番組よりはマシですけどね。
で、今に至るも日テレ製作の深夜アニメが放送される確率は半分ぐらいかと。

*2:数少ない中にこれが入っていたことが、後に道を誤ってしまった原因なのかもしれません。あの怪獣とかに扮する三等身のかわいい優の原画を描いたアニメーターの高木弘樹さんも昨年(2018年)に亡くなられてしまいました、嗚呼…

*3:魔法少女シリーズでは『魔法の妖精ペルシャ』や『魔法のアイドル パステルユーミ』の音楽も手掛けています。他には『おはよう!スパンク』とか『劇場版エースをねらえ!』あたりが有名なところ。それよりも70~80年代の歌謡曲を幅広く手掛けていることで知られています。自分が名前を知ったのも河合奈保子の曲なんですね。

*4:魔法の天使クリィミーマミ オリジナル・サウンド・トラック盤』(ANL-1010 83.--.-- ¥2,500)

*5:CD時代になっても『マミ』のベスト盤等には長く収録されず、『クリィミータカコ』等の太田貴子のアルバムを探す必要がありました。最近(といっても、ここ20年ぐらいで)出てるベスト盤には入ってるようですが。『公式トリビュートアルバム』では笠原弘子がカバーしてるのが聴けて幸せです。

*6:後番組の『魔法の妖精ペルシャ』で真鍋よよこ役をやっていた星野桜子(現・稀代桜子)さんだという話が、昔出てた『マミ』のムック本に載っていました。『マミ』では番組レギュラーのような形でゲストキャラの役をいろいろやられてたようです。『ペルシャ』で沢木研二が弾いていた「見知らぬ国のトリッパー」のピアノソロもこの人の演奏のようです。

*7:『デリケートに好きして (21st century ver.)』(KDSD-00250 08.12.24 ¥2,095)

*8:同様に『ペルシャ』『マジカルエミ』『パステルユーミ』のLD-BOXにも同様に特典として太田貴子のオリジナル曲が収録されていたのですが、それっきりで長い間CD化等はされていませんでした。これらは後に『魔法のステージ ファンシーララ』の全巻購入特典CDに収録されたのですが、未だに一般発売等はされていないようです。

*9:魔法の天使クリィミーマミ 公式トリビュートアルバム』(XNAE-10037 11.02.09 ¥2,381)

*10:すでに主演声優や主題歌歌手が引退・物故してる作品が多いので。『マミ』がやれているのは太田貴子が現役復帰してくれたからという面が大きいでしょうね。

超時空要塞マクロス(TVシリーズ)

1.超時空要塞マクロス

 かつて人類存亡の危機に、その歌声をもって銀河を駆け抜け、地球を守り抜いた一人の少女がいた。伝説のそのアイドル歌手の名は『リン・ミンメイ』。

 TVシリーズ『超時空要塞マクロス』というと、毎週日曜日の午後2時、かかさずチャンネルを4に合わせていましたね。作ったバルキリーのプラモの数は知らず。高校時代に一番はまっていた作品でした。
 当初はF-14もどきのリアルな可変戦闘機と巨人サイズの巨大戦艦の組み合わせというメカニックな要素が魅力に思えていたのに、いつのまにかそれがリン・ミンメイというキャラクターに取って代わられていました。(最初はただの中華街の女の子が、途中で歌手デビューするなんて思わなかったですからね)

 そのミンメイの歌の作曲を含めて、音楽を担当していたのが羽田健太郎氏です。羽田氏と言うと劇場版『宇宙戦士バルディオス』でもシンフォニー・ロックとか称する華麗な音楽を聴かせてくれていましたけど、この頃はまだ『ヤマト』音楽のピアニストという印象が個人的には強かったですね。
 このTV版『マクロス』を経て、翌年の『宇宙戦艦ヤマト完結編』、翌々年の劇場版『マクロス 愛・おぼえていますか』、『さよならジュピター』と立て続けに大作を手掛けられたことにより、否が応でも作曲家として意識することになりますが。

 この『マクロス』のサントラ盤*1を出していたのがビクター音産(現・ビクターエンタテインメント)ですが、老舗のメーカーですからこれ以前にもアニメ主題歌に関しては幅広く扱っていましたけど、本格的にアニメのサントラ盤を手掛けるようになったのは『マクロス』あたりからのような気がします。
 いかに『マクロス』のレコードが売れたかは、今なお『マクロス』のボーカル集CDがビクターの定番商品の中に入っていることからも伺えますね。

  A1.マクロス
   2.運命の矢
   3.涙のバイオリン
   4.小白竜
   5.悲しみのメロディー
   6.待ち伏せ
   7.あ・こ・が・れ
   8.偵察
   9.進宙式
   10.愛は流れる

  B1.ドッグ・ファイター
   2.シルバームーン・レッドムーン
   3.ビバ!ゼントラディアン
   4.悲しき宇宙兵
   5.総攻撃
   6.幼年期の終り
   7.0-G Love
   8.アクション
   9.旅立ち
   10.ランナー


 A1は藤原誠の主題歌ですが、結構『ヤマト』を意識したかのような正統派の主題歌になっています。アイドルソングそのもののミンメイの歌と並べても違和感が無いのは不思議ですが、これは慣れの問題かな。

 A2、6、8、B1、5、8と言ったところが作品中でしばしば使われた戦闘シーンの音楽ですね。特に目立つのがB1で、アイキャッチや次回予告の音楽なんかにも使われていました。戦闘に巻き込まれて行くという雰囲気を感じさせるA2なんかもマクロスらしい曲です。B8は主にトランスフォーメーションの時に使われていた、数少ないマクロス側の景気の良い音楽のひとつです。

 A3、5、B4、6と言ったところは果てしなき戦闘の中での絶望感とか挫折感とか孤独感、やるせなさといった辺りを羽田氏独特のメロディーが巧妙に奏でています。マクロスの音楽と言うと、派手な戦闘シーンの音楽よりもこんな音楽の方が味わいがありますね。

 A4、10、B2、7が飯島真理の歌うミンメイの歌です。「小白竜」は作品中でミンメイ主演で製作された同名の映画の主題歌、「0-G Love」は2枚目のシングルだったかな? 「愛は流れる」は実際に27話*2で使われていたバージョンとは違いますが、フルコーラスでミンメイの歌が聴ける数少ない曲のひとつです。「シルバームーン・レッドムーン」はどちらかというと、劇場版
で輝と美沙が地球に戻ってきたマクロスに帰還した時に街に流れていたシーンが印象的でした。

 A7はこのアルバムでは唯一の日常場面の音楽です。『マクロス』では日常のシーンがきっちり描かれていたのが印象的でした。そのための艦内の街であったわけですけどね。

 A9、B9というところは戦闘シーンを抜きにしてマクロスという艦を描いた音楽という感じの曲です。とくにB9は主題歌のイントロのメロディーが展開されているわけですが、聞き応え十分です。

 B10は藤原誠によるエンディングテーマ。これも最終回は飯島真理バージョンだったんですが。これまた正統派に近いエンディングの作りなんですけど、古さが感じられませんね。

------------------------------------------------------------------------
2.超時空要塞マクロス VOL.Ⅱ

 1枚目のアルバムはBGMに関しては主要曲を網羅しているし、サントラの出来としては良い方だったと思いますが、聴いていて物足りなさを大きく感じてしまいました。なぜならミンメイのデビュー曲である「私の彼はパイロット」が入っていなかったからです。
 幸いにして放映延長が決まり、「私の彼はパイロット」を収録した2枚目のサントラ盤が発売されることになりました。*3

  A1.冥想
   2.ユニバース
   3.EMPTY
   4.私の彼はパイロット
   5.青春の街角
   6.スペクタクル
   7.ゼントラディアン大要塞
   8.ダーティー・ヒーロー
   9.傷
   10.ノスタルジア
   11.メロディアス・愛
   12.スターダスト・メモリー
   13.やさしさ SAYONARA

  B1.SUNSET BEACH
   2.カーニバル
   3.パッション
   4.復興のひびき
   5.潜行
   6.ファースト・コンタクト
   7.ララバイ
   8.鐘のある風景
   9.望郷
   10.ロング・フォー
   11.沈痛
   12.マイ・ビューティフル・プレイス

 未収録BGMを集めてくると、どうしてもアルバムそのものの聴き心地という点では質の低下が起こってきます。正直言って「私の彼はパイロット」がかかるまでが苦しいんですね。
 そんな曲ばかりかと言うと決してそういうことはなく、A9、B6、7、10辺りは羽田氏ならではの美しいメロディーが堪能できますし、A6、7、B3辺りの戦闘シーンの音楽もTVで耳に馴染んだものですから。
 A4、13、B1、12の4曲がミンメイの歌です。「私の彼はパイロット」と「マイ・ビューティフル・プレイス」は前回の未収録曲で、残りの2曲は新録です。「マイ・ビューティフル・プレイス」は27話のラストでマクロスが地表に着地するシーンに使われていた印象深い曲です。「SUNSET BEACH」
は地球編に入ってからのミンメイの新曲と言う感じ。「やさしさ SAYONARA」は最終回に使われていました。
 新録の2曲は以前の6曲と比べると、より本格的に作られている感じがしますし、歌っている飯島真理自身が以前よりも成長しているので、それがミンメイの成長に反映されているようで、なかなか興味深く聴けます。

------------------------------------------------------------------------
3.超時空要塞マクロス 飯島真理SONGメモリー

 リン・ミンメイの歌を抜きにしては語れない『マクロス』ですが、1コーラスしか無い歌が多かったり、サントラ盤が分かれていたりと、あまりミンメイの歌だけを目的に楽しむと言うことは当時は困難でした。
 ドラマ編アルバムとして当時『MISS D.J.』というミンメイのディスクジョッキー番組を題材にしたアルバム*4が出ましたけど、状況的には変わらなかったですね。いまなら間違いなく「リン・ミンメイのデビュー・アルバム」とか題した企画盤が出されるでしょうけど、当時のアニメレコード市場は、まだそんな状況ではありませんでした。

 そのうちに飯島真理が歌手デビューしたので、そのアルバムをミンメイのアルバム代わりに聴いていたりしましたけど、所詮ミンメイと飯島真理ではパーソナリティが別物なので、無謀な試みという以外にはありませんでした。ただ、飯島真理の2枚目のアルバム『Blanche』*5はミンメイファンにとって聴き逃せないアルバムでしたけどね。
 劇場版『愛・おぼえていますか』の後で『マクロス』のボーカル曲を集めたオムニバス盤が出ましたが、ミンメイの曲の比重は大きくなく、あまりありがたいアルバムとは言えませんでした。

 ところが、劇場版から2年経ち、次第に『マクロス』という作品が忘れられて行く頃になって、唐突にミンメイの歌を集めたアルバム*6が発売されました。別に新曲が入ってたりするわけではないのですが、未収録曲が何曲か入っていたりして、ミンメイファンには美味しいアルバムでした。
 時期的には飯島真理がビクターからアルファ・ムーンに移籍した頃なので、シンガー《飯島真理》を育てて行く必要の無くなったビクターが、過去の資産を放出したという感じかな。

   1.私の彼はパイロット PARTⅠ
   2.愛・おぼえていますか
   3.やさしさ SAYONARA
   4.0-G Love
   5.小白竜
   6.愛は流れる PARTⅡ
   7.星のささやき
   8.SUNSET BEACH
   9.私の彼はパイロット PARTⅡ
   10.マイ・ビューティフル・プレイス
   11.シルバームーン・レッドムーン
   12.天使の絵の具
   13.愛は流れる PARTⅠ
   14.ランナー

 2、12は劇場版の曲なので今回は対象外です。(劇場版はいずれ取り上げる予定です)

《PARTⅠ》《PARTⅡ》と二つある曲は、《PARTⅠ》の方が上記のサントラ盤に収録されていたバージョンです。
《PARTⅡ》のほうは別バージョンになりますが、「私の彼のパイロット」では『MISS D.J.』に入っていた2番の歌詞のバージョン、「愛は流れる」では第27話で使われていたマーチ風アレンジ版が収録されています。
 もっとも、「私の彼はパイロット」はカラオケが1コーラス分しか無いので、1番目と2番目が別の曲になっててどこか締まりが無いのに加えて、飯島真理の歌い方に違いがあって、聴き比べると奇妙な感覚に襲われます。
 マーチ風アレンジの「愛は流れる」も歌詞は1コーラスだけで、伴奏も2番目の途中でF.O.してしまっていて、楽曲としては中途半端ですね。もっとも劇伴そのものとして作られたわけで、当初はレコード化など意識していなかったのだから当然かもしれません。

 「星のささやき」は『MISS D.J.』のオープニングとエンディングに使われていた曲ですが、フルコーラス版は先のボーカル集アルバムに収録されたのが最初だったという、一歩間違えば幻の曲になりかねないところの曲でした。
 ミンメイの子守歌という雰囲気の曲で、ミンメイファンには堪えられないところがありますね。

 「ランナー」は同じく『MISS D.J.』で使われていた1コーラスだけのバージョンです。最終話のエンディングにも使われていました。藤原誠の力強い歌も良いですけど、語り掛けるような飯島真理の歌も魅力的ですね。

------------------------------------------------------------------------
4.マクロス・ザ・コンプリート

 TV版のサントラが出た時分はアナログレコード全盛の時期でしたが、最後の「飯島真理SONGメモリー」が出た時はLPとCDの同時発売という形になっていました。
 マクロスのサントラは比較的早くからCD化されていましたけど、当時はまだアナログレコードも健在で、LPとの差別化のためかどうか、CDはTV版と劇場版をごっちゃまぜにした構成で出されていました。その後、アナログレコードが完全に駆逐されてしまいましたが、消費税が導入され、CDの低価格化が進む中でもマクロスのCDが発売し直されることはしばらくありませんでした。

 ところがOVA『超時空要塞マクロスⅡ』が製作されるに当たって、ようやく旧作サントラをまとめた3枚組のCD*7が発売されたのです。
 1枚目がTV版の VOL.Ⅰ、VOL.Ⅱ (LP2枚分がCD1枚におさまってる……)で、2枚目が劇場版のサントラ盤(ただし、「愛・おぼえていますか」はロング・バージョンに差し替え)とカラオケ集、3枚目がⅠ、Ⅱに未収録のボーカル曲集とTV版および劇場版の未収録BGM集。
 とりあえず3枚の既製のサントラ盤はそのまま収録して、それに未収録BGMやカラオケが入っているわけですから、結構美味しいアルバムでした。もっとも、まともにマクロスの音楽を聴こうと思えば、当時このアルバム以外には選択肢は無かったわけですが。*8

 このアルバムにしか収録されていないボーカル曲として貴重なのは、シリーズ後半でマックス&ミリア夫妻が赤ん坊のコミリアを連れて出撃していくエピソードに使われていた、竹田えり「ミリアのララバイ」でしょうね。
 本編だけの使用を条件に自宅録音で作られた曲だそうで、その当時のアルバムには収録されていなかったわけですが、さすがに本職がシンガーソングライターの方だけあって、ミリアというキャラクターを十二分に盛り込んだ素晴らしい歌になっています。

------------------------------------------------------------------------
5.MARI IIJIMA sings LYNN MINMAY(2019年追記)

 時は流れて2000年代になってから、現在はロサンゼルス在住の飯島真理自身によるセルフカバーのアルバムが発売されました。*9

   1.天使の絵の具
   2.愛は流れる
   3.0-G Love
   4.シンデレラ
   5.私の彼はパイロット
   6.愛・おぼえていますか
   7.Why

 「シンデレラ」はもともとは飯島真理が制作中だったものを劇場版『愛・おぼえていますか』の劇中で使用した曲ですが、アフレコ現場でアカペラで歌ってたためか、劇中使用バージョンは今に至るも音盤化はされていません。
 その後、完成した曲が飯島真理のアルバム『Blanche』に収録されていますが、ここに入っているのはそのアルバム収録バージョンのカバーです。(『マクロス・ザ・コンプリート』に収録されているのも『Blanche』のもの)
 『Blanche』収録のものはほとんどアコースティックなギターメインの伴奏なので、このカバー曲の方が若干派手なアレンジという珍しい形です。

 「Why」はこのアルバムの新曲。ミンメイの作詞・作曲の歌というコンセプトらしいです。

 このアルバムにはミンメイの曲が全曲収録されてるわけではありませんが、オリジナルでは1コーラスの曲もフルコーラスになっています。ただし、如何せん飯島真理によるアレンジが、80年代のアイドル路線を志向した羽田健太郎氏によるオリジナルのアレンジとは別物なので、当時の楽曲のリメイクというよりも、大人になったリン・ミンメイがアイドル時代の曲をカバーして歌ってるって感じしかしませんね。

 楽曲のフルコーラス化自体は『マクロス7』の頃のミレーヌ・ジーナスのカバーや、『マクロスジェネレーション』のアルバムですでになされていますが、伴奏のアレンジがオリジナルと違うというのは同じで、劇中で使われたアレンジのままのフルコーラス化というのは、少なくとも公式のカバーバージョンでは存在しません。
 羽田健太郎氏自身、レコーディングの終わった楽譜は残さないというタイプだったらしく、2007年に亡くなられた際、遺品の中に残っていた楽譜は『交響曲 宇宙戦艦ヤマト』だけだったとかいう話もあるので、カバー曲のアレンジを本人に依頼しても新規のアレンジになった可能性は高いです。

 ともあれ、作品当時は劇伴使用の中途半端なサイズでしかレコーディングされていなかったリン・ミンメイの曲を、別アレンジとは言え、飯島真理の歌でフルコーラスで聴けるようになったのはうれしいものでした。

------------------------------------------------------------------------
(記事初出 ニフティサーブ・アニメフォーラムマガジン館 95.04.15)

f:id:animepass:20190323200044j:plain

 

1枚目のサントラ盤。
マクロスF』の頃に再発売されたものが現行商品として残っているようです。

超時空要塞マクロス マクロス



2枚目のサントラ盤。
これも『マクロスF』の頃に再発売されたのが現行商品。

超時空要塞マクロス マクロス Vol.II



これは1980年代に出たまま再発売されてないのかな。中古品がそれなりに高くなってます。これの収録曲は『マクロス・ザ・コンプリート』にすべて収録されていますが……

超時空要塞マクロス 飯島真理SONGメモリー ~ミンメイ SINGS FOR YOU~



テレビシリーズと劇場版の音楽をまとめたもの。未収録BGMに関してはテレビシリーズは若干漏れがあるようですが、劇場版は全曲網羅されています。

超時空要塞マクロス マクロス・ザ・コンプリート



飯島真理による新録のカバーアルバム
すでに廃盤みたいですが、中古は比較的入手しやすそうです。

MARI IIJIMA sings LYNN MINMAY



ミンメイのDJ番組という想定のアルバム。これも『マクロスF』の頃の再発売品。

超時空要塞マクロス マクロス Vol.III MISS D.J.



「シンデレラ」と別アレンジの「天使の絵の具」が収録されてるアルバム
後に紙ジャケット盤が出てますが、すでに在庫切れで高騰してるようです。こちらは90年代に出た廉価盤で、入手は比較的容易かと。

blanche

*1:超時空要塞マクロス』(JBX-25008 82.12.16 ¥2,500)

*2:マクロス』の第27話「愛は流れる」というと、「27話」だけで通じるぐらいシリーズ中でも抜きんでた出来の回でした。実質上はこの回が最終回で、残り1クールの延長分は蛇足という感じがありますね。

*3:超時空要塞マクロス VOL.Ⅱ』(JBX-25013 83.03.05 ¥2,500)

*4:超時空要塞マクロス VOL.Ⅲ MISS D.J.』(JBX-25016 83.06.21 ¥2,500)

*5:『Blanche 飯島真理2』(SJX-30224 84.--.-- ¥2,800)

*6:超時空要塞マクロス 飯島真理SONGメモリー』(VDR-1280 86.10.21 ¥3,200)

*7:マクロス・ザ・コンプリート』(VICL-40031~33 92.03.21 ¥7,500)

*8:マクロス7』の頃になって、ようやくアナログ時代のアルバムがそのままの形でCDで復刻されましたが、すでに『マクロス・ザ・コンプリート』持ってたら欲しいのは『RHAPSODY IN LOVE』ぐらいだけというのが正直なところでした。

*9:『MARI IIJIMA sings LYNN MINMAY』(VICL-60992 02.11.07 ¥2,000)

わが青春のアルカディア

1.わが青春のアルカディア 音楽集

 松本零士のキャラクターとしてひときわ群を抜いた存在、宇宙海賊キャプテンハーロック。そのハーロックの若き日を描き、彼がドクロの旗を掲げる宇宙海賊になった経緯、そしてトチローとの出会いとアルカディア号の建造の秘密を明らかにしたのが劇場版『わが青春のアルカディア』でした。
 これ以前にハーロックが登場した作品として挙げられるのはTV版『宇宙海賊キャプテンハーロック』、劇場版『銀河鉄道999』、TV版『銀河鉄道999』の「時間城の海賊」3部作、劇場版『さよなら銀河鉄道999』となりますが、音楽によってハーロックが描かれていたのは前の2作品だけでした。「時間城の海賊」の時もハーロックの登場シーンに聞きなれない音楽が使われているのですが、現在に至るも音盤化されていないし、他の回に使われたかどうかも不明なので考えないことにします。*1

 最初のTV版ハーロックの音楽は横山菁児氏、劇場版999は青木望氏が担当しており、この2作品についてはすでに取り上げているので詳しく触れることはしません。この両氏の後を引き継いで、本作品でハーロックの音楽を手掛けたのは木森敏之氏*2です。
 木森氏といえば、アニメではTV版『ダーティペア』辺りをてがけていますが、それ以外に耳に付くのがどこかの局の2時間ドラマ枠(火曜サスペンス劇場かな?)の音楽*3ですね。ドラマ自体とは全く似合っていそうも無い大仰な音楽という感じがして、大いに違和感を感じるのですが、そのドラマ番組枠のテーマ曲も『ダーティペア』も、この『わが青春のアルカディア』も似た曲調の音楽が使われていますね。

 最初にこの映画のサントラ盤*4に針を落とした時、一瞬レコードを間違えたのかと思ってしまいました。信じられないことに、スピーカーから流れてくる音はドボルザークの『新世界より』だったのですから……
 あわててジャケットを確かめると1曲目のタイトルの横に
    《使用曲:ドヴォルザーク作曲「新世界より」》
と書かれていました。つまり、サントラに既製のクラシック曲を引用しているわけですね。
 ドボルザークの他にも、このサントラ盤ではグリーグ組曲ペール・ギュント』、アルビノーニの「アダージョ」が使用されています。まあ後の『銀河英雄伝説~わが征くは星の大海~』*5などとは違って、それっぽいところにそれらしい音楽を使っているだけですけど、それでもクラシック音楽をそのままサントラに組み込んでしまっているというのは驚きでした。

  A1.序曲~夢敗れて
   2.太陽は死なない     (歌/朝比奈マリア)
   3.友情の血
   4.永遠の愛
   5.血盟の誓い
   6.ドクロの旗を掲げて

  B1.火の河を超えて
   2.消えてゆくともしび
   3.星空のラストソング   (歌/朝比奈マリア)
   4.決闘~己れの旗の下に~
   5.宇宙葬~やすらかなる眠り~
   6.わが青春のアルカディア (歌/渋谷哲平

 A1はドボルザーク新世界より』第1楽章の冒頭の一部分から始まりますが、この部分は映画冒頭でファントム・F・ハーロックⅠ世がニューギニア島のスタンレーの魔女に挑戦するシーンに使われています。続くファンファーレは映画のタイトルが出る部分。そしてメインテーマが重苦しく悲痛に奏でられます。
 イルミダスとの戦争に敗残し、避難民を乗せて地球に戻っていくデスシャドウ号を指揮するハーロック。その絶望と屈辱感にあふれた心境を、重厚なオーケストラが描いています。

 A2はハーロックの恋人、マーヤが地下放送を通じて歌い続けている歌です。歌ってる人*6はよく知りませんが、アニメソングによくあるヒットポップス系の歌ではなく、どちらかというと演歌やシャンソンに近い歌謡曲という感じですね。大人の歌というイメージです。
 この映画の舞台設定が、いわば第2次大戦に敗北し連合国軍に占領された日本を下敷きにしているためか、どうも当時の記憶を持つ製作者サイドの人たちのノスタルジーを満足させるように作ってる感じがしますね。作品そのものは青少年がターゲットのはずなのに、そこらへんのアンバランスさがあまり興業的に成功しなかった原因かもしれません。
 アルカディア号が地球を飛び立って行くシーンに使われたインストゥルメンタル版も印象強いのですが、こちらは『音楽集2』*7に入っています。

 A3は主にファントム・F・ハーロックⅡ世と大山敏郎のレビC12Dを巡るエピソードの部分に使われています。つまりコクピット・シリーズの『わが青春のアルカディア』のハーロックの回想シーンのエピソードですね。
 古き良き時代というわけかどうか知らないけど、作品上でも薄暗い本編の画面と違って、明るい青空の映えた画面になっていますが、音楽の方も明るい系統のアレンジで仕上がっています。

 A4はハーロックとマーヤの悲恋を描いた曲ですね。なかなかマーヤとの再会が果たせないハーロック。ようやく出会えた時には占領軍の治安部隊の襲撃を受け、ハーロックは片目を負傷してしまう。そのハーロックの身を案じながらも、立ち去らなければいけないマーヤ。
 この映画を通じてハーロックの行動原理となっている一方のひとつが、マーヤとの愛なのですが、この曲はそれをじわじわと盛り上げながら奏でています。

 A5はトカーガ人のゾルたちとハーロックたちの間に、トカーガ星に残された人々の救援にいくための血盟が結ばれるシーンの音楽です。イルミダスの傭兵としてやってきたゾルたちは自分たちの星の危機を知り、クイーン・エメラルダス号を奪おうとするが、彼らの境遇を知って涙するトチローとハーロックにすべてを委ねることにする。その熱く結ばれる血盟を奏でる、作品前半の最大のクライマックスシーンを盛り上げた曲です。

 A6はクイーン・エメラルダス号と地球パルチザンの決起からアルカディア号発進までのシーンの音楽ですね。ただし、ラストのハイテンポの曲は発進シーンのバージョンではなく、アルカディア号が宇宙に出てから使われた曲です。実際の発進シーンの音楽は『音楽集2』の方に入っています。
 それはそうと、前半の畳み掛けるような音楽は木森氏の他の作品でも聴かれるような構成なのですが、さすがに重厚な編成のオーケストラで録音しているのはこの作品ぐらいなので、緊迫感が断然違いますね。

 B1はトカーガからの帰路、プロミネンスの河の灼熱地獄に通りかかるシーンの音楽ですが、あまり印象には残っていないですね。

 B2は地球に戻ったハーロックの目前でマーヤが息を引き取るシーンに使われていました。ここではグリーグ組曲ペール・ギュント』から「ソルベーグの歌」が用いられて、マーヤの悲しい最後を引き立てています。
 せっかくオリジナルのモチーフもあるんだから、ここは既成曲を使わずに仕上げてくれても良かったのではないかと思えるのですが、安直に既成曲のイメージに負ぶさった感じになってしまっていますね。それはそれで作品のひとつのあり方だとは思いますが、A4あたりで使っていたモチーフが活かされていないのが少し残念な感じもします。
 ラストでいきなり曲相が代わって、ハイピッチな曲になるのですが、この部分はアルカディア号で出て行こうとするハーロックにムリグソンが銃を抜き、逆にハーロックに額を撃ち抜かれるところの急展開のシーンですね。

 B3は劇中では未使用です。A2よりは聴き易い曲ではありますが、大同小異で付き合いにくい曲であることは変わりませんね。

 B4はイルミダス軍地球占領部隊司令官ゼーダとの決戦のシーンに用いられた曲です。決戦シーンの音楽と言うと、普通は血湧き肉踊るような派手な音楽が使われることが多いのですが、この曲は決戦の音楽にしては静かで優雅な曲です。
 まあ戦闘シーンの音楽ですから、軽やかなセレナーデというわけにはいきませんが、この音楽の使い方はけっこう衝撃的でしたね。まあ戦闘自体、派手な武器で一気に畳み込むというものではなく、淡々としたものでしたから違和感は感じませんでしたが。後に『銀河英雄伝説~わが征くは星の大海~』で会戦シーンにラヴェルの「ボレロ」を使っていたのも印象的でしたけど、この作品の決戦シーンを見ていたからそれほど衝撃的ではありませんでしたね。

 B5は巨大惑星トリケラトプスでの宇宙葬のシーンで使われた音楽。ベースになっているのはアルビノーニの「アダージョ」です。まあステレオタイプな使い方ですね。

 B6はエンディング主題歌。渋谷哲平という歌手は一時期アイドルとして売っていましたけど、この頃はあまり名前を聞かなくなっていたので、当時は少しばかり疑問に思っていました。
 歌としては正当なヒットポップス系のアニメソングに仕上がっていて、挿入歌のような違和感はまったく感じませんでした。映画では間奏部分でボリュームが下がり、ハーロックの追放を宣言するトライター首相のTV演説が流れていたのが印象的でした。

 このサントラ盤、クラシック曲、それも『新世界より』のような曲を引用していることもあるのか、けっこう重厚な演奏になっています。ここまで重低音を響かせているアニメ音楽はまず無いでしょうね。
 木森版ハーロックのテーマというのはA6のラスト等で聴かれるハイテンポで軽快な曲ですね。若き日のハーロックということもあってか、横山版や青木版のような重々しさは感じられません。それでも自分の信念によってまっすぐ突き進んでいくという力強さは大いに感じられます。

------------------------------------------------------------------------
2.わが青春のアルカディア 無限軌道SSX(2019年付記)

 劇場版『わが青春のアルカディア』の後日談を描くTVシリーズとして放映された『無限軌道SSX』ですが、人気絶頂期の『うる星やつら』の裏番組*8ということもあり、視聴率低迷で全22話で終わってしまいました。

 『わが青春のアルカディア』と『銀河鉄道999』の間を結ぶ作品だと宣伝され、メーテルや黒騎士ファウストの登場も囁かれていたのですが、それらのキャラは登場せず、ドクター蛮はメーテルの父親のドクターバンと似た名前のただの医者に終わってしまいました。
 トチローの最後も、惑星ヘヴィメルダーに不時着したデスシャドウ号という劇場版『銀河鉄道999』そっくりのシチュエーションで、おそらく背景美術も流用した形で描かれているのですが、そこには(劇場版『銀河鉄道999』でトチローの最期を看取った)鉄郎の不在という致命的な違いがあります。
 この作品以降も松本作品の間を結びつけるという作品が何度も作られるのですが、その多くはこの作品同様、単にパラレルワールドを増やすだけに終わってしまって、本当の意味で世界観を統一することには尽く失敗してしまっています。結局、宣伝に踊らされたファンの失望を買い続けるだけに終止し、商業的に見放されるようになってしまったのも無理はありません。
 松本零士作品のTVシリーズは、この作品を最後に長く作られなくなり、2000年代になって深夜アニメが定着した頃に『宇宙交響詩メーテル』や『銀河鉄道物語』といった作品が出てくるまでは、マイナーなOVA作品が細々と作られるだけになってしまいました。

 さて、この『無限軌道SSX』の音楽は、映画の木森敏之氏に代わってアニメ音楽の大家・菊池俊輔*9が手掛けていますが、放映当時はサントラ盤の類は出てなかったと思います。2000年代に入って『松本零士音楽大全』に一部が収録された後、『ETERNAL EDITION』シリーズ*10に現存の音源がほぼ収録されているようです。
 音楽としては主題歌のメロディーをアレンジしたテーマ曲が中心で、そこに状況説明的な音楽が加わってるという感じで、劇場版の音楽は別としても、TVシリーズ『宇宙海賊キャプテンハーロック』の横山菁児氏の音楽と比べても、どこか古いアニメの音楽という印象です。アルカディア号のテーマとして劇場版の音楽を意識したような曲もあるのですが、メインに使われてたのは主題歌のメロディーの方だと思います。
 ま、菊池俊輔氏らしいメロディーの作りとか、それはそれで楽しめる要素はあるのでしょうけど、過去のハーロック音楽を引き継いだ先というものを期待していた立場からすると、記憶に残らない音楽でした。

------------------------------------------------------------------------
(記事初出 ニフティサーブ・アニメフォーラムマガジン館 95.03.23)

f:id:animepass:20190317203326j:plain

 

今回のお題
廉価盤が出てましたが、すでにメーカー在庫切れです。でも旧盤よりは入手しやすいでしょう。

〈ANIMEX 1200シリーズ〉(8) 東映映画 わが青春のアルカディア音楽集



サントラの2枚目
こちらも廉価盤で、同様にメーカー在庫切れ。旧盤よりは入手しやすいというレベル。

ANIMEX 1200シリーズ 80 わが青春のアルカディア 音楽集 Vol.2



劇伴音源を網羅したETERNAL EDITION。「合唱組曲」付き。
これも今となってはちょっと入手困難。

わが青春のアルカディア(劇場版)



TV版『無限軌道SSX』の音楽と、劇場版『わが青春のアルカディア』及び『宇宙海賊キャプテンハーロック』のデジタルトリップを収録
もう高騰化してしまっていますね。

Eternal Edition File No.5 わが青春のアルカディア無限軌道SSX

*1:『ETERNAL EDITION TVシリーズ銀河鉄道999 File No5&6』(COCX-31438~9 01.07.20 ¥3,800)に収録されている「時間城の海賊」の2曲目、軽快なエレキギターのフレーズからサックスに始まるジャズセッション風のカッコいい曲がハーロック(戦士の銃を持ったマントの男)の登場シーンに使われています。(『松本零士音楽大全』でも「時間城の海賊~戦士の銃を持つ男~」の2曲目に収録)

*2:一時「大森敏之」との誤記が広く出回っていた挙げ句、90年代以降にアニメソングを多く手掛けている「大森俊之」氏と名前が似ているので混同されやすいのですが、実はこの作品を手掛けた6年後の1988年に亡くなられているのですね。

*3:この番組の音楽はジョン・スコット作曲の映画『ファイナル・カウントダウン』の音楽からの盗作疑惑があり、岩崎宏美が歌う主題歌「聖母たちのララバイ」は当人が乗り込んできて、共作扱いになったという話があるそうです。(Wikipedia聖母たちのララバイ」参照)

*4:『わが青春のアルカディア 音楽集』(CX-7058 82.07.-- ¥2,500)

*5:続くOVAのシリーズでもクラシック曲をメインに使用されていましたが、おかげで『銀英伝』のオリジナルの音楽というのがほとんど印象に残っていません。

*6:朝比奈マリアは往年のスター歌手・雪村いづみの娘という話題性だけで起用された感じですが、ファントム・F・ハーロックⅠ世役の石原裕次郎といい、いったいどういう客層にアピールしようとしていたのか甚だ謎です。

*7:『わが青春のアルカディア 音楽集Ⅱ』(CX-7063 82.08.-- ¥2,500)
この2枚目の方は未収録BGMの寄せ集めという感じで、1枚目のように各トラックがきちんとまとまって構成されているわけではありません。でも、かゆい所に手が届くような音源が揃ってるんですよね。
なお、1枚目のアルバム収録曲も含めて実際の劇伴使用曲を映画での使用順に収録したものは後に『ETERNAL EDITION File No.3 & 4 わが青春のアルカディア』(COCX-31699~700 01.12.21 ¥3,800)として出ています。

*8:当時はゴールデンタイムに複数のキー局が全国ネットでアニメ番組を放映してたので、人気作品の裏番組になったおかげで視聴率低迷で打ち切りなんてことはよくありました。(『アルプスの少女ハイジ』の裏番組だった『宇宙戦艦ヤマト』が全39話予定が26話で打ち切られたというのは有名な例です)

*9:大山のぶ代時代の『ドラえもん』や昭和の『仮面ライダー』シリーズ、はては時代劇『暴れん坊将軍』の音楽まで、テレビ音楽を多く手掛けてられますが、松本零士作品では『惑星ロボ ダンガードA』や『SF西遊記タージンガー』も菊池俊輔氏の音楽ですね。

*10:『ETERNAL EDITION File No.5 & 6 無限軌道SSX(わが青春のアルカディア)』(COCX-31701~2 02.01.19 ¥3,800)
無限軌道SSX』のBGMが収録されてるのはNo.5の方。No.6には劇場版『わが青春のアルカディア』と『宇宙海賊キャプテンハーロック』の「デジタルトリップ」が収録されています。

宇宙戦艦ヤマト ファイナルへ向けての序曲

1.宇宙戦艦ヤマト ファイナルへ向けての序曲

 81年3月に終了した『宇宙戦艦ヤマトⅢ』のラスト・メッセージで82年公開が伝えられていた劇場版最終作ですが、例によって翌83年春まで持ち越しとなりました。その代わりということでも無いでしょうけど、『宇宙戦艦ヤマト完結編』公開の前年に発売されたのが、この『ファイナルへ向けての序曲』*1です。
 序曲と題打っていますが、いわばイメージアルバムといった所でしょうか。翌年公開予定の『完結編』の作品イメージを音楽アルバムとして作り上げたものです。

 アニメのイメージアルバムといえば、一連の宮崎アニメにように劇伴製作過程のスケッチのようなものをアルバム化したり、「セーラームーン」のように既製の劇伴を離れたところから作曲家のアプローチがあったりしますが、劇場公開の1年も前にアニメ作品自身のイメージ紹介のために作られたアルバムというのは、極めて希有な存在だと思います。
 現在ならプロモーションビデオとかメイキングビデオという展開が考えられるわけですけど*2、当時はビデオも高価で普及率も低かったわけですから、そういう商品発想なんてのは多分、誰も持っていなかったのではないでしょうか。それを音楽アルバムでやってしまったというところがいかにもヤマトらしい点ですね。

  A1.水物語
   2.アクエリアスの神話
   3.大銀河系星雲の衝突
   4.大ディンギル帝国星

  B1.水の惑星アクエリアスとクイーン・オブ・アクエリアス
   2.ヤマト出撃
   3.宇宙戦艦ヤマトメモリアル

 A1は冒頭で奏でられている弥生時代の土笛の音からして、これが従来のサントラ盤では無いということを思い知らしめてくれます。弥生時代といえば水田耕作、水田といえば「水」ということで、弥生時代以降の大和民族と「水」との関り合いを描いているのがこの曲です。もっとも、曲のイメージからは「水」よりも大和民族の民俗的な匂いが遥かに強く感じられるのですが。
 土笛の音色はオーケストラのバラードに変わり、段階的に激しく壮大なシンフォニーへと移っていきます。これまでのヤマトのシンフォニーというのは、「白鳥の湖」に代表される西洋ロマン派の音楽の雰囲気を多少なりとも持っていたのですが、この曲は作りは従来の宮川泰氏の音楽とも変わりは無いものの、そこで奏でられる主題が土俗的なメロディーになっています。従来のヤマトの音楽とは異質で、それでいて違和感の無い新しい音楽がここに展開されていました。
 この曲のモチーフを使った音楽が『完結編』でどのように使われるかというのが極めて興味深かったのですが、残念ながら劇中には使われず、このアルバム上だけの音楽に終わってしまいました。宮川氏の音楽としては『オーディーン』の「大航海時代」につながっていく重要なものだと思います。

 A2はその水の由来にまつわる水惑星アクエリアスの神話を物語る音楽です。冒頭ではお馴染みの「無限に広かる大宇宙」のスキャットが流れ、現在の宇宙と創世神話との橋渡しをしていますが、すでにこの曲だけでひとつの世界を物語ってしまえるほどになっているんですね。まさにヤマト……というより、日本の映画音楽の中でも屈指の名曲たる由縁です。
 そして『完結編』でも使われているアクエリアスのテーマが一瞬だけ流れた後、ストリングス主体のスリリングな音楽が展開されます。アクエリアスによってもたらされる水による災害・破滅などの陰の部分を奏でる曲ですが、力強く奏でられるテーマは、その災害は現実の試練として立ち向かっていかなくてはならない、アクエリアスのシリアスな一面を直感的に現しています。
 アクエリアスの試練を描くテーマとしては非常によく表現されている音楽なのですが、実際の『完結編』では自然状態でのアクエリアスによる試練が扱われていないためか、劇伴としてこのテーマは使われていませんでした。
 音楽はハイテンポに盛り上がったところで再びアクエリアスのテーマが現れ、最後に冒頭と同じく「無限に広かる大宇宙」のスキャットでくくられます。

 A3は『完結編』の一連の事件の引き金になった銀河の衝突を描いた音楽です。冒頭部、ファンファーレのように奏でられるヤマトのテーマの後、リアルタイムで衝突を奏でるように流れるのは『ヤマトよ永遠に』の「新宇宙」のテーマです。以前のシンセサイザー単独ではなく、オーケストラを交えたよりスリリングに力強く奏でられるこのテーマはまさに超自然のカタストロフを想像させます。
 まあ実際に直径10万光年の二つの銀河が亜光速で衝突・交差しても、こんな突然のカタストロフ的な状況が起こるわけはないけど、そんなのは言いっこ無しね。いかにもそういうことが有り得るかのように、真に迫って聴かせてくれることは確かですが……
 途中、『ヤマトⅢ』でのデスラーのテーマが流れることで、ガルマンガミラスの位置する核恒星系の危機が奏でられ、さらに再び「新宇宙」のテーマが流れることで交差した他方の銀河が去っていく様子が描かれます。ここら辺は去っていくと言っても依然として衝突状態は継続中なので、カタストロフ的な雰囲気は継続していますが、微妙に聞こえかたが違います。
 そして再びデスラーとヤマトのテーマが緩やかに流れて、ガルマン本星を見舞うヤマトという図があるわけですが、その後は「新宇宙」のテーマが余韻をもって静かに終わります。
 イメージアルバムということからか、カタストロフそのものの巨大さ、激しさを直截的に表わした音楽になっています。実際に『完結編』のタイトルバックで使われていた音楽だと、もっと優雅でカタストロフの美学を追求したかのようなものになっているのですが。

 A4は新たなる敵、ディンギル帝国のテーマですね。前半部のマーチ的な音楽はディンギル軍国主義的な一面を描いています。「弱い女子供など滅びて当然」という弱肉強食、父権中心の側面も含まれているのでしょう。ヤマトの音楽には珍しい軍隊的なマーチ音楽になっています。
 日本では軍隊的なものは毛嫌いされる傾向があるので、映画音楽のマーチでも、例えそれが軍隊のテーマではあっても軍隊的なマーチ音楽というのは避けられていることが多いのですが、中には安直にそのまんまのマーチを書いてしまう人もいることは確かです。そういう人にかぎってマーチがうまくないので、耳にして失笑せざるを得ないことも多いのですが……
 宮川氏の場合はこれまでそういうマーチが使われていないこともあって*3、この曲が極めて印象に残るわけですが、それゆえディンギル帝国という国家に軍国主義的な匂いが強く感じられてしまいます。
 実際の『完結編』ではディンギル側の音楽はスパニッシュ・ギターの目立つラテン民族系の音楽で作られているので、このアルバムで受け取ったイメージとは微妙に異なっています。しかし、ディンギル艦隊と地球艦隊の戦いのBGMにはこの曲がそのまま使われていますし、ウルクでのロボットホースの出撃シーンにアレグロのテンポでアレンジされたものが使われていて、やはり強い印象を与えています。
 A4の中盤はディンギル帝国の超近代科学と宗教的なものが同居している不気味な様子や、弱肉強食を当然とするディンギル人の内面にアプローチしている曲が入り、ラストは再び前半のマーチ曲が力強くゆったりと奏でられます。中盤の曲も実際の劇伴の主要テーマには使われず、ウルクでの古代とルガール総統の対決シーンに一部が使われていただけですが、それがかえって効果的だったのかも知れません。

 B1は再びアクエリアスの曲です。A2では水の神話に絡めたアクエリアスが描かれていましたが、ここでは現実の水惑星アクエリアスのイメージが描かれています。冒頭数小節、イントロ的な音楽が流れた後、アクエリアスのテーマがスキャット雄大なオーケストラで奏でられます。
 そして「神秘の星アクエリアス」のテーマがピアノとオーケストラで展開されます。ここではクイーン・オブ・アクエリアスのテーマというところですが、実際の劇伴ではピアノ主体のアレンジがなされているのに対して、ピアノコンチェルトとも言えるぐらいにオーケストラが深く絡んでいます。そしてピアノソロの部分では羽田健太郎氏独特の軽やかな演奏が堪能できます。
 最後に再び水惑星アクエリアスのテーマがピアノ主体で奏でられてくくられますが、ここに使われている二つのテーマは『完結編』のアクエリアスの音楽にそのままモチーフとして使われています。それはそれで興味深いのですが、それ以上に劇伴にはない大掛かりなアレンジが楽しめるというのが、このアルバム最大の魅力でしょう。

 B2はいよいよヤマト出撃というわけで、その前に立ち塞がるアクエリアスディンギル帝国の二つの脅威を音楽的に絡めているわけです。冒頭部のディンギル部分の曲は「ウルクの猛攻」として、冥王星海戦でコスモゼロの追跡シーンで移動要塞から機動部隊が出撃していくところに使われていましたが、これといって目新しいところはないですね。手法としては『新たなる旅立ち』の「大戦争」辺りと同じですし。

 B3はメモリアルということで、これまでのヤマトの音楽のメドレーが続きます。新演奏というわけではなく、既製の音源を編集してあるようですからあまりありがたみはありません。
 どんな曲があるかといえば「序曲」のスキャットから始まって『ヤマトよ永遠に』より「二重銀河」「重核子爆弾」「新銀河誕生」。『新たなる旅立ち』より「新コスモタイガー」「自動惑星ゴルバ」「別離」。『さらば宇宙戦艦ヤマト』より「白色彗星」「デスラー 孤独」「大いなる愛」。そして最後に「序曲」のスキャットが再び流れます。
 このメドレーの後に戦艦大和鎮魂曲が続いて、このアルバムの最後を締めくくります。この男声コーラスに始まる鎮魂曲のフレーズは『完結編』ラストの冬月に収容されたヤマト乗組員たちが沖田艦長を見送るシーンにも使われていて、やはり印象に残る曲です。ただし、このアルバムのここに入っている力強いレクイエムの後半は、ちょっとしつこさを感じてしまいます。*4

 アルバムの目的が目的ですから曲中にナレーションが入ってたりして、純粋に音楽アルバムとして聴くには邪魔なところもいろいろあるわけですが、音楽そのものは手堅く作ってあって十分に楽しめることの出来るアルバムです*5。アルバムそのものが目的で作られた音楽ですからサントラ盤よりも楽しめるのは当然かも知れませんが。
 しかし、この手のアルバムだと実際のサントラが発売され、映画が公開されると価値を失ってしまうものなのですけど、このアルバムは今聴いても全然色あせていません。それは、サントラ盤との作りの違いが大きいのではないでしょうか。
 おそらくこのアルバムはサントラ盤のスケッチ的な意味合いは最初から考えられておらず、単独の企画アルバムとしてサントラとはアプローチの異なる方法で音楽が作られたのだと思われます。だからこのアルバムの収録曲はこのアルバムの中で完成されるべくして作られたのでしょう。同じ作品でアルバムを何枚も作るということを考えると、得てして段階的に完成度を調節したイメージアルバムでお茶を濁そうとしているものも見掛けますが、そういう詐欺的な商品展開をすることなく純粋に一個の音楽アルバムとして作られた正真正銘のアルバム、この『ファイナルへ向けての序曲』はそういうふうなアルバムだと思います。

------------------------------------------------------------------------
あとがき

 本来なら83年の『宇宙戦艦ヤマト完結編』の時に合わせて取り上げるようなものなのですけど、サントラ盤だけでもかなりの量になりそうだし、このアルバムには『完結編』そのものからは独立した魅力があるし、何より個人的に思い入れのあるアルバムだったので、こうして単独で取り上げてみました。
 アニメのサントラ盤以前のイメージアルバムでも、ここまで本格的に作られたものは他にはまず無いと思いますけど、あいかわらずヤマトの音楽は贅沢だったのだと思い知らせてくれます。この贅沢も西崎義典プロデューサーあってのものだったので、2010年代に入ってリメイクしてる『宇宙戦艦ヤマト2202』とかでもこういう贅沢はもう出来ないという現実には寂しいものがあります。

 贅沢といえば、毎回素晴らしい演奏を聴かせてくれた羽田健太郎氏のピアノもそうですが、この年にはその羽田健太郎氏の作曲家としての代表作の一つが制作された年でもありますが、その作品についてはまた別の回で。

------------------------------------------------------------------------
(記事初出 ニフティサーブ・アニメフォーラムマガジン館 95.04.05)

f:id:animepass:20190302202251j:plain

 

今回のお題のアルバム

YAMATO SOUND ALMANAC 1982-I宇宙戦艦ヤマト ファイナルへ向けての序曲」



音楽のみ(ナレーション、効果音無し)の音源を収録したもの

ETERNAL EDITION File No.8&9「宇宙戦艦ヤマト・完結編」



YAMATO SOUND ALMANAC 1974-1983 YAMATO MUSIC ADDENDUM



注釈内で触れた「『復活篇』のためのシンフォニー」収録盤(『胎動編』の音源ではない)

宇宙戦艦ヤマト復活篇オリジナルサウンドトラック

*1:宇宙戦艦ヤマト ファイナルへ向けての序曲』(CX-7055 82.05.21 ¥2,500)
90年代半ばの一斉CD化の際にCD化された後、現在は「YAMATO SOUND ALMANAC」シリーズの1枚で出ています。

*2:ヤマトシリーズでも劇場版『宇宙戦艦ヤマト 復活篇』とOVA『YAMATO 2520』のプロモーションのために『胎動編』というビデオ作品が発売されていますが、『復活篇』が製作・公開されたのはそれから十数年も後になってしまいました。この『胎動編』に使われていた「『復活篇』のためのシンフォニー」は、羽田健太郎氏がヤマトのために書いた最後の曲となってしまいましたが、山下康介氏によってアレンジされ『復活篇』本編でも使用されています。

*3:この曲の実際の作曲者は子息の宮川彬良氏だったそうですが。

*4:その後、西崎プロデューサーと松本零士氏の著作権争いの副産物とも言える『大YAMATO零号』でこの曲のフレーズ(『宇宙戦艦ヤマト完結編 音楽集Part3』の「ファイナルヤマト 斗い」に近いアレンジ)が繰り返し流れていたのには絶句しましたが……。

*5:ナレーションと効果音の入ってない素材音源は後にCD化されています。
まず『完結編』の作品中に使用されたA4、B1とB3ラストの鎮魂曲が『オリジナルBGMコレクション 宇宙戦艦ヤマト完結編』(COCC-12874 95.09.21 ¥2,621)に収録され、『ETERNAL EDITION File No.8 & 9 宇宙戦艦ヤマト完結編』(COCX-31160~61 01.03.01 ¥3,800)で全曲収録されました。現在では『YAMATO SOUND ALMANAC 1974-1983 YAMATO MUSIC ADDENDUM』(COCX-39257~9 15.10.28 ¥4,500)で全曲聴くことが出来ます。

1000年女王(劇場版)

1.『1000年女王』オリジナルサウンドトラック

 劇場版の『1000年女王』は、TVと同じキャスティングと舞台設定を使いながら、独特の雰囲気を持っていた作品でした。TVでは1年間使って表現したラーメタル接近という事件を、僅か2時間の中に盛り込むわけですから、物語の描写は最初からラーメタル関連に絞られ、TVの最初の半年を費やして描かれていた1000年盗賊の件はみごとにカットされていますね。
 TVでは確かラーメタルは地球まで来ていなかったと思いますが、劇場版では地球に接近したラーメタルとの戦いに物語を絞ってしまい、そのためにラーメタルの神秘性が作品全体を覆うことになり、1000年女王の存在そのものと合わせて非常にファンタジックな作品に仕上がっています。

 この映画を語る上でけっして無視できないのは、喜多郎の音楽でしょう。
 当時はシンセサイザーというと、YMOに代表されるテクノポップが主流で、他に富田勲氏あたりがクラシック音楽を素材にアルバムを出しているというところが一般には馴染みのあったぐらいだったと思います。
 そういう時にNHK特集の『シルクロード』の音楽で脚光を浴びたのが喜多郎でした。シンセサイザーというと、そのエレクトリックな人工音を前面に打ち出した音楽が常識ともいえる風潮だった時代に、自然に溶け込むような独特の音色を奏でて、聴くものに新鮮な驚きを与えてくれたのが喜多郎の音楽だったのです。

 劇場版『1000年女王』の音楽担当が喜多郎ということで、アニメファン以外の一般的な音楽ファンの間でも話題になっていたようです。しかし、ダビングレベルの問題からか、実際に劇場に流れた音はけっこう音割れしていて、喜多郎の繊細な詩情のある音楽を楽しむには難しそうでした。
 現在発売されているLDも、昨今の高品質なテレシネが行われているものではないので、音の方は映画で聴くよりも酷いぐらいのような気がします。やはりサントラ盤*1で聴くのが一番でしょうけど、残念なことにCDが出てないのですね。*2(一部の曲は喜多郎の他のアルバムにも収録されていたはずなので、そちらでCDになっているかもしれませんが……)*3

  A  プロローグ
   1.スペース・クイーン
   2.星雲
   3.光の園
   4.まぼろし

  B1.コズミックラブ(宇宙の愛)
   2.自由への架橋
   3.プロメシュームの想い
   4.未来への讃歌~エピローグ

 A1は映画冒頭のタイトルに使われている、いわばこの作品のメインテーマというべき音楽です。主題歌の「星空のエンジェル・クイーン」と同じメロディーを使っていますしね。1000年女王という神秘的な存在の中に遥か太古から未来永劫へと続く永遠の時の広がりを感じさせてくれる曲です。
 映画では冒頭のラーメタルの後に入り、その後に東京の雪野弥生のマンションのシーンが入るため、シーンのつながりなど何も無い、独立した使われ方がされているのが曲の広がりを殺してしまっているような感じがして、少し残念ですね。
 中盤、夜森が始をかばって被弾し、ラーメタルの司令船に特攻していくシーンに使われていたのも印象的です。

 A2は確か、大気の橋が架かってラーメタルから移民船団が発進するシーンに使われていたような気がします。開けてきた未来の希望に向かって静かに飛び立とうという感じがする音楽ですね。けっして曲そのものは明るくはないのですが、希望を持ってに羽ばたこうという雰囲気がする曲です。

 A3は終盤、ラーレラの宮殿船の中で、瀕死のドクターファラが弥生を守ろうとラーレラを必死で抑え、最期を遂げる辺りに使われていた音楽だったと思います。非常に緊迫感を出しながら、それでいてラーメタル人の悲劇の深い悲しみをも巧妙に感じさせてくれます。

 A4はラーメタル人の目覚めのシーンに使われていた曲です。1000年に1度の目覚めの時を希望と歓喜にあふれて迎える、そういうラーメタル人の心境を描いた名曲です。この作品の音楽はどうも1000年女王側よりもラーメタル側を主体に作られているような感じが強いのですが、この曲なんかはそのもっともたるものでしょうね。
 この映画、音楽に重点を置いて見てみるとラーメタル人に感情移入してしまいますよ。きっと……

 B1は具体的な使用箇所を思い出せませんが、タイトルがすべてを語っているように、明朗で希望にあふれる曲ですね。
 このサントラ盤、曲の区切りが無いので、ふと気付くと次の曲に入ってしまっているということが多いのですが、この曲なんかはその顕著な例です。富田勲氏の『ノストラダムスの大予言』もそうだけど、シンセ音楽のアルバムにはこういう片面まるまる連続しているものが多いのですが、映画のサントラ盤ぐらいは区切りを付けて欲しいです。

 B2は1000年女王の方舟が発進するシーンに使われた音楽だったと思いますが、非常に緊迫感を感じさせながらも雄大で力強く飛び立つ印象を感じさせる曲です。見事にダイナミックなスペクタクルを感じさせてくれました。その他にも甦った歴代1000年女王たちがラーレラの宮殿船を攻撃するシーンにも使われていました。
 いわば太古から受け継がれてきた歴代1000年女王の地球への愛情を表わした曲と言えるでしょう。本サントラ盤中の最重要曲でしょうね。

 B3は再びメインテーマですが、やや繊細なマイナー調の感じの曲で、ラーメタル人でありながら祖国に敵対し、自分の愛する地球人のために戦う1000年女王の悲しみを表わした音楽ですね。セレンと夜森の死に、歴代女王の復活をミライに要請するシーンや、ラスト付近で使われていました。

 B4はラーメタルから宮殿船が発進するシーンに使われていた曲ですね。種族の未来のために引き返すことの出来ない地球への旅に力強く旅立っていく彼らの決意や希望、そして悲しみなどのすべてを包み込んだ音楽です。

------------------------------------------------------------------------
2.交響組曲『1000年女王』

 主題歌を除けば、全曲シンセサイザーというアニメ史上でも画期的な劇伴音楽*4となった『1000年女王』ですが、単にシンセだけのBGMなら昨今のアニメでは珍しくもありませんね。でも、安価なシンセがありふれ、シンセ奏者が珍しくもない現在、音楽製作にかかる人件費節約のためだけのようなシンセ音楽とは違い、当時はむしろシンセにしたほうが色々と費用が嵩んだのではないかと思います。
 喜多郎という、当時きってのシンセ奏者を起用したのは、話題作りという面もあるでしょうけど、彼自身が音楽に寄せている自然への愛情と造詣の深さというものが、『1000年女王』という作品をうまく引き立ててくれるのではという期待が大いにあったのではないかと思います。
 いま劇場版『1000年女王』といえば真っ先に喜多郎の音楽を思い浮かべくらい切っても切り離せないものですから、この起用は大正解だったのでしょう。

 でも、それまでのアニメアルバムがシンフォニーを売り物にしていたことに比べて、全曲シンセサイザーというサントラ盤はメーカーにとっては不安だったのか、すかさずシンフォニーバージョンのアルバムも出てきました。*5

  A1.QUEEN MILLENNIA 永遠の光
   2.COSMIC LOVE
   3.まぼろし
   4.自由への架橋(FREEDOM)

  B1.星空のエンジェル・クイーン
   2.未来への讃歌
   3.ANGEL QUEEN

 A1はこのアルバムのオリジナル曲。B1がデラ・セダカの主題歌で、B3はそのシングル盤B面に収録されていたシンフォニック・アレンジ曲。
 演奏はロスアンジェルス・シンフォニック・オーケストラ。デラ・セダカ歌う主題歌のレコーディングのついでにレコーディングしてきたという匂いがするのですが、どうなんでしょう。

 アニメの音楽はたいていは国内のオーケストラですけど、ごく偶に海外に行ってレコーディングしてくるのがありますが、個人的には好きではないですね。演奏の雰囲気が国内のオーケストラと違う感じがありますから。*6
 このロスアンジェルス・シンフォニック・オーケストラにしろ、昨年『交響詩セーラームーンR』のシティ・オブ・ロンドンシンフォニアにしろ、聴いてみたところでは管楽器、それもトランペットやホルンのような派手な楽器ではなく、フルートやクラリネットの音が目立つような……録音場所の問題もあるのでしょうけど。*7
 まあ、オールマイティな日本のオーケストラと違って向こうはレパートリーがある程度決まっているから、楽団によって演奏できる曲の傾向が決まっているのかも知れませんし……向こうでは映画音楽をアレンジしたシンフォニーはムード音楽的に演奏するのがスタンダードなのかもしれませんね。

------------------------------------------------------------------------
3.「星空のエンジェルクイーン」について(2019年補足)

 この作品のサントラは『松本零士音楽大全』に収録されたのが唯一の国内でのCD化で、今に至るも単品では発売されていません。(『交響組曲』は言うまでもなし)
 主題歌「星空のエンジェルクイーン」はその『松本零士音楽大全』にも「権利上の都合」ということで収録されませんでした。おそらく当時はポニーキャニオンとデラ・セダカの契約が切れていたからだと思われます。(『松本零士音楽大全』はコロムビアファミリークラブからのセット販売ですが、『1000年女王』のディスクはポニーキャニオンの発売という形になっています)

 コロムビアからカバー曲が出ていたTVシリーズの主題歌と違い、この曲に関してはその当時カバー曲が出てたわけでもないので、オリジナルが復刻できなけりゃCDで聴けないわけですね。そんなわけで、『松本零士音楽大全』に入らなかったことで一時は絶望的な状況でした。

 似たようなものは(アニメじゃないけど)『ゴジラ(1984)』の主題歌「ゴジラ (愛のテーマ)」。オランダのザ・スター・シスターズという女性グループが歌っていたのですが、90年代半ばに東芝EMI(ユーメックス)から『ゴジラ大全集』というサントラ盤シリーズが発売された時には、日本での契約が切れていたということで収録されませんでした(映画公開当時のオリジナルのシングル盤はワーナー・パイオニアの発売だったかな)。で、代わりに(公開当時のサントラ盤発売元の)キングレコードの出してたカバー曲が収録されていました。
 こちらは2000年代になって東宝ミュージックが出した『ゴジラサウンドトラック・パーフェクト・コレクション』のシリーズで何とか収録してくれましたが。

 さて、「星空のエンジェルクイーン」の方ですが、その1,2年後に何故かいきなりヒーリングミュージック系のアルバム*8に収録されて発売されたのでびっくりしました。喜多郎とか宗次郎*9とか、当時のそういう癒し系の音楽を集めたオムニバス盤なのですが、基本的にインスト曲メインのアルバムでいきなりボーカル曲というのはアルバムコンセプト的にどうなのかって感じがしないではないのですが、まあ喜多郎にかこつけて「星空のエンジェルクイーン」を紛れ込ませたというのが本当のところなのでしょう。
 なにはともあれ、これでようやく「星空のエンジェルクイーン」がCDで聴けるようになりました。とはいえ、アニメ関係とは全く無縁のレーベルから出てる商品なので、当時はもうGoogleAmazonもあったとは言え「ググレカス」なんて言葉はまだ一般化してない頃だから、何も知らないところから見付け出すのは困難だったかもしれません。

 もっとも、現在はデラ・セダカ自身のアルバム*10がCD化されていて「星空のエンジェルクイーン」もそこに収録されているので、音源としてはより入手しやすくなってると思います。

------------------------------------------------------------------------
あとがき(2019年版)

 シンセ音楽なんて冷たくて無機質なもの。そういうイメージを持っていた時に耳に入ってきた喜多郎の音楽は衝撃的でした。下手な生楽器の演奏以上に暖かく心地良い音楽。それまで偏見をもっていたシンセサイザーに対する感覚を改めるようになってしまいました。
 シンセと言えばテクノポップというイメージの時代に、むしろ逆に自然に溶け込んでいくかのような喜多郎サウンドは斬新でした。
 でも、アニメ音楽でシンセを前面に押し出した作品は続きませんでしたね。確かにシンセサイザーという楽器はどんどん生楽器に置き換わっていくのですが、そこで奏でられる音はPM音源とかFM音源の尖った電子音ではなく、より生楽器の音の再現を目指したPCM音源に変わっていきました。もはやシンセだからといって独自の音楽ジャンルを奏でる時代ではなくなったのです。
 とはいえ、PCM音源が一般化するのは90年代になってからなので、しばらくはFM音源の時代が続くのですが、喜多郎のような独自のサウンド世界を持つアーチストは現れませんでした。

 とは言え、初期の久石譲氏とか川井憲次氏とか、シンセ音楽を抜きに語れないサウンドを紡ぐ作曲家も多くいますので、バッサリという断絶があるわけではありませんが……

------------------------------------------------------------------------
(記事初出 ニフティサーブ・アニメフォーラムマガジン館 95.03.04)

f:id:animepass:20190217135049j:plain

 

TVシリーズ同様、サントラ盤のCDが出てないのはいかんともしがたいのですが、とりあえず聴けるものを探してみました。

「コズミックラブ」のみ収録なら
ザ・ベスト・オブ・テン・イヤーズ



「コズミックラブ」の演奏を含むライブ盤
亜細亜/シルクロードの旅



サントラの海外盤CD。 非正規品というわけじゃなく、海外での販売権を持ってたメーカーが独自にCD化したみたいですが、アナログ盤から音源を取ってるのか音質はよくないらしいです。 相当なレア物なので値段は……。あくまで、こういうものもあるという参考に。
Millenia




ついでに主題歌の収録CD。こちらの入手は容易でしょう。

「星空のエンジェルクイーン」を含むデラ・セダカのアルバム(現行商品)
ガール・フレンド/I’M YOUR GIRL FRIEND



「星空のエンジェルクイーン」が最初にCD化されたアルバム。
OASIS(2)~Quality&Relaxing~

*1:東映映画「1000年女王」オリジナルサウンドトラック』(C28G0124 82.02.-- ¥2,800)

*2:昔、海外盤で『Millenia』というタイトルで出てたみたいで、Amazonのマーケットプライスとかヤフオクとかに出てくることがありますが、あまりにレア過ぎるので相場は覚悟の程を。というか、直接海外のAmazonとかから中古品を入手したほうが安く済みます(物があればだけど)。あくまで喜多郎のアルバムという体裁の『1000年女王』とは無関係のジャケットですね。
国内盤としては後に『松本零士音楽大全』に全曲収録されていますが、それっきりです。

*3:喜多郎 ザ・ベスト・オブ・テン・イヤーズ』(COCB-53373 05.07.27 ¥3,800)
喜多郎の自薦ベスト。リミックス版の「コズミックラブ」を収録。
喜多郎 亜細亜シルクロードの旅』(SDCS-1004 98.11.18 ¥2,400)
1984年にアジアツアーを行った時のライブ盤ですが、「コズミックラブ」が1曲だけ収録されています。

*4:いうまでもありませんが、あくまで電子音楽の媒体としてのシンセサイザーの話です。

*5:『交響組曲「1000年女王」』(C28R0091 82.03.-- ¥2,800)

*6:現在では『鋼の錬金術師』とか『リトルウィッチアカデミア』等の大島ミチル氏が多くの作品で海外オーケストラを多用していますが、この人くらいになるとそれぞれのオケの音とかわかった上で、自分で注文付けたりして作り上げていくので問題ないのですが、80年代当時だと演奏は向こうの指揮者にお任せ状態だったのかと思います。

*7:一般的な傾向で言えば、日本のオーケストラは弦楽器が厚いのだけど、欧米のオーケストラの多くは管楽器が厚いような感じは大きいです。

*8:Oasis Quality & Relaxing』(SDHL-1018 02.06.28 ¥2,667)

*9:オカリナ奏者。この人もNHK特集の『大黄河』のテーマ音楽で脚光を浴びた人ですね。

*10:『ガール・フレンド/デラ・セダカ』(PCCY-50085 17.12.20 ¥2,315)