アニメ音楽年代記

サントラ盤を中心としたアニメ音楽の昔話

わが青春のアルカディア

1.わが青春のアルカディア 音楽集

 松本零士のキャラクターとしてひときわ群を抜いた存在、宇宙海賊キャプテンハーロック。そのハーロックの若き日を描き、彼がドクロの旗を掲げる宇宙海賊になった経緯、そしてトチローとの出会いとアルカディア号の建造の秘密を明らかにしたのが劇場版『わが青春のアルカディア』でした。
 これ以前にハーロックが登場した作品として挙げられるのはTV版『宇宙海賊キャプテンハーロック』、劇場版『銀河鉄道999』、TV版『銀河鉄道999』の「時間城の海賊」3部作、劇場版『さよなら銀河鉄道999』となりますが、音楽によってハーロックが描かれていたのは前の2作品だけでした。「時間城の海賊」の時もハーロックの登場シーンに聞きなれない音楽が使われているのですが、現在に至るも音盤化されていないし、他の回に使われたかどうかも不明なので考えないことにします。*1

 最初のTV版ハーロックの音楽は横山菁児氏、劇場版999は青木望氏が担当しており、この2作品についてはすでに取り上げているので詳しく触れることはしません。この両氏の後を引き継いで、本作品でハーロックの音楽を手掛けたのは木森敏之氏*2です。
 木森氏といえば、アニメではTV版『ダーティペア』辺りをてがけていますが、それ以外に耳に付くのがどこかの局の2時間ドラマ枠(火曜サスペンス劇場かな?)の音楽*3ですね。ドラマ自体とは全く似合っていそうも無い大仰な音楽という感じがして、大いに違和感を感じるのですが、そのドラマ番組枠のテーマ曲も『ダーティペア』も、この『わが青春のアルカディア』も似た曲調の音楽が使われていますね。

 最初にこの映画のサントラ盤*4に針を落とした時、一瞬レコードを間違えたのかと思ってしまいました。信じられないことに、スピーカーから流れてくる音はドボルザークの『新世界より』だったのですから……
 あわててジャケットを確かめると1曲目のタイトルの横に
    《使用曲:ドヴォルザーク作曲「新世界より」》
と書かれていました。つまり、サントラに既製のクラシック曲を引用しているわけですね。
 ドボルザークの他にも、このサントラ盤ではグリーグ組曲ペール・ギュント』、アルビノーニの「アダージョ」が使用されています。まあ後の『銀河英雄伝説~わが征くは星の大海~』*5などとは違って、それっぽいところにそれらしい音楽を使っているだけですけど、それでもクラシック音楽をそのままサントラに組み込んでしまっているというのは驚きでした。

  A1.序曲~夢敗れて
   2.太陽は死なない     (歌/朝比奈マリア)
   3.友情の血
   4.永遠の愛
   5.血盟の誓い
   6.ドクロの旗を掲げて

  B1.火の河を超えて
   2.消えてゆくともしび
   3.星空のラストソング   (歌/朝比奈マリア)
   4.決闘~己れの旗の下に~
   5.宇宙葬~やすらかなる眠り~
   6.わが青春のアルカディア (歌/渋谷哲平

 A1はドボルザーク新世界より』第1楽章の冒頭の一部分から始まりますが、この部分は映画冒頭でファントム・F・ハーロックⅠ世がニューギニア島のスタンレーの魔女に挑戦するシーンに使われています。続くファンファーレは映画のタイトルが出る部分。そしてメインテーマが重苦しく悲痛に奏でられます。
 イルミダスとの戦争に敗残し、避難民を乗せて地球に戻っていくデスシャドウ号を指揮するハーロック。その絶望と屈辱感にあふれた心境を、重厚なオーケストラが描いています。

 A2はハーロックの恋人、マーヤが地下放送を通じて歌い続けている歌です。歌ってる人*6はよく知りませんが、アニメソングによくあるヒットポップス系の歌ではなく、どちらかというと演歌やシャンソンに近い歌謡曲という感じですね。大人の歌というイメージです。
 この映画の舞台設定が、いわば第2次大戦に敗北し連合国軍に占領された日本を下敷きにしているためか、どうも当時の記憶を持つ製作者サイドの人たちのノスタルジーを満足させるように作ってる感じがしますね。作品そのものは青少年がターゲットのはずなのに、そこらへんのアンバランスさがあまり興業的に成功しなかった原因かもしれません。
 アルカディア号が地球を飛び立って行くシーンに使われたインストゥルメンタル版も印象強いのですが、こちらは『音楽集2』*7に入っています。

 A3は主にファントム・F・ハーロックⅡ世と大山敏郎のレビC12Dを巡るエピソードの部分に使われています。つまりコクピット・シリーズの『わが青春のアルカディア』のハーロックの回想シーンのエピソードですね。
 古き良き時代というわけかどうか知らないけど、作品上でも薄暗い本編の画面と違って、明るい青空の映えた画面になっていますが、音楽の方も明るい系統のアレンジで仕上がっています。

 A4はハーロックとマーヤの悲恋を描いた曲ですね。なかなかマーヤとの再会が果たせないハーロック。ようやく出会えた時には占領軍の治安部隊の襲撃を受け、ハーロックは片目を負傷してしまう。そのハーロックの身を案じながらも、立ち去らなければいけないマーヤ。
 この映画を通じてハーロックの行動原理となっている一方のひとつが、マーヤとの愛なのですが、この曲はそれをじわじわと盛り上げながら奏でています。

 A5はトカーガ人のゾルたちとハーロックたちの間に、トカーガ星に残された人々の救援にいくための血盟が結ばれるシーンの音楽です。イルミダスの傭兵としてやってきたゾルたちは自分たちの星の危機を知り、クイーン・エメラルダス号を奪おうとするが、彼らの境遇を知って涙するトチローとハーロックにすべてを委ねることにする。その熱く結ばれる血盟を奏でる、作品前半の最大のクライマックスシーンを盛り上げた曲です。

 A6はクイーン・エメラルダス号と地球パルチザンの決起からアルカディア号発進までのシーンの音楽ですね。ただし、ラストのハイテンポの曲は発進シーンのバージョンではなく、アルカディア号が宇宙に出てから使われた曲です。実際の発進シーンの音楽は『音楽集2』の方に入っています。
 それはそうと、前半の畳み掛けるような音楽は木森氏の他の作品でも聴かれるような構成なのですが、さすがに重厚な編成のオーケストラで録音しているのはこの作品ぐらいなので、緊迫感が断然違いますね。

 B1はトカーガからの帰路、プロミネンスの河の灼熱地獄に通りかかるシーンの音楽ですが、あまり印象には残っていないですね。

 B2は地球に戻ったハーロックの目前でマーヤが息を引き取るシーンに使われていました。ここではグリーグ組曲ペール・ギュント』から「ソルベーグの歌」が用いられて、マーヤの悲しい最後を引き立てています。
 せっかくオリジナルのモチーフもあるんだから、ここは既成曲を使わずに仕上げてくれても良かったのではないかと思えるのですが、安直に既成曲のイメージに負ぶさった感じになってしまっていますね。それはそれで作品のひとつのあり方だとは思いますが、A4あたりで使っていたモチーフが活かされていないのが少し残念な感じもします。
 ラストでいきなり曲相が代わって、ハイピッチな曲になるのですが、この部分はアルカディア号で出て行こうとするハーロックにムリグソンが銃を抜き、逆にハーロックに額を撃ち抜かれるところの急展開のシーンですね。

 B3は劇中では未使用です。A2よりは聴き易い曲ではありますが、大同小異で付き合いにくい曲であることは変わりませんね。

 B4はイルミダス軍地球占領部隊司令官ゼーダとの決戦のシーンに用いられた曲です。決戦シーンの音楽と言うと、普通は血湧き肉踊るような派手な音楽が使われることが多いのですが、この曲は決戦の音楽にしては静かで優雅な曲です。
 まあ戦闘シーンの音楽ですから、軽やかなセレナーデというわけにはいきませんが、この音楽の使い方はけっこう衝撃的でしたね。まあ戦闘自体、派手な武器で一気に畳み込むというものではなく、淡々としたものでしたから違和感は感じませんでしたが。後に『銀河英雄伝説~わが征くは星の大海~』で会戦シーンにラヴェルの「ボレロ」を使っていたのも印象的でしたけど、この作品の決戦シーンを見ていたからそれほど衝撃的ではありませんでしたね。

 B5は巨大惑星トリケラトプスでの宇宙葬のシーンで使われた音楽。ベースになっているのはアルビノーニの「アダージョ」です。まあステレオタイプな使い方ですね。

 B6はエンディング主題歌。渋谷哲平という歌手は一時期アイドルとして売っていましたけど、この頃はあまり名前を聞かなくなっていたので、当時は少しばかり疑問に思っていました。
 歌としては正当なヒットポップス系のアニメソングに仕上がっていて、挿入歌のような違和感はまったく感じませんでした。映画では間奏部分でボリュームが下がり、ハーロックの追放を宣言するトライター首相のTV演説が流れていたのが印象的でした。

 このサントラ盤、クラシック曲、それも『新世界より』のような曲を引用していることもあるのか、けっこう重厚な演奏になっています。ここまで重低音を響かせているアニメ音楽はまず無いでしょうね。
 木森版ハーロックのテーマというのはA6のラスト等で聴かれるハイテンポで軽快な曲ですね。若き日のハーロックということもあってか、横山版や青木版のような重々しさは感じられません。それでも自分の信念によってまっすぐ突き進んでいくという力強さは大いに感じられます。

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2.わが青春のアルカディア 無限軌道SSX(2019年付記)

 劇場版『わが青春のアルカディア』の後日談を描くTVシリーズとして放映された『無限軌道SSX』ですが、人気絶頂期の『うる星やつら』の裏番組*8ということもあり、視聴率低迷で全22話で終わってしまいました。

 『わが青春のアルカディア』と『銀河鉄道999』の間を結ぶ作品だと宣伝され、メーテルや黒騎士ファウストの登場も囁かれていたのですが、それらのキャラは登場せず、ドクター蛮はメーテルの父親のドクターバンと似た名前のただの医者に終わってしまいました。
 トチローの最後も、惑星ヘヴィメルダーに不時着したデスシャドウ号という劇場版『銀河鉄道999』そっくりのシチュエーションで、おそらく背景美術も流用した形で描かれているのですが、そこには(劇場版『銀河鉄道999』でトチローの最期を看取った)鉄郎の不在という致命的な違いがあります。
 この作品以降も松本作品の間を結びつけるという作品が何度も作られるのですが、その多くはこの作品同様、単にパラレルワールドを増やすだけに終わってしまって、本当の意味で世界観を統一することには尽く失敗してしまっています。結局、宣伝に踊らされたファンの失望を買い続けるだけに終止し、商業的に見放されるようになってしまったのも無理はありません。
 松本零士作品のTVシリーズは、この作品を最後に長く作られなくなり、2000年代になって深夜アニメが定着した頃に『宇宙交響詩メーテル』や『銀河鉄道物語』といった作品が出てくるまでは、マイナーなOVA作品が細々と作られるだけになってしまいました。

 さて、この『無限軌道SSX』の音楽は、映画の木森敏之氏に代わってアニメ音楽の大家・菊池俊輔*9が手掛けていますが、放映当時はサントラ盤の類は出てなかったと思います。2000年代に入って『松本零士音楽大全』に一部が収録された後、『ETERNAL EDITION』シリーズ*10に現存の音源がほぼ収録されているようです。
 音楽としては主題歌のメロディーをアレンジしたテーマ曲が中心で、そこに状況説明的な音楽が加わってるという感じで、劇場版の音楽は別としても、TVシリーズ『宇宙海賊キャプテンハーロック』の横山菁児氏の音楽と比べても、どこか古いアニメの音楽という印象です。アルカディア号のテーマとして劇場版の音楽を意識したような曲もあるのですが、メインに使われてたのは主題歌のメロディーの方だと思います。
 ま、菊池俊輔氏らしいメロディーの作りとか、それはそれで楽しめる要素はあるのでしょうけど、過去のハーロック音楽を引き継いだ先というものを期待していた立場からすると、記憶に残らない音楽でした。

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(記事初出 ニフティサーブ・アニメフォーラムマガジン館 95.03.23)

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今回のお題
廉価盤が出てましたが、すでにメーカー在庫切れです。でも旧盤よりは入手しやすいでしょう。

〈ANIMEX 1200シリーズ〉(8) 東映映画 わが青春のアルカディア音楽集



サントラの2枚目
こちらも廉価盤で、同様にメーカー在庫切れ。旧盤よりは入手しやすいというレベル。

ANIMEX 1200シリーズ 80 わが青春のアルカディア 音楽集 Vol.2



劇伴音源を網羅したETERNAL EDITION。「合唱組曲」付き。
これも今となってはちょっと入手困難。

わが青春のアルカディア(劇場版)



TV版『無限軌道SSX』の音楽と、劇場版『わが青春のアルカディア』及び『宇宙海賊キャプテンハーロック』のデジタルトリップを収録
もう高騰化してしまっていますね。

Eternal Edition File No.5 わが青春のアルカディア無限軌道SSX

*1:『ETERNAL EDITION TVシリーズ銀河鉄道999 File No5&6』(COCX-31438~9 01.07.20 ¥3,800)に収録されている「時間城の海賊」の2曲目、軽快なエレキギターのフレーズからサックスに始まるジャズセッション風のカッコいい曲がハーロック(戦士の銃を持ったマントの男)の登場シーンに使われています。(『松本零士音楽大全』でも「時間城の海賊~戦士の銃を持つ男~」の2曲目に収録)

*2:一時「大森敏之」との誤記が広く出回っていた挙げ句、90年代以降にアニメソングを多く手掛けている「大森俊之」氏と名前が似ているので混同されやすいのですが、実はこの作品を手掛けた6年後の1988年に亡くなられているのですね。

*3:この番組の音楽はジョン・スコット作曲の映画『ファイナル・カウントダウン』の音楽からの盗作疑惑があり、岩崎宏美が歌う主題歌「聖母たちのララバイ」は当人が乗り込んできて、共作扱いになったという話があるそうです。(Wikipedia聖母たちのララバイ」参照)

*4:『わが青春のアルカディア 音楽集』(CX-7058 82.07.-- ¥2,500)

*5:続くOVAのシリーズでもクラシック曲をメインに使用されていましたが、おかげで『銀英伝』のオリジナルの音楽というのがほとんど印象に残っていません。

*6:朝比奈マリアは往年のスター歌手・雪村いづみの娘という話題性だけで起用された感じですが、ファントム・F・ハーロックⅠ世役の石原裕次郎といい、いったいどういう客層にアピールしようとしていたのか甚だ謎です。

*7:『わが青春のアルカディア 音楽集Ⅱ』(CX-7063 82.08.-- ¥2,500)
この2枚目の方は未収録BGMの寄せ集めという感じで、1枚目のように各トラックがきちんとまとまって構成されているわけではありません。でも、かゆい所に手が届くような音源が揃ってるんですよね。
なお、1枚目のアルバム収録曲も含めて実際の劇伴使用曲を映画での使用順に収録したものは後に『ETERNAL EDITION File No.3 & 4 わが青春のアルカディア』(COCX-31699~700 01.12.21 ¥3,800)として出ています。

*8:当時はゴールデンタイムに複数のキー局が全国ネットでアニメ番組を放映してたので、人気作品の裏番組になったおかげで視聴率低迷で打ち切りなんてことはよくありました。(『アルプスの少女ハイジ』の裏番組だった『宇宙戦艦ヤマト』が全39話予定が26話で打ち切られたというのは有名な例です)

*9:大山のぶ代時代の『ドラえもん』や昭和の『仮面ライダー』シリーズ、はては時代劇『暴れん坊将軍』の音楽まで、テレビ音楽を多く手掛けてられますが、松本零士作品では『惑星ロボ ダンガードA』や『SF西遊記タージンガー』も菊池俊輔氏の音楽ですね。

*10:『ETERNAL EDITION File No.5 & 6 無限軌道SSX(わが青春のアルカディア)』(COCX-31701~2 02.01.19 ¥3,800)
無限軌道SSX』のBGMが収録されてるのはNo.5の方。No.6には劇場版『わが青春のアルカディア』と『宇宙海賊キャプテンハーロック』の「デジタルトリップ」が収録されています。