アニメ音楽年代記

サントラ盤を中心としたアニメ音楽の昔話

地球へ…

1.1980年代の初めに

 今回からいよいよ1980年代に入るわけですが、この10年間での最大の事件は何と言ってもアナログレコードからCDへの転換ということになるでしょうね。80年当時、まさか10年後にレコードが消え去っているということなど、全く予想すらできませんでしたから。*1
 CDが登場したのが82年秋。アニメのタイトルが揃い出したのは85年ぐらいからだと思います。88年にはCDの生産数がLPを上回り、翌89年が終わった時点で、一部の特殊なものを除いてアナログ盤の新譜が出なくなってしまいました。
 ひとつの文化を担ったメディアが、こうも簡単に他のものに置き換えられてしまうのか、それを思った時、背筋がぞっとしました。この80年代はもうひとつ忘れられないメディアの交換があって、長くアマチュア映画の担い手であった8mmシネカメラが8mmビデオに取って代わられてしまったのですが、これらは単なる工業製品の規格変更ではなく、そのメディアによって培われて来た文化の破壊に等しいのではないかと、当時は複雑に感じていました。*2

 CDの登場はアニメ・サントラ盤の作りにもかなりの変化をもたらしましたが、それはまた先の話。80年代も最初のうちは70年代の延長という感じですね。
 ……ということで、今回は『地球へ…』です。

----------------------------------------------------------------------
2.交響組曲 地球へ…

 この当時、中学生時代の頃、マンガと言えば『マカロニほうれん荘』(鴨川つばめ)とか『すくらっぷ・ブック』(小山田いく)など、チャンピオン連載の作品を幾つか読んでいたぐらいで全然、流行のマンガも知らず*3、ましてや少女マンガなどというものには縁がありませんでしたから、竹宮恵子という作家を知ったのは、この『地球へ…』と後の『アンドロメダ・ストーリーズ』によってでした。そして後にも先にもこの2作品の原作者と言う以外の存在として感じたこともありませんが、かなり強い印象を受けています。

 正直言って、この作品の存在を知ったのは公開当時ではありませんでした。アニメ雑誌を読んでるわけでもなく、TVもほとんど見ていないし、近くに映画館があるわけでもない……ということで、当時は存在すら知りませんでした。
 この作品を知ることになったのは、この年の夏に出た『SF、アニメ、サスペンス映画全曲集』*4という映画音楽のオムニバス盤の中に主題歌のインストゥルメンタルが入っていて、その軽快なメロディーに何か惹かれるものがあったからです。
 作品自体は数年後にTV放映された時に見ました。この時驚いたのは、実際の劇伴は主題歌と全然違って重厚な映画音楽だったことです。それもそのはず、いま思えば、音楽の担当が日本映画音楽界の重鎮、佐藤勝氏だったのですから。
 もっとも当時は佐藤氏の名前も知らず、ただ実写の映画で聞き覚えのある感じの音楽だな、とぐらいにしか思いませんでしたが。

 サントラ盤*5を中古レコード店で購入したのはかなり最近です。買ったすぐ後でCDが出たような記憶がありますから。『地球へ…』の音楽は気にはなっていたけど、新譜店ではすでに見掛けることもなく、当時はまだ中古レコードというものが不安で、新譜オンリーという純潔を貫いていました。ふっきれたのは自分がCDに切り替え、同様にCDに切り替えた近くのレンタル店から何枚かのアニメLPを引き取ってからですね。
 例によって「交響組曲」と名乗っていますが、別にシンフォニー・アレンジされたアルバムでは無いようです。今回は作品自体、あまり見たことがありませんので、簡単にいきます。

 

  A1.地球へ…
   2.遥かなる憧憬の地
   3.目覚めの日
   4.眠れる獅子…ミュウ
   5.苦難への旅立ち
   6.アタラクシアの若者達
   7.新しい生命の賛歌

  B1.宿命の二人
   2.メンバーズ・エリート キース・アニアン
   3.燃える惑星ナスカ
   4.星の海の闘い
   5.ジョミー・マーキス・シン
   6.友情の勝利
   7.愛の惑星

 

 ダ・カーポの歌う『地球へ…』『愛の惑星』はそれぞれ小田裕一郎*6ミッキー吉野*7の作曲で、好きな曲でもありますが、佐藤氏の劇伴とは全く別個の存在ですのでパスします。

 A2はいわば遥かな地球のテーマという感じですね。ストリングスの奏でる穏やかで雄大な情景に、人間の営みを奏でるブラスの音。何か西部劇で荒野の真ん中を旅している時にでも流れそうな音楽ですが、宇宙もののSFがスペースオペラと言われるように、案外そういうイメージなのかも知れません。
 A3は未知のものに出会う不安を表わしたかのような音楽ですね。ベースを奏でるのが無機質なリズムから、不安げな旋律に変わり、最後にまたリズムに戻ってくるのが印象的です。
 A4は前曲に続いて悲しげな主人公ジョミーのテーマが強めに展開されますが、後半部分では和らぐように盛り上がり、佐藤氏独特の優雅でシンフォニックなメロディーが現れます。
 A5は『日本沈没*8の終曲などを髣髴させる荘厳な音楽が聴けます。いわば代表的な佐藤メロディーですね。
 A6はタイトルの割には暗い深刻な曲です。木管を尺八のようにかすれさせるような使い方をしてるのは、黒澤作品の担当が長かった佐藤氏らしいところかもしれません。

 A7の前半はいわば愛のテーマです。一般のアニメの愛のテーマというと大層な音楽になるのですが、ここは現実的にささやかな感じで弦楽器が美しく奏でています。これまた『日本沈没』などでも似たようなメロディーが聴けるので佐藤氏のレパートリーの一つかもしれません。
 A7の後半はコミカルな感じの音楽ですが、この手の音楽を聴くと怪獣島のミニラの顔を思い出してしまうのは特撮ファンの悲しさかな。

 

 続いてB面。
 B1はA5を引き継いだ感じでいかにも佐藤氏という感じの音楽ですね。木管とストリングスによる穏やかな調べが印象的です。
 B2は敵役キース・アニアンのテーマを集めた感じですが、影のジョミーというべきキースの成長などをうまく感じさせてくれる曲です。ジョミーの曲に比べると迷いがなくストレートな感じが特徴かな。
 B3はミュウたちの住む惑星の破壊されるシーンの音楽ですが、必要以上に大仰な音楽ではなく、それでいて悲しみなどの感情も感じさせる曲になっています。悲劇を伝えるドキュメンタリーの音楽ってイメージに近いのかな。
 B4は戦闘のテーマですが、単調なメロディーのくり返しで淡々と描いているという感じですね。佐藤氏の音楽と言うことで時代劇映画の合戦シーンのような感じがしないでもありませんが。後半はそれなりに盛り上がってきます。テンポが早いボレロって感じかな。
 B5は主人公のテーマですが、重厚で少しジャズっぽい感じのアレンジの曲です。主人公のテーマと言っても、その心の奥にある深い悲しみというか運命の重みというものをしみじみと感じさせてくれます。力強いサックスが印象的。
 B6は言うなれば大団円の音楽が入るところなのですが、盛り上がるどころか、淡々と短調系の音楽が続いていますね。いつ盛り上がるのかと思っているあいだに『愛のプラネット』が掛かり始め、そのまま終わってしまうという感じです。この映画の恩地日出夫監督自身も実写方面の人らしいので、その関係かもしれません。

 

 いわゆるアニメ的な盛り上がりの音楽を期待する人には物足りなさがあるかも知れませんが、佐藤氏の実写映画の音楽に比べるとやはりアニメの音楽を意識している部分も見受けられます。
 日本映画を代表する映画音楽作家といっても佐藤氏の作品でレコード化されているものは往年の作品でも限られたものだけですし、増してやレコード発売を意識してレコーディングされたものは『日本沈没』のシングル盤など、ほとんど指に数えるぐらいしかないのではないかと思われます。そういう中でステレオ録音でサントラ盤が出されている『地球へ…』は佐藤氏の音楽に触れるには絶好のアイテムのひとつと言えるのではないでしょうか。

----------------------------------------------------------------------
3.佐藤勝氏

 黒澤明七人の侍』などを手掛けた音楽家・故早坂文雄氏の唯一の門弟で、映画音楽を中心に作曲活動を行っています。手掛けた映画は実に300本以上。多い年は2週間毎に1本作っていたこともあるそうです。もちろんTVドラマも手掛けていらっしゃるようです。
 師・早坂氏から引き継いで『用心棒』を始めとする黒澤映画の音楽を手掛けたことで知られていますが、馴染みの深いのは『ゴジラの逆襲』を手始めとする一連の特撮映画の音楽でしょう。
 あまり昔の映画を知らないものにとって佐藤氏の音楽といえば『日本沈没』であり『ゴジラ対メカゴジラ』であったりするわけですが、『日本沈没』では荘厳なオーケストラ曲を奏でる反面、『ゴジラ対メカゴジラ』では伊福部音楽とは違った軽快なメカゴジラのテーマを聴かせてくれます。*9

 

 まさか昭和30年の『ゴジラの逆襲』を手掛けた人がいまだに現役で作曲活動をしているとは思っていなかったので、数年前のTBS系の正月時代劇で耳慣れた感じの音楽を聞いた時には驚きでした。*10
 1993年の伊丹映画祭での「ゴジラ生誕40周年記念映画音楽コンサート」にて指揮される姿を最前列真ん中の指揮者に一番近い席で拝見させていただきましたが、まだまだ現役で音楽を作り続けていって欲しいものです。*11

 

 日本映画の最盛期から音楽を作り続けている方なので、レコーディングは当時はまだ、フィルムに合わせて演奏して行っていたようですが、『地球へ…』では製作が間に合わず、シナリオを読んだだけで音楽だけ先行して録音されたようです。だから従来の佐藤氏の作品と比べるとイメージ音楽的な感じがあるかもしれませんね。
 佐藤氏によるとTVドラマと映画音楽の違いは、走っている人に対してスピード感のある音楽を付けるのがTVで、なぜ走っているか考えさせるのが映画音楽だそうですが、『地球へ…』の音楽はどうでしょうか・・・

----------------------------------------------------------------------
(記事初出 ニフティサーブ・アニメフォーラムマガジン館 94.12.11)

 

f:id:animepass:20180816135938j:plain


廉価盤でCD化された『交響組曲』。すでに高騰化してますが……
〈ANIMEX 1200シリーズ〉(5) 交響組曲 地球(テラ)へ・・・
〈ANIMEX 1200シリーズ〉(5) 交響組曲 地球(テラ)へ・・・

リメイク版のTVシリーズの頃に便乗して出た完全版サントラ。『交響組曲』とダ・カーポによるイメージアルバムの復刻に加えて、劇中のBGMを全曲収録。
ETERNAL EDITION2007 劇場版 地球へ・・・
ETERNAL EDITION2007 劇場版 地球へ・・・

*1:昨今はアナログ盤への回帰ブームとかで新規にプレスされるアルバムも出ているようですが、新譜のターゲットとなるメインの商品にはなっていないので、商業規格的には死んだといって構わないでしょう。手元にある一番新しいアナログ盤は「ハレ晴レユカイ」(2007年)だったりしますが……

*2:その8mmビデオもとっくに無くなってるし、オーディオの方も録音できるメディアがカセットテープからMDに変わったのも今は昔、そのMDも無くなってしまいました。昨今は短期間で新たな規格が生まれては消えて行くので、その規格のメディア商品を買っても短期間で使えなくなってしまう危険が高くなっています。これをパッケージ商品のメディアリクスと名付けたいと思いますが、パッケージ商品が売れなくなってるのはこれが一因といって良いでしょう。

*3:漫画など買ってもらえる家庭ではなかったので、『少年ジャンプ』などの漫画雑誌を手にしたのは自分の自由に使える小遣いがもらえるようになった小学校高学年ぐらいから。『サーキットの狼』が連載され、スーパーカーブームが起こってた頃です。『こち亀』の連載が始まったのも小学校高学年の頃だったかな。

*4:『SF、アニメ、サスペンス映画全曲集』(KW-7283~4 80.--.-- ¥4,000)
オリジナル音源ではなく、電子系楽器による再演奏のオムニバス盤。『スターウォーズ』『スーパーマン』や『宇宙戦艦ヤマト~序曲~』というのにつられて買ったアルバムですが、『惑星ソラリス』や『ファイナル・カウントダウン』の音楽に出会えたのが嬉しかったですね。

*5:『交響組曲 地球へ…』(CQ-7041 80.--.-- ¥2,300)

*6:しばしばアニメのヒット曲を手掛けていらっしゃいますが、印象深いのは『クリィミーマミ』の「LOVEさりげなく」でしたね。

*7:タケカワ・ユキヒデ氏と並んでゴダイゴのヒットメーカーですが、タケカワ・ユキヒデ氏ほど印象は強くないですが、アニメソングを幾つか手掛けてらっしゃるようです。

*8:小松左京原作の1973年版の映画。主演が仮面ライダー・本郷猛の藤岡弘だったりするのが今となっては意外。往年の東宝特撮っぽいクソ真面目なリアリティな本編演出が娯楽映画というよりドキュメンタリーのようなテイストを醸し出してる傑作。2006年のリメイク版はまったく別物ですな。

*9:ゴジラ FINAL WARS』の南極シーンでいきなり佐藤勝版メカゴジラのテーマが流れてきてびっくりしたのも今は昔。

*10:とはいえ、それ以前からやってる伊福部昭氏も当時は平成ゴジラシリーズの音楽を手がけてらっしゃいましたが。

*11:などと書いていたのですが、残念ながら1999年に永眠されました。執筆から20年以上も経つと、その間に物故されてる方が非常に多くて残念な限りです。