アニメ音楽年代記

サントラ盤を中心としたアニメ音楽の昔話

劇場版 銀河鉄道999

1.交響詩 銀河鉄道999

 久しぶりに劇場版をLDで見直してみたのですが、意外と色あせていませんね。劇場版『銀河鉄道999』は劇場版『エースをねらえ!』と並んでアニメ史上不朽の青春映画だと思っているのですが、最近の若い人たちはこの作品をどう捉えているんでしょうか。
 音楽面でみると、当時はゴダイゴの主題歌ということで話題になっていたのですが、劇伴の方もそれに負けてはいませんね。TVシリーズと同じ青木望氏の音楽ですが、TVシリーズの劇伴のメロディーを全く残していないというのも新鮮さを感じました。
 この劇場版のサントラ盤として出たのが『交響詩 銀河鉄道999*1でした。

 A1.序曲----メインテーマ
      冒頭のナレーションから下町のハーロックの指名手配書がアップに
     映し出されるまでの音楽。
  2.“鉄郎”勇気ある少年
      パスを盗んでメガロポリスステーションから鉄郎が逃亡するシーン
     の音楽。
  3.惜別 そして未知への憧れ
      鉄郎の過去の夢、ホテルのバスルームの謎の声、メーテルからパス
     をもらうシーン等の音楽を集めた曲。
  4.テイキング・オフ!銀河の彼方へ
      メガロポリスステーションから999号が発進していくシーンに流れ
     たゴダイゴの「テイキング・オフ!」と、続いてタイタン到着まで
     流れるそのオーケストレーション
  5.氷の中のレクイエム
      冥王星の氷の墓、迷いの星のシャドウのシーンに使われた音楽。
  6.可憐な少女ガラスのクレア
      999号の食堂車のウェートレス・ガラスのクレアの登場シーン及び
     次元トンネル内での停電シーンに使われた音楽。

 B1.時間城へ
      鉄郎が時間城へ向かう途中、時間城への潜入、機械伯爵の手下との
     銃撃戦、山賊アンタレスの爆死のシーンに使われた音楽。
  2.愛の目覚め
      機械伯爵打倒に成功した鉄郎が999号の車内でメーテルに告白する
     シーンの音楽。
  3.心の詩とアルカディア
      前半部がトチローのテーマで、デスシャドウ号の残骸でトチローと
     出会うシーンに使われている。後半はハーロックのテーマで、酒場で
     ハーロックに助けられるシーンに使われている音楽。
  4.惑星メーテル
      メーテル星の崩壊シーンに延々と流れていた音楽。
  5.銀河に散ったクレア…涙
      前半部はクレアがプロメシュームと共に散り、惑星メーテルが最後
     を遂げるシーンに使われている音楽。後半部は鉄郎がハーロック
     エメラルダスと別れるシーンに使われていた音楽。
  6.終曲----別離そして新たなる出発
      メガロポリスステーションでの鉄郎とメーテルの別れに使われてた
     愛のテーマおよびエンディングに流れた「銀河鉄道999*2

 

 『交響詩』と名乗ってはいても劇伴をシンフォニック・アレンジしたものではなく、劇伴をほぼそのまま収録しているようです。確かに映画では幾つかのテーマが様々なバリエーションで奏でられ、交響詩と言えるほどの展開を持つ劇伴だったと思いますが、残念ながらサントラ盤の方は収録曲が極めて少なく*3、ただの組曲にしかなっていません。(ちなみにLDで確認したところ、くり返し用いられている曲は「心の詩とアルカディア号」*4だけで、あとはシーン毎に固有の音楽が使われており、劇伴の大半の曲はサントラ盤未収録となっています)

 

 この作品の音楽はオーソドックスなライトモチーフの手法を用いられて作られています。ライナーノーツに主なテーマの音楽的な解説が楽譜付きで載っていますが、劇伴として耳についたものを挙げてみます。
  ①メインテーマ
  ②母のテーマ
  ③愛のテーマ
  ④メーテルのテーマ
  ⑤鉄郎のテーマ
  ⑥ガラスのクレア
  ⑦トチローのテーマ
  ⑧ハーロックのテーマ
 ライナーノーツには記載がありませんが、これも挙げられるでしょう。
  ⑨エメラルダスのテーマ

 

 ①は「序曲」に用いられているものが一番耳に残るところですが、もう一ヵ所、メガロポリスステーションで鉄郎たちが999号に乗り込むシーンに用いられた曲も導入部のメロディーがコミカルな感じの曲になっていて印象深く心に残っています。
 メインテーマというわりには劇中ではほとんど使われていませんが、大宇宙への希望や憧れ、ロマンを高らかに奏でるテーマという感じです。

 ②はやはり鉄郎の夢の中での過去の記憶のシーンに用いられていたのが「惜別 そして未知への憧れ」に入っていますが、冥王星への到着寸前に鉄郎がメーテルに暖めてもらうシーンの音楽にも使われています。
 いわば《母への慕情》という感じの曲で、TVシリーズと同じく伊集加代子さんのスキャットが用いられていますが、曲のイメージとしてはTVのBGMよりも、からっとした感じになっています。

 ③は鉄郎の夢の中で母の死のシーンに使われたもの、車内でのメーテルへの告白シーン、ラストの別れのシーンと、主なものが3曲ともサントラ盤に収録されています。
 愛のテーマと言っても、単に薔薇色の甘美な曲というわけではなく、青春の幻影と言うメーテルの存在などを踏まえたノスタルジックな感じのテーマ曲と言えるでしょう。

 ④はあまり表面的にはあまり用いられず、メガロポリスのホテルの中で用いられていたのが「惜別 そして未知への憧れ」にはいっているぐらいですが、劇伴では特に惑星メーテルなどで断片的に使われていました。
 マイナー系のテーマで、メーテルの使命などを表わすのに用いられており、普段のメーテルには③のテーマのアレンジが使われていたように思います。

 ⑤は劇中で一番よく用いられたテーマですが、サントラ盤にはパスを盗んで逃げるシーンの音楽が「“鉄郎”勇気ある少年」として入っている他は、「惜別 そして未知への憧れ」に鉄郎の希望を表わすバリエーションとして収録されているぐらいです。一番印象に残るのは冒頭、鉄郎が仲間を集めてパスを盗みにいくシーンの音楽ですが、これは未収録。タイタンの老婆に助けられたシーンや、機械伯爵を倒した後にハーロックたちに新たな決意を述べるシーンなどもかなり印象的な音楽なのですが、これらも未収録。
 TVシリーズと違って、たくましく成長した少年を表わしたテーマ曲で、劇中では様々なバリエーションの形で使われています。少年の夢、希望、決意、行動……それらをうまくアレンジして聴かせてくれるテーマ曲です。

 ⑥は「可憐な少女ガラスのクレア」と「銀河に散ったクレア…涙」に3つの曲が収録されていますが、もうひとつ、999号が惑星ヘビーメルダーに到着するシーンの音楽が結構印象的です。直前、エメラルダスから時間城の情報を得た鉄郎を心配するクレアのシーンから音楽が続いているため、このシーンにクレアのテーマが使われていても不自然な感じはありませんが、それ以上に壮大なアレンジで奏でられたクレアのテーマがヘビーメルダー到着時のナレーションに不思議と合っているんですね。

 ⑦はトチローのテーマですが、トチロー自身の描写以外にもタイタンの老婆やエメラルダスなど、トチローが間接的に関わるところでも使われています。心の詩の前半部にあるハーモニカのイメージが強いテーマですが、その他にも様々なバリエーションが用いられています。タイタンの老婆との別れのシーンに使われていたアレンジがなかなか心地好い曲で気に入っていますが、これも未収録なのですね。
 意外と様々なシーンに用いられているテーマ曲で、この作品におけるトチローの存在の意味の大きさがわかりますね。

 ⑧はキャプテンハーロックおよびアルカディア号の登場シーンに用いられているテーマ曲ですが、バリエーションとしては「心の詩とアルカディア号」の後半部に入っているもの1曲だけで、その登場シーンのインパクトの大きさから思うと音楽的には冷遇されているようです。ただし同じ曲が3箇所で使われているため、曲としては強烈に印象に残ってしまうことは確かですね。
 劇中で唯一、勇壮な曲で、東宝特撮映画における伊福部マーチのように、いわばお約束の曲といっても良いかもしれません。

 ⑨は最初のエメラルダスの登場シーン辺りに用いられていたテーマ曲ですが、あまり明確なテーマでもなく、以降のエメラルダスのシーンにも使われていないので極めて印象が薄いのですが、エメラルダスというキャラクターを描いている貴重な音楽です。サントラ盤にかけらも収録されていないのが寂しい限りですが。

 

 以上、各テーマ毎に劇伴音楽を簡単に見て来ましたが、これを見る限りでは『交響詩 銀河鉄道999』というアルバムは、サントラ盤としては極めて物足りないものと言えます。しかし、単体でアルバムを聴くと、かなりバランスの良さが感じられます。
 これはライトモチーフという手法の利点で、全ての劇伴を網羅しなくても、個々のテーマ曲を網羅できるということがあるかもしれません。またアルバム用のアレンジではなく劇伴そのもので統一取れているからかも知れません。曲の収録も1曲を覗いて映画での使用順のままということもあります。

 しかし、それにもまして無視できないのがゴダイゴの歌と劇伴音楽との相性かもしれません。通常のサントラ盤でテーマソングと劇伴音楽が混在しているとかなり違和感を感じてしまうものです。話題作りのために、作品に不自然なテーマソングを付加している場合などはもちろん、そうでない場合も感じてしまうことがあります。
 この作品のテーマソングも最初は単に話題作りのために作られただけでしょう。しかし、999号の発進シーンに用いられた「テイキング・オフ!」の歌をそのまま受けてオーケストレーションしてつなぎ、そのまま他の劇伴と同じレベルに持っていくことで音楽の断片化を防いでいる方法は巧妙と言えますし、ラストシーンでもその曲で完結してしまうような音楽を作らず、さりげなくエンディングのテーマソングにつないでいるあたりも無視できません。
 劇場版『銀河鉄道999』といえば今ではゴダイゴの歌と切っても切り離せないイメージがありますが、それを可能にしたのはテーマソングをけっして孤立させていない劇伴からのアプローチがあったからかもしれません。

 

 この『交響詩 銀河鉄道999』は『交響組曲 宇宙戦艦ヤマト』と並んでアニメ音楽を語る上では無視できない1枚ではないかと思いますので、興味がある人は是非一聴してみてください。
 個人的には未収録曲が多くて、是非とも完全サントラ盤*5でも作ってもらいたい気持ちが山々です。ここでは触れていませんが時間城の崩壊シーンに使われていた「やさしくしないで」のアレンジもかなり印象的な曲でしたし・・・
 続編の『さよなら銀河鉄道999』のサントラ盤が2枚組でほぼ完全に劇伴を網羅していただけに、余計に残念に思うのですが。(続編の方の劇伴はまったく音楽の作り方が違うので、単純に比べても仕方がないですけどね)

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最後に

 この映画は非常に愛着のある作品です。当時、主人公の鉄郎とほぼ同じ年齢だったし、まだ映画というものを素直に見れた時代でしたから。今回、劇伴をチェックしながら映画を見直してみたのですけど、これだけ手堅く音楽を作っている作品だとは初めて気付きました。
 しかし、いつ見てもこれだけで完結している映画なので、続編なんかを作ると作品世界が破綻してしまうように思うのですが、悲しいことに続編があってしまうわけですね。

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(記事初出 ニフティサーブ・アニメフォーラムマガジン館 94.11.20)

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これも廉価盤が現行商品として出ています。
〈ANIMEX 1200シリーズ〉(1) 交響詩 銀河鉄道999
〈ANIMEX 1200シリーズ〉(1) 交響詩 銀河鉄道999
音質にこだわりたい方には。放送30周年記念CD-BOXの分売版の限定商品らしいです。
交響詩 銀河鉄道999(紙ジャケット仕様)
交響詩 銀河鉄道999(紙ジャケット仕様)
『ETERNAL EDITION』も劇場版の方はもう生産終了・メーカー在庫切れなのかすでに中古価格が高騰してるようですが、『劇場版 銀河鉄道999』の音楽を堪能するためにはぜひ押さえておきたい1枚。
GALAXY EXPRESS 999 ETERNAL EDITION File No.1&2
GALAXY EXPRESS 999 ETERNAL EDITION File No.1&2

*1:交響詩 銀河鉄道999』(CQ-7025 79.--.-- ¥2,300)
かなり早くからCD発売されていますが、初期のものはライナーノーツにテーマ解説等は掲載されていません。(32C35-7666 85.12.21 ¥3,200)

*2:TV版の主題歌と区別するために英語のタイトル(THE GALAXY EXPRESS 999)で呼ばれることが多い曲ですが、正式な曲名はあくまで『銀河鉄道999』。ゴダイゴの曲の中でも代表格に挙げられる曲で、ライブ等で歌われたことも多いようです。英語版の歌詞のものもあり、ライブなどではよく1コーラス目が日本語、2コーラス目が英語で歌われていました。近年のプラネタリウムやイベント上映作品ではタケカワユキヒデによるリメイク曲が使われているようです。

*3:交響詩』に未収録の劇伴は後に『松本零士音楽大全』でようやく聴くことが出来ました。

*4:後半のハーロックのテーマ。ただし、これも実際はシーン毎に別演奏されていたようですが、当時は録音された劇伴の全容まではわかりません。

*5:これは『ETERNAL EDITION 劇場版 銀河鉄道999 File No1&2』(COCX-31392~3 01.05.19 ¥3,800)で『交響詩』の収録曲も含めて作品の使用順に再構成されたことで実現しました。