アニメ音楽年代記

サントラ盤を中心としたアニメ音楽の昔話

銀河鉄道999(TVシリーズ)

1.組曲 銀河鉄道999

 今回はTV版『銀河鉄道999』の音楽を取り上げてみましょう。松本零士氏の代表作といえば『ヤマト』や『ハーロック』よりも、まず『999』が挙げられることと思われますが、TVシリーズはほぼ原作に沿った展開で、文字通り松本零士氏の漫画の世界をアニメ化したものだと言えます。その点、ハーロックやエメラルダスというキャラクターを擁していても、劇場版の方はかなり傾向の異なる作品でしょう。

 この作品の音楽アルバムとして発売されたのが『組曲 銀河鉄道999*1ですが、ヤマトやハーロックのように“交響組曲”ではなく“組曲”だけというのが気になるところです。これは作品や音楽の傾向から言って、壮大なシンフォニー曲というよりも、むしろ叙情的な音楽世界を考えてのことだと思われます。
 このアルバム、当時、友人の家で聴かせてもらったことがあるのですが、どうしても許せない箇所があったので、完全なサントラ盤を望みつつ、当時は購入しませんでした。ところが、待てども待てども完全なサントラ盤は出ず、変なこだわりを棄ててレコードを買おうとした頃には店頭で見掛けず、そんなわけで数年前にCD化された時に入手した類です。

 1.序曲----出発
   ●きらめく銀河~アンドロメダへ●
     宇宙の夢とロマン、旅立ちの希望、旅の安らぎ等を奏でる音楽。
 2.慕情
   ●母の面影~青い地球●
     失われた古き良き時代や、母に対する想いを奏でる音楽。
 3.挑戦
   ●襲撃~怒り~苦悩●
     999や鉄郎たちに襲いかかる危険を表わすスリルとサスペンス感を
    奏でる音楽。
 4.不思議な星
   ●未知への誘い●
     旅の途中で立ち寄る様々な星をファンタジックに奏でる音楽。
 5.流浪
   ●悲しみの旅路●
     限りある命の生身の人間の悲哀、永遠の命を持つ機械人間の虚しさ。
    様々な悲しみを知りながら続ける旅を奏でる音楽。
 6.冒険
   ●孤独~追跡●
     旅の孤独と、冒険のアクションを奏でる音楽。
 7.出会い
   ●宇宙の盗賊たち●
     停車駅の惑星を好奇心を持って見てまわる鉄郎の姿、邪悪な敵に立ち
     向かうクライマックスを奏でる音楽。
 8.終曲----永遠の祈り
   ●望郷~目覚め~祈り●
     懐かしい過去の想い出、迫り来る現実の危機、そして旅先に待ち受け
    る未来への祈りをこめた想いを奏でる音楽。

 この作品の音楽も幾つかの主要なテーマが様々にアレンジされて使われていますが、特に耳につくところを挙げると
  ①宇宙のテーマ
  ②故郷のテーマ
  ③慕情のテーマ
  ④迫り来る危険のテーマ
  ⑤鉄郎のテーマ
  ⑥戦士のテーマ
  ⑦望郷のテーマ
というところですね。(適当に思い付くままに並べただけなので、各テーマのタイトル等に根拠はありません)

 ①は「序曲」全体に渡って様々なバリエーションで組み込まれていますし、「終曲」の祈りの音楽もこのテーマです。作品中ではよく、冒頭やラストのナレーション・バックに流れていた音楽なので、馴染みが深い曲だと思います。
 ②は古き良き時代の過去や、機械化人間が生身の体の頃を思い出すシーンによく用いられていました。「慕情」の冒頭部に使われています。
 ③は鉄郎の亡き母への慕情を奏でたテーマで、伊集加代子さんのスキャットを用いたものがしばしば使われていましたが、他にも様々なバリエーションで収録されています。「慕情」の中盤が基本的なところですが、「流浪」他でもところどころに入っていますね。
 この①~③はTVシリーズで頻繁に使われていた曲なので、TV版『銀河鉄道999』の音楽というと真っ先に思い浮かぶのはこのあたりです。派手さはなく、どちらかというと地味な曲が多いのですが、それがこの作品のファンタジックな雰囲気をうまく作り上げていたと思います。

 ④は999や鉄郎たちが危険に襲われる時にしばしばしば使われていた音楽で、あまり印象に残るメロディーでは無いのですが、アップテンポでアレンジされたスリリングなものは、それでもかなり印象的でした。「挑戦」に幾種類かバリエーション入っていますが、「冒険」や「終曲」の一部に使われているものもこのテーマのバリエーションの一種に入れても良いかと思います。
 ⑤は鉄郎が停車駅の惑星を歩き回るシーンでよく用いられていたテーマです。「出会い」に入っている少しアップテンポのものが基本型だと思いますが、「不思議な星」あたりでも様々なバリエーションの展開を見せています。
 ⑥は鉄郎が旅先で出会った孤高の戦士の心情や、西部劇調の街の酒場のシーンで、しばしば大人の戦士を表わすテーマとして用いられていた音楽で、「不思議な星」「出会い」あたりにバリエーションが入っていますが、やはり一番印象的なのは「出会い」に入っているアレグロ調のものでしょう。あまりアクション的な音楽が目立たない作品の中で、ひときわ目立っていた曲です。
 ⑦は「終曲」の冒頭部に入っているテーマですが、旅の合間でのしばしの安らぎの場面なんかに使われていた曲ですね。①~③などと似た傾向の音楽です。アルバム中では木琴で奏でているあたりがいい感じです。

 『組曲』のアルバムは、劇伴音楽にほとんど手を付けずにそのままつなぎ合わせているような感じなのですが、各曲を分離せず、繋ぎ目に余計な装飾音をオーバーラップして繋げたり、あるいは変に物語的にしようと冗長な構成になっていたりと、けっして満足できるものではありません。本来の『組曲』として劇伴を音楽的に昇華させているものでもなければ、サントラ盤としても音楽の収録方法に大いに不満が残る、そういう中途半端なアルバムでした。

 「序曲----出発」は①のテーマのバリエーションを集めて構成されてはいるのですが、劇伴の羅列ですからどうしても構成力が弱い。ベートーベンのピアノソナタ「月光」*2を途中に引用してようやくメリハリを付けている。そういう感じがします。
 対して「終曲----永遠の祈り」の方も、特に中盤がここまでに未収録の劇伴を割り込ませたと言うような感じで、全体の統一感がありません。
 これらはサントラ盤と割り切れば、そう目くじらを立てるほどでもないのですが、一番残念だったのが「出会い」なのですね。このトラックの構成はアルバム中でも最も理解に苦しむ内容になっています。ここでは素材となっている劇伴を殺してしまっているとしか思えません。変にコミカル調を意図した装飾音が原曲を覆い潰し、クライマックスとなるべき曲を中途半端に削って全体のバランス感を崩してしまっています。
 当時、完全なサントラ盤を期待してこのアルバムを買わなかったのも、このトラックの構成があまりにも許せなかったからなのですね。いくらなんでも、こんな状態で放置されるとは思いませんでしたから。

 音楽の担当は青木望*3。主題歌は「ハーロック」と同じく平尾昌晃氏ということで、主題歌のモチーフは劇伴の主要テーマとしては組み込まれず、単独のインストゥルメンタルが幾つかのバリエーションで使われていました。
 このアルバムでも「銀河鉄道999」「青い地球」が、それぞれ作品中に馴染みの深いアレンジで入っています。

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2.未収録BGM集と「想い出なみだ色」

 78年秋から81年春まで2年半も続いた長い番組でしたが、その放映終了後に4枚組のLP-BOX*4が発売され、その中の1面に未収録BGM*5が収録されていました。
 わずかな期待を持って買ったわけですが、そこに収録されていたのは『組曲』に全く用いられていない劇伴ばかりだったのです。劇中でも使用頻度のあまり多くない曲が大部分でしたから馴染みがあるものでもありませんでしたし、アルバムとしての構成力も何もあったものではありません。作品中で印象的だった「崩壊する惑星」*6「宇宙のララバイ」*7「たそがれの想い」*8などが入っていたのが救いでした。

 TV版というと忘れられないのが79~81話にかけての『時間城の海賊』3部作でしょう。オリジナルは劇場版の方の機械伯爵とリューズの絡みなのですが、当時並行して連載中だった原作の方でニセ・ハーロックとリューズの妹レリューズの絡みとしてフィードバックされ、そのままTVシリーズにも採用されたエピソードです。
 この3部作でレリューズの歌として使われたのが「想い出なみだ色」でした。歌はそのままレリューズ役も演じたかおりくみこ。劇場版のリューズと配役が同じなので何かと興味深いものですが、「想い出なみだ色」の方がどちらかというと、より心情に訴え掛けて来て良い曲だと思います。

 ラストでアルカディア号がヘビーメルダーを去っていくシーン、BGMに流れている曲が『組曲』に入っている⑥のテーマのアレグロ調なのですが、この曲の『組曲』での収録状態が酷いので、いつ聴いてもただただ残念に思うだけです。*9

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最後に

 この作品、基本的に当時の本放送以来あまり見ていないのですが*10、2年半も見続ければ頭の中に音楽が染み込んでしまっているのがよくわかります。
 『組曲』が中途半端だったし、たぶん未収録BGMも山ほどあると思われますので、是非ともちゃんとしたBGM集が欲しいものですが……*11

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(記事初出 ニフティサーブ・アニメフォーラムマガジン館 94.11.13)

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一時的に在庫切れとかあるみたいですが、廉価盤で聴けるのはありがたいです。
〈ANIMEX 1200シリーズ〉(2) 組曲 銀河鉄道999
〈ANIMEX 1200シリーズ〉(2) 組曲 銀河鉄道999
音質にこだわりたい方には。放送30周年記念CD-BOXの分売版の限定商品らしいです。
組曲 銀河鉄道999(紙ジャケット仕様)
組曲 銀河鉄道999(紙ジャケット仕様)
『EVER GREEN SERIES』のCDは廃盤状態みたいなので、『組曲』以外のBGMが聴ける現行商品はこれだけみたいです。
GALAXY EXPRESS 999 ETERNAL EDITION File NO.5&6 テレビアニメーション 銀河鉄道999
GALAXY EXPRESS 999 ETERNAL EDITION File NO.5&6 テレビアニメーション 銀河鉄道999

「想い出なみだ色」が入ってるのは次のあたり。
「銀河鉄道999」放送30周年記念作品 銀河鉄道999 ソングコレクション
「銀河鉄道999」放送30周年記念作品 銀河鉄道999 ソングコレクション
銀河鉄道999 SONGS&OTHERS
銀河鉄道999 SONGS&OTHERS
銀河鉄道999
銀河鉄道999

*1:組曲 銀河鉄道999』(CC-4585 90.02.01 ¥2,884)※CD

*2:第15話「水の国のベートーベン」の絡みで入れた曲だと思いますが、松本零士氏自身ベートーベンの音楽を非常に愛好しておられることは、しばしば音楽雑誌に作品を描かれていることからもわかります。

*3:アレンジャーとしては最近(※90年代半ば)でもしばしば名前を見掛けるのですが、手元に作品としてあるのは他には劇場版『銀河鉄道999』だけですので、どういう作品を手掛けられているのかは知りません。確か『北斗の拳』もそうだったと思いますが。
「終曲----永遠の祈り」などを聴くと、非常にジャズっぽいアレンジをされていますので、もともとそちらの方の人かなという気もしますが。

*4:『テレビ銀河鉄道999 総集編----想い出の名場面&BGM』(CW-7047~50 81.--.-- ¥6,000)

*5:現在は以下のCDにそのまま収録されています。
『EVER GREEN SERIES 銀河鉄道999 TV版』(COCC-10141 92.08.21 ¥2,500)
とはいえ、ここに収録されているのはほんの一部。

*6:各エピソードのラスト、崩壊する都市や惑星から間一髪999が脱出していくシーンにしばしば使われていた非常にスリリングな曲です。解説に使用話数が書いてあるけど、あてにならないという気が……(『ETRNAL EDITION』では「ワルキューレの空間騎行」のラストに収録されているM9)

*7:シリーズ後半でしばしば使われていた、悲しみを表わす曲です。特にメーテルの苦悩の場面に使われていました。(『ETRNAL EDITION』では「透明海のアルテミス」に収録されているM15)
これをさらに発展させたのが「メーテルの愛」(『ETRNAL EDITION』では「永遠の旅人エメラルダス」のラストに収録されているM7)ですね。

*8:これも悲しみの曲です。運命に逆らえず、どうにもやり切れない心情を表わすのに効果的に使われていました。(『ETRNAL EDITION』では「さすらい人の歌」の中盤に収録されているM18'と「たそがれの街」のラストに収録されてるM18)

*9:曲毎に単独したトラックじゃないとか、前後の曲がコミカル系なのでアクション系の曲を目当てに聴くのが辛いとかは仕方がないにしても、この曲の末尾のフェードアウト部分が次の曲と被せて収録されてるのはどうしても……。

*10:後になってもBSフジで全話再放送した時になんとか見たくらいかな。

*11:未収録BGMの方は後に『松本零士音楽大全』(GES-31170~79 00.05.28 ¥50,000)で初めて収録され、さらに『ETERNAL EDITION TVシリーズ銀河鉄道999 File No5&6』(COCX-31438~9 01.07.20 ¥3,800)で完全収録されるようになりました。
ただ、『ETERNAL EDITION』も劇場版の音楽は「交響詩」じゃない実際の劇伴曲を収録してるのに、このTV版だけ「組曲」収録曲は「組曲」のままというのがただただ残念。「組曲」のアルバムがとてもレアで入手しづらいとかいうなら話は別なんですが……