アニメ音楽年代記

サントラ盤を中心としたアニメ音楽の昔話

交響組曲 宇宙戦艦ヤマト

1.交響組曲 宇宙戦艦ヤマト

 音楽アルバムとして最初に発売されたヤマトのLPは、この『交響組曲 宇宙戦艦ヤマト*1でした。
 今でもアルバムのヒットした一部の作品でシンフォニック・バージョンが発売されることがありますが、いわばその草分けのような存在です。ただ違うところがあるとすればヤマトの場合、音楽集として出たのが当時、このアルバムだけだったということです。

 一口にシンフォニック・バージョンといっても、劇伴を単につなぎあわせてオーケストラで演奏したものから一部モチーフだけを使って完全なオリジナル曲として作り上げるものまで、アルバムによって様々です。この『交響組曲』は劇伴のモチーフをつなぎあわせたもの、独自にアレンジしているものが混在しています。
 あんまり細かいことを書きませんが、アルバムの曲構成と各曲の内容をチェックしておきましょう。

 A1.序曲
     ナレーションバックのスキャット曲を元にシンフォニー化。
  2.誕生
     ヤマトのテーマを含んだ劇伴をいくつかつなぎ、ヤマトの誕生から
     発進までを再構成したもの。
  3.サーシャ
     火星に墜落したサーシャの音楽をアレンジ。
  4.試練
     サスペンスを現す劇伴とヤマトのボレロ調の音楽をつないだもの。
  5.出発(たびだち)
     ヤマトが飛びたつシーンの劇伴をアレンジ。
  6.追憶
     ヤマトのテーマのアレンジ。
 B1.真赤なスカーフ
     エンディングテーマのアレンジ。
  2.決戦 ~挑戦=出撃=勝利~
     出撃、戦闘、凱旋を現す劇伴を幾つか並べてつないだもの。
  3.イスカンダル
     イスカンダルの音楽のアレンジ。
  4.回想
     沖田艦長の最後のシーンの劇伴をアレンジ。
  5.明日への希望 ~夢・ロマン・冒険心~
     序曲と同じスキャットから始まり、オリジナルの合唱が入る。
  6.スターシャ
     このアルバムのオリジナル曲。

 「序曲」「誕生」あたりが劇伴とは違うシンフォニーならではの厚みを感じさせてくれます。これに「明日への希望」を加えた3曲は、BGM集を聴けるようになった後でも全く色あせていません。むしろ、かえって価値がわかるようになったような感じです。純粋にシンフォニック・バージョンとして楽しめるわけですね。「イスカンダル」なども劇伴よりも優雅になっていて、やはり無視できない曲です。
 その他の音楽というと、完全オリジナルの「スターシャ」とオリジナルアレンジの「真赤なスカーフ」を除けば、どれも現在から考えるとアレンジが中途半端な感じが否めません。

 このアルバムの場合、単なるシンフォニック・バージョンとしてではなく、BGM集の代替としてリリースされた意味合いも強いと思うのですが、「サーシャ」「追憶」「回想」での楽器の変更は痛く、「出発」でのサブメロディーのカノンが原曲のイメージを壊してしまっていることは残念でした。
 しかし、当時はヤマトの音楽を聴こうと思うと他に選択の余地がありませんでしたから、劇伴との相違に何か違うなと感じながらも『交響組曲』の世界に浸っていたわけです。

 このアルバムの「序曲」のスキャット、「誕生」は『さらば宇宙戦艦ヤマト』以降の作品の劇伴に使われるようになりましたから、耳に馴染んでいる人も多いと思います。でも、さすがに「序曲」の後半部分や「明日への希望」のコーラス部分を劇伴に使うようなことは無いだろうと思っていましたが、意外にも共に『宇宙戦艦ヤマトⅢ』 で使われていましたね。

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2.20世紀の"白鳥の湖"

 これは『交響組曲 宇宙戦艦ヤマト』のLPの帯に記されていた文句ですが、ヤマトの音楽はしばしばチャイコフスキーの『白鳥の湖』に比せられることがあります。
 『白鳥の湖』と言えば、当時は「秘打・白鳥の湖*2の時代ですから主題のさわりぐらいは誰でも知っていたのではないかと思われますが、全曲を聴いたことのある人は案外いないのでは無いかと思われます。元々はバレエ音楽ということで、映画音楽に極めて近い構成になっていますので、是非とも聴いてみることをお薦めします。

 『交響組曲 宇宙戦艦ヤマト』が『白鳥の湖』と対比される場合、たいてい引き合いに出されるのが「序曲」と有名な白鳥の主題ということになります。ここで両者を比較することはしませんが、「20世紀の"白鳥の湖"」と言われるとそうかもしれないと思わせてくれるだけのものが「序曲」にあるのは確かでしょう。
 もっとも、他の曲までもがそうだとは当時も思えませんでしたが、とにかく「序曲」はヤマトの音楽をただの劇伴からそれ以上のものにしたと言えるくらいのインパクトを与えてくれました。

 もっとも『白鳥の湖』というのはヤマトを作ったプロデューサーの方が特に思い入れのある音楽らしく、後に『ヤマトよ永遠に』で『白鳥の湖』の一曲が使われたこともあります*3

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3.宮川泰の世界

 ヤマトの音楽を担当していた宮川泰氏は、元々は歌謡曲の世界で活躍されておられたらしく、特にザ・ピーナッツ*4の曲で多くのヒットを飛ばしています。もっとも現在では宮川氏の代表作は一番に「宇宙戦艦ヤマト」が挙げられるようになっているみたいですね。
 アニメ音楽では『ワンサくん』『グランプリの鷹』『宇宙空母ブルーノア』『チルチルミチルの冒険旅行』『オーディーン 光子帆船スターライト』等を手掛けられていますが、上記のうち『グランプリの鷹』以外はヤマトと同じプロデューサーの作品だというところに、何か腐れ縁のようなものを感じますね。

 宮川氏と言えば冗談音楽の第1人者として、以前『題名の無い音楽会』という番組にも出演されていましたが、78年当時にも服部克久氏とのジョイントコンサートのライブ盤が発売されていました。
 『宮川泰の世界 宇宙戦艦ヤマト*5と題打たれたこのライブ盤アルバムにはヤマトの曲こそ『交響組曲』から4曲が選曲されているだけですが、スタジオ録音でない演奏を聴くことも他では滅多にありませんし、何より宮川氏の色々な側面の音楽を聴くことが出来て、かなり後に中古で入手したアルバムに関わらず、新鮮な感動を受けたことを覚えています*6

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4.交響組曲の功罪

 このアルバムの功績というのはアニメ音楽の一ジャンルを日本のレコード界に築き上げたことでしょう。そして、アニメファン以外にも広く聞かれるような土壌を確立したとも言えます。
 それまではアニメ人気に合わせたファミリー向けの商品展開が中心だったと思われるアニメアルバムを、純粋に音楽を求める人向けに切り開くことが出来ました。

 ところが、何でも安直にシンフォニーを名乗るアニメ関連アルバムの先駆になってしまったことも否めません。さらにシンフォニー盤先行の結果、まともな劇伴を収録したアルバムが出されることの無かった作品も出て来ました。
 ヤマトの場合のように、ある程度は劇伴をなぞって、さらに高度な音楽に作り上げている場合は良いのですが、安直にシンフォニー化された中にはそうでないものもありますからね。

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(記事初出 ニフティサーブ・アニメフォーラムマガジン館 94.10.23)

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YAMATO SOUND ALMANAC 1977-I「交響組曲 宇宙戦艦ヤマト」
YAMATO SOUND ALMANAC 1977-I「交響組曲 宇宙戦艦ヤマト」
YAMATO SOUND ALMANAC 1978-I「宮川泰の世界~宇宙戦艦ヤマト」
YAMATO SOUND ALMANAC 1978-I「宮川泰の世界~宇宙戦艦ヤマト」
吹奏楽版の『組曲宇宙戦艦ヤマト」』が入ったアルバム
「宇宙戦艦ヤマト2199」ヤマト音楽団大式典2012
「宇宙戦艦ヤマト2199」ヤマト音楽団大式典2012
ライブ盤じゃないスタジオ録音なら
THE HIT PARADE Hiroshi Miyagawa
THE HIT PARADE Hiroshi Miyagawa
 この『組曲』、吹奏楽版はいくつかCDで聴けるのですが、元のオーケストラ版のCDが出てないという……。レコーディングされてない普通のコンサートで演奏されることが多かったからかとは思いますが……

 

*1:『交響組曲 宇宙戦艦ヤマト』(CQ-7001 77.12.25 ¥2,300)
 後に何度かCD化されていますが、現在は『YAMATO SOUND ALMANAC』の一枚として出てるものが入手しやすいでしょう。

*2:水島新司ドカベン』で明訓四天王の一人・殿馬が編み出した特殊な打法です。アニメ版ではちゃんと「白鳥の湖」をBGMに使っていました。他にもクラシック音楽を使った秘打、秘走、秘守、秘投などが多くありますが、何故か執筆当時それらのクラシック音楽を集めたCDが東芝EMIから発売されていました。

*3:敵の母星がカムフラージュのために作った200年後の地球で、上陸した古代たちが聖総統の宮殿で「第3幕ワルツ」を聴かされました。この曲はいわゆるセレクト盤に入ることはなく、全曲集を買わないと聴けないのですね。

*4:キャンデーズやピンクレディの遥か以前にアイドルをやっていたらしい双子の姉妹。……というより『モスラ』の小美人と言った方がわかりやすいかも知れない。『三大怪獣 地球最大の決戦』で小美人が歌っていた「幸せを呼ぼう」も宮川氏の作曲でした。

*5:宮川泰の世界~宇宙戦艦ヤマト』(CQ-7006 78.--.-- ¥2,300)
 長らくCD化されていなかったアルバムですが、『YAMATO SOUND ALMANAC』の一枚として復刻されています。

*6:その後、晩年の宮川氏は新たに編曲した(交響の付かない)『組曲宇宙戦艦ヤマト」』をオーケストラ・コンサートで多く演奏されていました。これは息子の宮川彬良氏によって吹奏楽版が作られ、Osaka Shion Wind Orchestra等で演奏が続けられています。また、2009年には彬良氏の手によって『交響組曲』のA面再現演奏のコンサートがありました。