アニメ音楽年代記

サントラ盤を中心としたアニメ音楽の昔話

語られるゲーム音楽と語られないアニメ音楽

(これは10年ぐらい前に一度、この連載を掲載しようとした時の序文です。昨今、一部の人気作品でオーケストラコンサートが開かれたりして劇伴音楽自体にもスポットが当てられてきていますが、アニメ音楽全体から見れば基本的な状況は変わってないように思うので、ここに掲載しておきます) 

 

 昔の連載では最初に自分とアニメ音楽との来歴について書いていたのですが、そういう個人的な話は書いても面白くないだろうから、その代わりに日ごろから常々、疑問なり不満として感じてる点を問題提示として取り上げてみましょう。

 さて、この連載の主題はアニメ音楽に関することです。アニメ音楽といってもいわゆる主題歌等のアニメソングを含めた広義のアニメ音楽ではなく、主に劇伴音楽を指す狭義のアニメ音楽です。
 いまや日本のアニメはオタク文化の広がりとともにメジャーな存在となってきましたが、そのアニメにとっては昔から絶えず不可欠な要素でありながら、ほとんど語られて来なかったのがアニメ音楽ではないでしょうか。
 確かに菅野よう子川井憲次の音楽が注目を浴びたり、時々断片的に取り上げられることはありますが、継続的に音楽の動向が分析されたり、ビッグネーム以外の作曲家に陽が当ったりすることは皆無といって良いでしょう。
 逆にアニメソングの方は飽きるくらいに語られています。アニメ音楽専門誌と名乗って発行された雑誌なりムック本が実際はアニメソング専門誌だったというのは、珍しくもありません(というか、ほとんど全部) 中にはアニメソングには劇伴も含まれるとしたり顔で語る人もいますが、それに与することはできません。

 ところで、アニメの近縁ジャンルであるゲームの世界では、ゲーム音楽というのは確実にひとつのジャンルとして確立されています。アニメ音楽と違ってゲーム音楽は語られる存在として認められているのです。
 この違いは何なのでしょうか? メディア的な違いからゲームはアニメほど語るジャンルの数が少ないから音楽にも注目されているのでしょうか? あるいはあまりにコア過ぎる趣味だからかえって尖鋭化して目立ってるだけなのでしょうか?
 そうではないと思います。

 ゲームの世界ではアニメソングのような「ゲームソング」というべきジャンルは確立されていません。ゲームソングは今はまだゲーム音楽の一部としか認識されていないのでしょう。そもそもアニメソングは『鉄腕アトム』の時代から存在してアニメとともに発達してしましたが、ゲームソングが出て来たのはゲームハードがCD-ROMなりPCM音源を備えてサンプリング音源を再生できるようになってからのことで、まだ歴史は古くはありません。それまでは音楽はあっても歌は無かったのです。(観賞用のイメージソングとかならそれ以前にもあったでしょうが)

 アニメの場合はその初期の頃からアニメソングという語られ易いアイテムがあったのに比べて、ゲームには長らくそういうものは存在しなかったのです。したがってゲームの音楽を語るとなると必然的にBGMの話にしかならないので、それがそのままジャンルとして定着したのでしょう。
 逆にアニメの方はなまじアニメソングという語られ易いアイテムがあったがために劇伴の方は放置されてしまい、一定のコアなマニアはいるものの、広く語られる対象のジャンルとしては確立されることが無かったのでしょう。

 確かにアニメの劇伴を語ることはアニメソングを語るよりも相当に難易度が高いでしょう。歌詞と歌手のことに触れればそれなりに様になるアニメソングと違って、劇伴にはそんな「見える要素」は存在しません。内容に触れるには音楽の素養が必要ですし、文字で書いて理解させるのも困難でしょう。でも、だからこそ語られる意味はあると思うのですが。ま、日本の場合はテレビの映画音楽番組等で取り上げられる邦画の音楽も歌物ばかりという傾向もありますから、ゲームの世界の方が異質なのかもしれませんが。
(もっとも、邦画の映画音楽が歌物ばかりなのは歌物以外のスコアが残ってないとか、歌手で視聴率を稼ぐ目的とか、いろんな事情があるとは思います)

 ま、ゲーム音楽とアニメ音楽の大きな違いといえば、ゲーム音楽はステージなりシチュエーション単位で流しっぱなしのものが多く、プレイヤーは何度でも繰り返し聴けるのに対し、アニメの音楽はシーンごとにきっちり使い分けられていて、視聴者との出会いは一期一会ということですね。アニメもパッケージソフトで繰り返し見てると話は別ですけど、ゲームの方が音楽の印象を与えやすいのも確かです。アニメの方も変身シーンとかで何度も使われる音楽もあって、そういう馴染みのある音楽は語り易いでしょうけど。