アニメ音楽年代記

サントラ盤を中心としたアニメ音楽の昔話

銀河鉄道999(TVシリーズ)

1.組曲 銀河鉄道999

 今回はTV版『銀河鉄道999』の音楽を取り上げてみましょう。松本零士氏の代表作といえば『ヤマト』や『ハーロック』よりも、まず『999』が挙げられることと思われますが、TVシリーズはほぼ原作に沿った展開で、文字通り松本零士氏の漫画の世界をアニメ化したものだと言えます。その点、ハーロックやエメラルダスというキャラクターを擁していても、劇場版の方はかなり傾向の異なる作品でしょう。

 この作品の音楽アルバムとして発売されたのが『組曲 銀河鉄道999*1ですが、ヤマトやハーロックのように“交響組曲”ではなく“組曲”だけというのが気になるところです。これは作品や音楽の傾向から言って、壮大なシンフォニー曲というよりも、むしろ叙情的な音楽世界を考えてのことだと思われます。
 このアルバム、当時、友人の家で聴かせてもらったことがあるのですが、どうしても許せない箇所があったので、完全なサントラ盤を望みつつ、当時は購入しませんでした。ところが、待てども待てども完全なサントラ盤は出ず、変なこだわりを棄ててレコードを買おうとした頃には店頭で見掛けず、そんなわけで数年前にCD化された時に入手した類です。

 1.序曲----出発
   ●きらめく銀河~アンドロメダへ●
     宇宙の夢とロマン、旅立ちの希望、旅の安らぎ等を奏でる音楽。
 2.慕情
   ●母の面影~青い地球●
     失われた古き良き時代や、母に対する想いを奏でる音楽。
 3.挑戦
   ●襲撃~怒り~苦悩●
     999や鉄郎たちに襲いかかる危険を表わすスリルとサスペンス感を
    奏でる音楽。
 4.不思議な星
   ●未知への誘い●
     旅の途中で立ち寄る様々な星をファンタジックに奏でる音楽。
 5.流浪
   ●悲しみの旅路●
     限りある命の生身の人間の悲哀、永遠の命を持つ機械人間の虚しさ。
    様々な悲しみを知りながら続ける旅を奏でる音楽。
 6.冒険
   ●孤独~追跡●
     旅の孤独と、冒険のアクションを奏でる音楽。
 7.出会い
   ●宇宙の盗賊たち●
     停車駅の惑星を好奇心を持って見てまわる鉄郎の姿、邪悪な敵に立ち
     向かうクライマックスを奏でる音楽。
 8.終曲----永遠の祈り
   ●望郷~目覚め~祈り●
     懐かしい過去の想い出、迫り来る現実の危機、そして旅先に待ち受け
    る未来への祈りをこめた想いを奏でる音楽。

 この作品の音楽も幾つかの主要なテーマが様々にアレンジされて使われていますが、特に耳につくところを挙げると
  ①宇宙のテーマ
  ②故郷のテーマ
  ③慕情のテーマ
  ④迫り来る危険のテーマ
  ⑤鉄郎のテーマ
  ⑥戦士のテーマ
  ⑦望郷のテーマ
というところですね。(適当に思い付くままに並べただけなので、各テーマのタイトル等に根拠はありません)

 ①は「序曲」全体に渡って様々なバリエーションで組み込まれていますし、「終曲」の祈りの音楽もこのテーマです。作品中ではよく、冒頭やラストのナレーション・バックに流れていた音楽なので、馴染みが深い曲だと思います。
 ②は古き良き時代の過去や、機械化人間が生身の体の頃を思い出すシーンによく用いられていました。「慕情」の冒頭部に使われています。
 ③は鉄郎の亡き母への慕情を奏でたテーマで、伊集加代子さんのスキャットを用いたものがしばしば使われていましたが、他にも様々なバリエーションで収録されています。「慕情」の中盤が基本的なところですが、「流浪」他でもところどころに入っていますね。
 この①~③はTVシリーズで頻繁に使われていた曲なので、TV版『銀河鉄道999』の音楽というと真っ先に思い浮かぶのはこのあたりです。派手さはなく、どちらかというと地味な曲が多いのですが、それがこの作品のファンタジックな雰囲気をうまく作り上げていたと思います。

 ④は999や鉄郎たちが危険に襲われる時にしばしばしば使われていた音楽で、あまり印象に残るメロディーでは無いのですが、アップテンポでアレンジされたスリリングなものは、それでもかなり印象的でした。「挑戦」に幾種類かバリエーション入っていますが、「冒険」や「終曲」の一部に使われているものもこのテーマのバリエーションの一種に入れても良いかと思います。
 ⑤は鉄郎が停車駅の惑星を歩き回るシーンでよく用いられていたテーマです。「出会い」に入っている少しアップテンポのものが基本型だと思いますが、「不思議な星」あたりでも様々なバリエーションの展開を見せています。
 ⑥は鉄郎が旅先で出会った孤高の戦士の心情や、西部劇調の街の酒場のシーンで、しばしば大人の戦士を表わすテーマとして用いられていた音楽で、「不思議な星」「出会い」あたりにバリエーションが入っていますが、やはり一番印象的なのは「出会い」に入っているアレグロ調のものでしょう。あまりアクション的な音楽が目立たない作品の中で、ひときわ目立っていた曲です。
 ⑦は「終曲」の冒頭部に入っているテーマですが、旅の合間でのしばしの安らぎの場面なんかに使われていた曲ですね。①~③などと似た傾向の音楽です。アルバム中では木琴で奏でているあたりがいい感じです。

 『組曲』のアルバムは、劇伴音楽にほとんど手を付けずにそのままつなぎ合わせているような感じなのですが、各曲を分離せず、繋ぎ目に余計な装飾音をオーバーラップして繋げたり、あるいは変に物語的にしようと冗長な構成になっていたりと、けっして満足できるものではありません。本来の『組曲』として劇伴を音楽的に昇華させているものでもなければ、サントラ盤としても音楽の収録方法に大いに不満が残る、そういう中途半端なアルバムでした。

 「序曲----出発」は①のテーマのバリエーションを集めて構成されてはいるのですが、劇伴の羅列ですからどうしても構成力が弱い。ベートーベンのピアノソナタ「月光」*2を途中に引用してようやくメリハリを付けている。そういう感じがします。
 対して「終曲----永遠の祈り」の方も、特に中盤がここまでに未収録の劇伴を割り込ませたと言うような感じで、全体の統一感がありません。
 これらはサントラ盤と割り切れば、そう目くじらを立てるほどでもないのですが、一番残念だったのが「出会い」なのですね。このトラックの構成はアルバム中でも最も理解に苦しむ内容になっています。ここでは素材となっている劇伴を殺してしまっているとしか思えません。変にコミカル調を意図した装飾音が原曲を覆い潰し、クライマックスとなるべき曲を中途半端に削って全体のバランス感を崩してしまっています。
 当時、完全なサントラ盤を期待してこのアルバムを買わなかったのも、このトラックの構成があまりにも許せなかったからなのですね。いくらなんでも、こんな状態で放置されるとは思いませんでしたから。

 音楽の担当は青木望*3。主題歌は「ハーロック」と同じく平尾昌晃氏ということで、主題歌のモチーフは劇伴の主要テーマとしては組み込まれず、単独のインストゥルメンタルが幾つかのバリエーションで使われていました。
 このアルバムでも「銀河鉄道999」「青い地球」が、それぞれ作品中に馴染みの深いアレンジで入っています。

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2.未収録BGM集と「想い出なみだ色」

 78年秋から81年春まで2年半も続いた長い番組でしたが、その放映終了後に4枚組のLP-BOX*4が発売され、その中の1面に未収録BGM*5が収録されていました。
 わずかな期待を持って買ったわけですが、そこに収録されていたのは『組曲』に全く用いられていない劇伴ばかりだったのです。劇中でも使用頻度のあまり多くない曲が大部分でしたから馴染みがあるものでもありませんでしたし、アルバムとしての構成力も何もあったものではありません。作品中で印象的だった「崩壊する惑星」*6「宇宙のララバイ」*7「たそがれの想い」*8などが入っていたのが救いでした。

 TV版というと忘れられないのが79~81話にかけての『時間城の海賊』3部作でしょう。オリジナルは劇場版の方の機械伯爵とリューズの絡みなのですが、当時並行して連載中だった原作の方でニセ・ハーロックとリューズの妹レリューズの絡みとしてフィードバックされ、そのままTVシリーズにも採用されたエピソードです。
 この3部作でレリューズの歌として使われたのが「想い出なみだ色」でした。歌はそのままレリューズ役も演じたかおりくみこ。劇場版のリューズと配役が同じなので何かと興味深いものですが、「想い出なみだ色」の方がどちらかというと、より心情に訴え掛けて来て良い曲だと思います。

 ラストでアルカディア号がヘビーメルダーを去っていくシーン、BGMに流れている曲が『組曲』に入っている⑥のテーマのアレグロ調なのですが、この曲の『組曲』での収録状態が酷いので、いつ聴いてもただただ残念に思うだけです。*9

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最後に

 この作品、基本的に当時の本放送以来あまり見ていないのですが*10、2年半も見続ければ頭の中に音楽が染み込んでしまっているのがよくわかります。
 『組曲』が中途半端だったし、たぶん未収録BGMも山ほどあると思われますので、是非ともちゃんとしたBGM集が欲しいものですが……*11

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(記事初出 ニフティサーブ・アニメフォーラムマガジン館 94.11.13)

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一時的に在庫切れとかあるみたいですが、廉価盤で聴けるのはありがたいです。
〈ANIMEX 1200シリーズ〉(2) 組曲 銀河鉄道999
〈ANIMEX 1200シリーズ〉(2) 組曲 銀河鉄道999
音質にこだわりたい方には。放送30周年記念CD-BOXの分売版の限定商品らしいです。
組曲 銀河鉄道999(紙ジャケット仕様)
組曲 銀河鉄道999(紙ジャケット仕様)
『EVER GREEN SERIES』のCDは廃盤状態みたいなので、『組曲』以外のBGMが聴ける現行商品はこれだけみたいです。
GALAXY EXPRESS 999 ETERNAL EDITION File NO.5&6 テレビアニメーション 銀河鉄道999
GALAXY EXPRESS 999 ETERNAL EDITION File NO.5&6 テレビアニメーション 銀河鉄道999

「想い出なみだ色」が入ってるのは次のあたり。
「銀河鉄道999」放送30周年記念作品 銀河鉄道999 ソングコレクション
「銀河鉄道999」放送30周年記念作品 銀河鉄道999 ソングコレクション
銀河鉄道999 SONGS&OTHERS
銀河鉄道999 SONGS&OTHERS
銀河鉄道999
銀河鉄道999

*1:組曲 銀河鉄道999』(CC-4585 90.02.01 ¥2,884)※CD

*2:第15話「水の国のベートーベン」の絡みで入れた曲だと思いますが、松本零士氏自身ベートーベンの音楽を非常に愛好しておられることは、しばしば音楽雑誌に作品を描かれていることからもわかります。

*3:アレンジャーとしては最近(※90年代半ば)でもしばしば名前を見掛けるのですが、手元に作品としてあるのは他には劇場版『銀河鉄道999』だけですので、どういう作品を手掛けられているのかは知りません。確か『北斗の拳』もそうだったと思いますが。
「終曲----永遠の祈り」などを聴くと、非常にジャズっぽいアレンジをされていますので、もともとそちらの方の人かなという気もしますが。

*4:『テレビ銀河鉄道999 総集編----想い出の名場面&BGM』(CW-7047~50 81.--.-- ¥6,000)

*5:現在は以下のCDにそのまま収録されています。
『EVER GREEN SERIES 銀河鉄道999 TV版』(COCC-10141 92.08.21 ¥2,500)
とはいえ、ここに収録されているのはほんの一部。

*6:各エピソードのラスト、崩壊する都市や惑星から間一髪999が脱出していくシーンにしばしば使われていた非常にスリリングな曲です。解説に使用話数が書いてあるけど、あてにならないという気が……(『ETRNAL EDITION』では「ワルキューレの空間騎行」のラストに収録されているM9)

*7:シリーズ後半でしばしば使われていた、悲しみを表わす曲です。特にメーテルの苦悩の場面に使われていました。(『ETRNAL EDITION』では「透明海のアルテミス」に収録されているM15)
これをさらに発展させたのが「メーテルの愛」(『ETRNAL EDITION』では「永遠の旅人エメラルダス」のラストに収録されているM7)ですね。

*8:これも悲しみの曲です。運命に逆らえず、どうにもやり切れない心情を表わすのに効果的に使われていました。(『ETRNAL EDITION』では「さすらい人の歌」の中盤に収録されているM18'と「たそがれの街」のラストに収録されてるM18)

*9:曲毎に単独したトラックじゃないとか、前後の曲がコミカル系なのでアクション系の曲を目当てに聴くのが辛いとかは仕方がないにしても、この曲の末尾のフェードアウト部分が次の曲と被せて収録されてるのはどうしても……。

*10:後になってもBSフジで全話再放送した時になんとか見たくらいかな。

*11:未収録BGMの方は後に『松本零士音楽大全』(GES-31170~79 00.05.28 ¥50,000)で初めて収録され、さらに『ETERNAL EDITION TVシリーズ銀河鉄道999 File No5&6』(COCX-31438~9 01.07.20 ¥3,800)で完全収録されるようになりました。
ただ、『ETERNAL EDITION』も劇場版の音楽は「交響詩」じゃない実際の劇伴曲を収録してるのに、このTV版だけ「組曲」収録曲は「組曲」のままというのがただただ残念。「組曲」のアルバムがとてもレアで入手しづらいとかいうなら話は別なんですが……

宇宙海賊キャプテンハーロック

1.交響組曲 宇宙海賊キャプテンハーロック

 キャプテンハーロックというキャラクターは松本零士氏がいろいろな作品の中で様々に描いて来たもので、松本キャラの筆頭に挙げられるものでしょう。ただ黙して立っているだけで圧倒的な存在感を持つ、アニメ史上でも最も特異なキャラクターとして燦然と輝く存在といえます。
 そのハーロックが初めてフィルムに登場したのがこの『宇宙海賊キャプテンハーロック』でした。*1
 ・・・などと書いていますが、実はこの作品を当時は見ていなかったのです。再放送時にとびとびに少し見ていた程度で、もちろんサントラ盤を聴いたりはしていません。近年になって中古レコード店でCDを見つけて聴き出したと言うのが正直のところです。

 当時出ていたサントラ盤はヤマトの例に倣って交響組曲*2という形でしたが、楽曲の構成やオーケストレーションの面ではかなり本格的に作られている感じです。

  1.序曲 ~果てしない宇宙の海~
     メインテーマと宇宙の広がりを表わす導入部。
  2.海賊船 ~戦闘への船出~
     アルカディア号のテーマ。
  3.愛 ~愛、そして平和への祈り~
     愛のテーマ。
  4.惑星 ~全能なるマゾーンと女王ラフレシア
     マゾーンのテーマ。
  5.楽園 ~41人の海賊と猫と鳥と~
     アルカディア号艦内のやすらぎの音楽。
  6.戦闘 ~戦うハーロックアルカディア号~
     侵略と戦闘の音楽。
  7.寂光流離(さすらい) ~悲しみ、怒り、そして旅立ち~
     ハーロックの心情。
  8.終曲 ~歓びの讃歌~
     勝利の讃歌。

 全体を通して幾つかのテーマを共通モチーフとして使っていて、各楽曲ではそれらと個別のテーマとの組み合わせにより音楽が作られています。ライナーノーツでは
  ① 宇宙の海のテーマ
  ② マゾーン・悪のテーマ
  ③ 海賊船アルカディア号のテーマ
  ④ 愛と友情のテーマ
  ⑤ 勝利の歓びのテーマ
の5つが挙げられていますが、よく耳につくところでは、①~③が多用されているようです。特に①はこのアルバムのメインテーマとしてしばしば用いられています。
 この『キャプテンハーロック』の劇伴の作曲者は横山菁児*3で、一方、主題歌の作曲者が平尾昌晃氏*4ということで、主題歌のモチーフはあまり多用されていませんが、それでも1コーラス用いている箇所や、要所で効果的に使われていて印象的です。

 「序曲」は①のテーマが最初と最後に現われていて作品の導入曲として作られているようです。シンフォニーならでの雄大な①のテーマがくり返し奏でられることによって、この作品の音楽世界に引き込まれることになります。ただ、間に挟まれている幾つかのテーマが極めて印象薄く、また楽曲全体としての統一感に欠けるため、この「序曲」のイメージよりも①のテーマのイメージの方が遥かに上回ってしまっているのです。
 これは『ヤマト』のように既製の劇伴のイメージから新たにアレンジした曲ではなく、劇伴製作と並行して作られている状況からはしかたのないことなのでしょうけど、当時の《サントラ盤==シンフォニー盤》という形で出されたアルバムに共通する欠点と言えます。

 「海賊船」は③のテーマが主体となった曲ですが、冒頭部のところは、アルカディア号の登場のイメージを表わした感じとしては、なかなか颯爽とした展開*5で聴かせてくれます。この感覚は後の劇場版『銀河鉄道999』の青木望氏の音楽や『わが青春のアルカディア』の木森敏之氏の音楽にも引き継がれているようで、どの作品の音楽を聴いてもすぐにアルカディア号をイメージできますね。その冒頭部に続く③のテーマは、このアルバムでは一番軽快なテーマなのですが、間に挟んだ主題歌のテーマが幾分重厚で、楽曲全体に重みを添えています。

 「惑星」は②のテーマのオンパレードですね。様々な形にアレンジされた②のテーマが楽曲全体に展開されています。マゾーンの恐怖、強大さ、悲壮感などを巧みに展開していて、このアルバムの中でも一番重厚な楽曲に仕上がっていますね。もっとも、一番最後に出撃シーンの音楽が入っていることで、この曲が持つテーマ性が若干弱められてしまっているような感じもします。

 「戦闘」の前半部は②のテーマを組み込んでマゾーンの圧倒的な侵略の様子を奏でていますが、後半部は①~③のテーマを組み合わせ、畳み掛けるようなハーロックの戦いぶりの音楽に仕上がっています。この辺りは、やはり『わが青春のアルカディア』の木森氏の音楽に共通するものが感じられますが、後の作品を担当する人は前任者の仕事を意識しているのでしょうか。

 全体的には非常にバランスのとれたアルバムですので、『宇宙海賊キャプテンハーロック』という作品の看板を外しても、これ単独で楽しむことができるアルバムになっています。機会があれば一聴を薦めますね。

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2.宇宙海賊キャプテンハーロック BGM集

 後にコロムビアで旧作TVアニメのBGM集がいろいろと出されるようになりましたが、この作品のBGM集*6もその時期に発売されています。
 ただし、もともと『交響組曲』自体が劇伴素材として録音されていたためか、新たに製作されたBGM集に収録された音楽は主題歌、挿入歌およびそれらのインストゥルメンタル曲、それに未収録BGM集と言う感じでしかありません。『交響組曲』未収録のブリッジ、予告編音楽等のルーチン的なもの以外は馴染みの薄い音楽が多く、『キャプテンハーロック』の音楽世界を表わしたものとは必ずしも言えないところが難点でしょう。
 作品中で印象深く使われていたオカリナの「まゆの子守唄」が『交響組曲』に入らず、このBGM集でしか聴けないとかいうことはありますが、BGM集ゆえの散漫な構成に加え、馴染みの薄い曲が多いと言うのは致命的な欠点であり、コレクター以外には聞きづらいアルバムであることは否めません。

 TVアニメのBGMに大編成のシンフォニーを使ったものは『ヤマト』以降でも、そう無いと思われますが、そのことを考えると『キャプテンハーロック』という作品はアニメ音楽史上でも特筆すべき作品なのかもしれません。
 ただし、当時は一部の作品を除いてアニメのステレオ放送などされていない時代ですし、通常の劇伴と比べてどれだけの効果があったかは不明です。それよりも画面が音楽に負けてしまっていたのではという心配もあるのですが、こればかりは実際に作品を見てみないと何とも言えませんね。

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(記事初出 ニフティサーブ・アニメフォーラムマガジン館 94.11.03)

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『交響組曲』と『BGM集』は廉価盤が現行商品として出ているので入手は容易です。
〈ANIMEX 1200シリーズ〉(3) 交響組曲 宇宙海賊キャプテンハーロック
〈ANIMEX 1200シリーズ〉(3) 交響組曲 宇宙海賊キャプテンハーロック
〈ANIMEX 1200シリーズ〉(17) テレビオリジナルBGMコレクション 宇宙海賊キャプテンハーロック
〈ANIMEX 1200シリーズ〉(17) テレビオリジナルBGMコレクション 宇宙海賊キャプテンハーロック
宇宙戦艦ヤマト』のシリーズとは違って、ハーロックの『ETERNAL EDITION』は再発売等はされていないようなので、中古市場で高騰化してしまってるのは残念です。
宇宙海賊キャプテンハーロック ETERNAL EDITION 1&2
宇宙海賊キャプテンハーロック ETERNAL EDITION 1&2

*1:それ以前、『宇宙戦艦ヤマト』の39話分の初期プロットで後半部にハーロックの登場が設定されていましたが、26話打ち切りになって実現しなかったというのは有名な話ですね。

*2:『交響組曲 宇宙海賊キャプテンハーロック』(32C35-7662 85.12.21 ¥3,200)※CD

*3:不勉強ながら『宇宙海賊キャプテンハーロック』以外はよく知りませんが、後に『聖闘士星矢』の音楽を担当されていますね。元記事を書いた時に『マーチ組曲 恐竜戦隊コセイドン』とか『ジャズ組曲 炎の超人メガロマン』『闇の帝王吸血鬼ドラキュラ』『交響組曲 超人機メタルダー』等のお薦めを頂いたのですが、『闇の帝王吸血鬼ドラキュラ』以外は後にCDで再発売されていますが、今となっては中古を探すしか……。特撮系の作品が多い人みたいです。

*4:謡曲のヒットメーカーで、アニメソングも多くのものを担当されていますね。『銀河鉄道999』、『宇宙空母ブルーノア』等々。女優の畑中葉子さんとのデュエットで「カナダからの手紙」なども歌ってらっしゃいましたし。

*5:最初、どこかで似たような感じの曲を聴いたことがあるなと思ったら『ゴジラVSビオランテ』の「スーパーX2」の冒頭部と雰囲気が似ていました。このアルバムにはあと1ヵ所、「ビオランテ」と似ている箇所もありましたし……はて?

*6:『テレビ・オリジナル・BGM・コレクション 宇宙海賊キャプテンハーロック』(28CC-2294 88.05.21 ¥2,800)※CD
 これに未収録のBGMは後に『松本零士音楽大全』(GES-31170~79 00.05.28 ¥50,000)や『宇宙海賊キャプテンハーロック ETERNAL EDITION FILE No.1&2』(COCX-31697~8 01.11.21 ¥3,800)で商品化されています。

さらば宇宙戦艦ヤマト 愛の戦士たち

1.さらば宇宙戦艦ヤマト 愛の戦士たち

 再放送、劇場版公開と、空前のヤマトブームの中で製作された完全新作の第2作目です。当時は日本中が異様に熱気に満ちていて、何とも言い表せられないような勢いにあふれていた作品でした。この作品に対して当時抱いた感想というのは*1、やはりリアルタイムでこの作品を見た時にしか得られないものだと思いますので、あえてビデオ等での鑑賞は勧めませんが……

 この映画公開に合わせて映画音楽集と題打ったサントラ盤*2も発売されました。発売直後にリアルタイムで聴いたアルバムというのはこれが最初でした。実のところ、映画を見た帰りに『交響組曲 宇宙戦艦ヤマト』のLPと一緒に買って来たような記憶があります。
 『交響組曲』自身はシングルカット盤をそれ以前に所持していて「序曲」等には聴き馴染んでいましたので、まだサントラ盤とシンフォニー・バージョンの区別が付いていなかったこともあり、この映画音楽集にも同様のクオリティを期待してもいたように思います。

 A1.序曲
     劇中に使われている数々のモチーフを組み合わせてオーケストレー
     ションしたもの。
  2.白色彗星
     彗星のテーマを奏でるパイプオルガンの音楽。
  3.アンドロメダ
     新造戦艦アンドロメダの軽快なテーマ。
  4.英雄の丘
     沖田艦長の像の立つ英雄の丘に乗組員が集うシーンの軍歌調の音楽。
  5.テレサよ永遠に
     イメージソングのインストゥルメンタル
  6.想人(おもいで)
     ラストで古代が沖田の遺影に語り掛けるシーンの音楽。
 B1.デスラー 襲撃
     デスラー総統の戦闘テーマ。
  2.デスラー 孤独
     デスラー総統の心情を表わす音楽。
  3.デスラー 好敵手
     イメージソングのインストゥルメンタル
  4.都市帝国
     オーケストラによる彗星帝国艦隊のテーマ音楽。
  5.大いなる愛
     二つの主題からなる愛のテーマ。
  6.ヤマトより愛をこめて
     テーマソングのインストゥルメンタル

 「序曲」は『交響組曲』のものとは違ってモチーフの羅列みたいな感じで、なんかまとまりが無く、音楽的には統一感が感じられませんでした。タイトルからどうしても『交響組曲』と比較してしまうのですが、こちらは完成された音楽というよりも『さらば宇宙戦艦ヤマト』の音楽世界の紹介と言う感じでアルバムの導入部に置かれているのでしょう。
 個々のモチーフに関しては個別のトラックよりも大胆なアレンジが施されていて、第1作のヤマトのモチーフがつなぎとなり、一種独特の雰囲気を出してはいるのですが、所詮はただの導入曲にしかなっていないのが残念でした。

 「テレサよ永遠に」「好敵手」「ヤマトより愛をこめて」がテーマソング等のインストゥルメンタル・バージョンということで、純粋な劇伴音楽(をベースにした曲)は全8曲ということになりますが、「白色彗星」以外は程度の差はあれ、実際のBGMとは異なったアレンジになっています。
 作品のBGMとレコード発売用の音楽を別個に録音しているのです。たいていの作品だと経費上の問題からBGMそのものをレコード化を前提にして録音し、それをそのまま発売していますし、近年の宮崎アニメの場合なんかだとBGMを収録したサントラ盤に加えてイメージアルバムとかシンフォニーバージョンが発売されていますが、それに比べると当時のヤマトの音楽は作りが贅沢だったのかも知れません。

 アレンジが違うといっても、現在のように手軽にLD等で聴き比べられる環境だから余計に目立ってしまう感じで、当時はあまり細かいところにはこだわっていませんでしたね。だから、確実な違和感を覚えたのは「大いなる愛」だけでした。
 サントラ盤の「大いなる愛」は二つの主題を組み合わせた二部形式*3の構成になっています。一般にサントラ盤では二つの主題が組み合わせられても、たいていは単純な一部形式で、それぞれの主題は独立した存在として認識できるのですが、この曲は二つの主題が合わさってはじめて一曲のようになってしまっているため、実際に劇伴で感じたイメージを再現できないのです。
 ちなみに二つの主題というのは、一つが森雪の密航発覚シーンで使われていた音楽、もう一つがラストシーンで用いられている“愛のメロディー”。前者は後に発売された「ヤマト2」のBGM集*4にも単独曲としては収録されていません*5し、どういうわけでこの組み合わせができたのかは謎です。

 このアルバムの収録曲を眺めていて感じるのは、意外にデスラー総統の音楽が中心に置かれているということですね。それに引き換え、テレサ関係の劇伴が一曲も入っていません。このサントラ盤の構成や解説書を読めば「想人」がテレサ関係のテーマ曲として収録されているようですが、実際に劇伴で使われていたのは別の曲ですし、サントラ盤に入っていないのがもったいないような良い曲なのですが。
 「想人」は『交響組曲』の「序曲」等と同じ川島和子さんのスキャットが映えるノスタルジー感にあふれた曲です。このサントラ盤の中では一番好きな曲で、劇中ではあまり使われていないにも関わらず、どこか印象深く残るものがあります。「大いなる愛」のように大上段に構えた曲よりも、本来のヤマトの音楽イメージに近いものがあると思います。

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2.「白色彗星」とバロック音楽

 『さらば宇宙戦艦ヤマト』の敵方、白色彗星のテーマはその圧倒的な強大さを表わすためにパイプオルガンによる演奏と言う方法が取られていましたが、パイプオルガンと言えばバッハ、バッハと言えばバロック音楽というように、この「白色彗星」にもバロック音楽の影響が感じられます。
 少し変則的ながらも一応は単一主題によるソナタ形式と言えるような構成になっていて、サントラ盤の中では唯一、クラシック的な作りに近い曲と言えるでしょう。

 バロック期の西洋音楽はまだ宗教的なものからははっきり分離していたわけでもありませんし、特に日本でよく知られるバッハの音楽はキリスト教関連の音楽を中心に作曲していることも有り、この「白色彗星」もどことなく宗教音楽を感じさせる部分があります。(そもそもパイプオルガンなんて、カトリックの教会に備え付けの楽器ですからね)*6
 そういうわけかどうかしりませんが、自らを絶対者と名乗り、敵対していくものを滅ぼしていく白色彗星の姿は、どことなく一神教であるキリスト教の一面にオーバーラップして感じられる部分があるのかも知れません。

 この白色彗星のテーマを皮切りに、以降のヤマトでは敵側の音楽に色々と特徴付けが行われるようになります。それがある意味ではクラシック音楽への導入的な役目を担っていた部分も有り、先の『交響組曲』も含め、ヤマトがきっかけでクラシック音楽を聴くようになったという人も多いと思います。
 それに比べると現在はシンフォニックな音楽を書く人も少なからずいますが、どうも現代音楽の作曲家が自分の音楽を作っていると言う感じで、クラシック音楽方面への感心には結び付かず、結局はそのサントラの世界だけで留まってしまう傾向があるのではないでしょうか。

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3.ディスコアレンジ盤と『ヤマト2』BGM集

 この映画に関連してディスコアレンジ盤『不滅の宇宙戦艦ヤマト*7が出されました。内容は第1作と第2作から何曲かピックアップしてディスコアレンジされています。映画『未知との遭遇』のディスコアレンジ盤を気に入ったプロデューサー氏が、テーマソングを出したレコード会社に企画を持ち込んで作ったアルバムのようですが、ここに既製のアルバムに収録されていない*8音楽が2曲入っていたのです。
 1曲は「テレサのためいき」。テレザート星でテレサの語り掛けるシーンで実際に用いられていた音楽。そしてもう1曲は「雪の最期」。都市帝国の攻撃で森雪が死ぬシーンに用いられていた音楽です。どちらも、このアルバム用にアレンジされており、原曲のイメージを忠実に再現することはできませんが、それでもアルバムで聴けるというのは嬉しいことでした。(その分、サントラ盤には恨みつらみが積もりましたが)

 このディスコ盤の収録曲の幾つかはTVシリーズ『宇宙戦艦ヤマト2』にも使われていましたが、この作品のBGM集も後に忘れた頃になって発売されています。*9

 TVシリーズのBGM集と名乗ってこそいるものの、実際には『さらば宇宙戦艦ヤマト』の劇伴使用曲と、第1作BGMのステレオ再録音曲によって構成されています。
 ディスコ盤の「テレサのためいき」の原曲を始めとしてテレサ関連のテーマも何曲か収録されていますし、「大いなる愛」第2主題のバリエーションも全曲収録されています。ただ、このBGM集は『ヤマト2』のBGM集と言う構成からか、デスラー総統や森雪の死のシーンなど映画版にしか無いシーンの音楽は収録されていませんでした。その反面、収録の意図が不明な曲がいくつかあり、全体的にアンバランスなアルバムだったように思います。

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(記事初出 ニフティサーブ・アニメフォーラムマガジン館 94.10.29)

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YAMATO SOUND ALMANAC 1978-II「さらば宇宙戦艦ヤマト 愛の戦士たち 音楽集」
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オリジナルBGMコレクション 宇宙戦艦ヤマト Part2
オリジナルBGMコレクション 宇宙戦艦ヤマト Part2
YAMATO SOUND ALMANAC 1978-IV「不滅の宇宙戦艦ヤマト ニュー・ディスコ・アレンジ」
YAMATO SOUND ALMANAC 1978-IV「不滅の宇宙戦艦ヤマト ニュー・ディスコ・アレンジ」
後に発売された『さらば宇宙戦艦ヤマト』の劇伴音楽集
こちらは既存曲・重複曲を含め、映画中に使われた音楽を使用順に再構成したもの
ETERNAL EDITION File No.2&3「さらば宇宙戦艦ヤマト」愛の戦士たち
ETERNAL EDITION File No.2&3「さらば宇宙戦艦ヤマト」愛の戦士たち
映画中に使われた新曲メインならこちら
YAMATO SOUND ALMANAC 1978-III「さらば宇宙戦艦ヤマト 愛の戦士たち BGM集」
YAMATO SOUND ALMANAC 1978-III「さらば宇宙戦艦ヤマト 愛の戦士たち BGM集」
映画での未使用曲をメインに構成された『宇宙戦艦ヤマト2』の劇伴音楽集
ETERNAL EDITION File No.4 宇宙戦艦ヤマト2
ETERNAL EDITION File No.4 宇宙戦艦ヤマト2
YAMATO SOUND ALMANAC 1978-V「宇宙戦艦ヤマト2 BGM集 PART1」
YAMATO SOUND ALMANAC 1978-V「宇宙戦艦ヤマト2 BGM集 PART1」
YAMATO SOUND ALMANAC 1978-VI「宇宙戦艦ヤマト2 BGM集 PART2」
YAMATO SOUND ALMANAC 1978-VI「宇宙戦艦ヤマト2 BGM集 PART2」

*1:地球、テレザート星、白色彗星の3つの天体の相対位置を見事なまでに実感させてくれたスケール感。彗星帝国の地球侵攻とヤマトの帰還のタイミングをはらはらさせながら見せてくれた緊迫感。白色彗星、都市帝国、超弩級戦艦と次々と圧倒的な力を見せ付けてくる敵の強大さなど、当時は極めて斬新に感じられました。けっして次々に乗組員が死んでいくから感動したというわけでも無いのです。デスラー艦の背後を白色彗星が通過していくシーンはまさにパノラマ感があり秀逸と言えます。

*2:さらば宇宙戦艦ヤマト 愛の戦士たち 映画音楽集』(CQ-7011 78.08.01 ¥2,300)
 これも何度かCD化されていますが、現在ではYAMATO SOUND ALMANACで出てるものが入手しやすいでしょう。(COCX-37385 12.09.19 ¥2,500)

*3:二つの主題をA、Bとして、ABAB’という構成になっています。さらに細かく見ると、aa’bb’a’b’b”となっているので一種の複合変則二部形式というのが正しいのかも知れません。

*4:『テレビオリジナルBGMコレクション 宇宙戦艦ヤマトPART2』(CX-7035 81.10.25 ¥2,500)
 90年代にヤマトのアルバムが一斉に復刻された時にCD化されています。(COCC-12870 95.09.21 ¥2,621)

*5:サントラ用の編曲と思われる「大いなる愛」が何故かこのBGM集にも入っていました。しかし演奏の編成等が小さいので、聴くに悲惨です。この前半部のモチーフの劇伴曲は後にETERNAL EDITIONの『さらば宇宙戦艦ヤマト』でようやく収録されました。(COCX-31154~5 00.11.01 ¥3,800)

*6:日本で一般のコンサートホールにパイプオルガンが設置されるようになったのは1982年に完成したザ・シンフォニーホール以降(その後バブル期の箱物に広まった)なので、それ以前はどうしても教会専用の楽器というイメージがありました。

*7:『不滅の宇宙戦艦ヤマト ニュー・ディスコ・アレンジ』(MR-3162 78.--.-- \2,500)
 長らくCD化されなかったアルバムですが、YAMATO SOUND ALMANACの1枚としてようやく復刻されました。(COCX-37387 12.09.19 ¥2,500)
 ただし、これに収録されてる「宇宙戦艦ヤマト メインテーマ」に関しては、名匠宮川組の演奏によるCDがインディーズ盤で出ていました。
 『恋のバカンス ―宮川泰とポップな仲間たち―』(URCD-1201 99.05.21 ¥2,778)

*8:当時、徳間音工から出ていたソノシートには収録されていたようです。この音源は後に『松本零士音楽大全』(GES-31170~79 00.05.28 ¥50,000)で初めてCD化されました。その後、ETERNAL EDITIONの『さらば宇宙戦艦ヤマト』で一通りの曲は収録されるようになりました。

*9:前出

交響組曲 宇宙戦艦ヤマト

1.交響組曲 宇宙戦艦ヤマト

 音楽アルバムとして最初に発売されたヤマトのLPは、この『交響組曲 宇宙戦艦ヤマト*1でした。
 今でもアルバムのヒットした一部の作品でシンフォニック・バージョンが発売されることがありますが、いわばその草分けのような存在です。ただ違うところがあるとすればヤマトの場合、音楽集として出たのが当時、このアルバムだけだったということです。

 一口にシンフォニック・バージョンといっても、劇伴を単につなぎあわせてオーケストラで演奏したものから一部モチーフだけを使って完全なオリジナル曲として作り上げるものまで、アルバムによって様々です。この『交響組曲』は劇伴のモチーフをつなぎあわせたもの、独自にアレンジしているものが混在しています。
 あんまり細かいことを書きませんが、アルバムの曲構成と各曲の内容をチェックしておきましょう。

 A1.序曲
     ナレーションバックのスキャット曲を元にシンフォニー化。
  2.誕生
     ヤマトのテーマを含んだ劇伴をいくつかつなぎ、ヤマトの誕生から
     発進までを再構成したもの。
  3.サーシャ
     火星に墜落したサーシャの音楽をアレンジ。
  4.試練
     サスペンスを現す劇伴とヤマトのボレロ調の音楽をつないだもの。
  5.出発(たびだち)
     ヤマトが飛びたつシーンの劇伴をアレンジ。
  6.追憶
     ヤマトのテーマのアレンジ。
 B1.真赤なスカーフ
     エンディングテーマのアレンジ。
  2.決戦 ~挑戦=出撃=勝利~
     出撃、戦闘、凱旋を現す劇伴を幾つか並べてつないだもの。
  3.イスカンダル
     イスカンダルの音楽のアレンジ。
  4.回想
     沖田艦長の最後のシーンの劇伴をアレンジ。
  5.明日への希望 ~夢・ロマン・冒険心~
     序曲と同じスキャットから始まり、オリジナルの合唱が入る。
  6.スターシャ
     このアルバムのオリジナル曲。

 「序曲」「誕生」あたりが劇伴とは違うシンフォニーならではの厚みを感じさせてくれます。これに「明日への希望」を加えた3曲は、BGM集を聴けるようになった後でも全く色あせていません。むしろ、かえって価値がわかるようになったような感じです。純粋にシンフォニック・バージョンとして楽しめるわけですね。「イスカンダル」なども劇伴よりも優雅になっていて、やはり無視できない曲です。
 その他の音楽というと、完全オリジナルの「スターシャ」とオリジナルアレンジの「真赤なスカーフ」を除けば、どれも現在から考えるとアレンジが中途半端な感じが否めません。

 このアルバムの場合、単なるシンフォニック・バージョンとしてではなく、BGM集の代替としてリリースされた意味合いも強いと思うのですが、「サーシャ」「追憶」「回想」での楽器の変更は痛く、「出発」でのサブメロディーのカノンが原曲のイメージを壊してしまっていることは残念でした。
 しかし、当時はヤマトの音楽を聴こうと思うと他に選択の余地がありませんでしたから、劇伴との相違に何か違うなと感じながらも『交響組曲』の世界に浸っていたわけです。

 このアルバムの「序曲」のスキャット、「誕生」は『さらば宇宙戦艦ヤマト』以降の作品の劇伴に使われるようになりましたから、耳に馴染んでいる人も多いと思います。でも、さすがに「序曲」の後半部分や「明日への希望」のコーラス部分を劇伴に使うようなことは無いだろうと思っていましたが、意外にも共に『宇宙戦艦ヤマトⅢ』 で使われていましたね。

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2.20世紀の"白鳥の湖"

 これは『交響組曲 宇宙戦艦ヤマト』のLPの帯に記されていた文句ですが、ヤマトの音楽はしばしばチャイコフスキーの『白鳥の湖』に比せられることがあります。
 『白鳥の湖』と言えば、当時は「秘打・白鳥の湖*2の時代ですから主題のさわりぐらいは誰でも知っていたのではないかと思われますが、全曲を聴いたことのある人は案外いないのでは無いかと思われます。元々はバレエ音楽ということで、映画音楽に極めて近い構成になっていますので、是非とも聴いてみることをお薦めします。

 『交響組曲 宇宙戦艦ヤマト』が『白鳥の湖』と対比される場合、たいてい引き合いに出されるのが「序曲」と有名な白鳥の主題ということになります。ここで両者を比較することはしませんが、「20世紀の"白鳥の湖"」と言われるとそうかもしれないと思わせてくれるだけのものが「序曲」にあるのは確かでしょう。
 もっとも、他の曲までもがそうだとは当時も思えませんでしたが、とにかく「序曲」はヤマトの音楽をただの劇伴からそれ以上のものにしたと言えるくらいのインパクトを与えてくれました。

 もっとも『白鳥の湖』というのはヤマトを作ったプロデューサーの方が特に思い入れのある音楽らしく、後に『ヤマトよ永遠に』で『白鳥の湖』の一曲が使われたこともあります*3

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3.宮川泰の世界

 ヤマトの音楽を担当していた宮川泰氏は、元々は歌謡曲の世界で活躍されておられたらしく、特にザ・ピーナッツ*4の曲で多くのヒットを飛ばしています。もっとも現在では宮川氏の代表作は一番に「宇宙戦艦ヤマト」が挙げられるようになっているみたいですね。
 アニメ音楽では『ワンサくん』『グランプリの鷹』『宇宙空母ブルーノア』『チルチルミチルの冒険旅行』『オーディーン 光子帆船スターライト』等を手掛けられていますが、上記のうち『グランプリの鷹』以外はヤマトと同じプロデューサーの作品だというところに、何か腐れ縁のようなものを感じますね。

 宮川氏と言えば冗談音楽の第1人者として、以前『題名の無い音楽会』という番組にも出演されていましたが、78年当時にも服部克久氏とのジョイントコンサートのライブ盤が発売されていました。
 『宮川泰の世界 宇宙戦艦ヤマト*5と題打たれたこのライブ盤アルバムにはヤマトの曲こそ『交響組曲』から4曲が選曲されているだけですが、スタジオ録音でない演奏を聴くことも他では滅多にありませんし、何より宮川氏の色々な側面の音楽を聴くことが出来て、かなり後に中古で入手したアルバムに関わらず、新鮮な感動を受けたことを覚えています*6

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4.交響組曲の功罪

 このアルバムの功績というのはアニメ音楽の一ジャンルを日本のレコード界に築き上げたことでしょう。そして、アニメファン以外にも広く聞かれるような土壌を確立したとも言えます。
 それまではアニメ人気に合わせたファミリー向けの商品展開が中心だったと思われるアニメアルバムを、純粋に音楽を求める人向けに切り開くことが出来ました。

 ところが、何でも安直にシンフォニーを名乗るアニメ関連アルバムの先駆になってしまったことも否めません。さらにシンフォニー盤先行の結果、まともな劇伴を収録したアルバムが出されることの無かった作品も出て来ました。
 ヤマトの場合のように、ある程度は劇伴をなぞって、さらに高度な音楽に作り上げている場合は良いのですが、安直にシンフォニー化された中にはそうでないものもありますからね。

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(記事初出 ニフティサーブ・アニメフォーラムマガジン館 94.10.23)

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YAMATO SOUND ALMANAC 1977-I「交響組曲 宇宙戦艦ヤマト」
YAMATO SOUND ALMANAC 1977-I「交響組曲 宇宙戦艦ヤマト」
YAMATO SOUND ALMANAC 1978-I「宮川泰の世界~宇宙戦艦ヤマト」
YAMATO SOUND ALMANAC 1978-I「宮川泰の世界~宇宙戦艦ヤマト」
吹奏楽版の『組曲宇宙戦艦ヤマト」』が入ったアルバム
「宇宙戦艦ヤマト2199」ヤマト音楽団大式典2012
「宇宙戦艦ヤマト2199」ヤマト音楽団大式典2012
ライブ盤じゃないスタジオ録音なら
THE HIT PARADE Hiroshi Miyagawa
THE HIT PARADE Hiroshi Miyagawa
 この『組曲』、吹奏楽版はいくつかCDで聴けるのですが、元のオーケストラ版のCDが出てないという……。レコーディングされてない普通のコンサートで演奏されることが多かったからかとは思いますが……

 

*1:『交響組曲 宇宙戦艦ヤマト』(CQ-7001 77.12.25 ¥2,300)
 後に何度かCD化されていますが、現在は『YAMATO SOUND ALMANAC』の一枚として出てるものが入手しやすいでしょう。

*2:水島新司ドカベン』で明訓四天王の一人・殿馬が編み出した特殊な打法です。アニメ版ではちゃんと「白鳥の湖」をBGMに使っていました。他にもクラシック音楽を使った秘打、秘走、秘守、秘投などが多くありますが、何故か執筆当時それらのクラシック音楽を集めたCDが東芝EMIから発売されていました。

*3:敵の母星がカムフラージュのために作った200年後の地球で、上陸した古代たちが聖総統の宮殿で「第3幕ワルツ」を聴かされました。この曲はいわゆるセレクト盤に入ることはなく、全曲集を買わないと聴けないのですね。

*4:キャンデーズやピンクレディの遥か以前にアイドルをやっていたらしい双子の姉妹。……というより『モスラ』の小美人と言った方がわかりやすいかも知れない。『三大怪獣 地球最大の決戦』で小美人が歌っていた「幸せを呼ぼう」も宮川氏の作曲でした。

*5:宮川泰の世界~宇宙戦艦ヤマト』(CQ-7006 78.--.-- ¥2,300)
 長らくCD化されていなかったアルバムですが、『YAMATO SOUND ALMANAC』の一枚として復刻されています。

*6:その後、晩年の宮川氏は新たに編曲した(交響の付かない)『組曲宇宙戦艦ヤマト」』をオーケストラ・コンサートで多く演奏されていました。これは息子の宮川彬良氏によって吹奏楽版が作られ、Osaka Shion Wind Orchestra等で演奏が続けられています。また、2009年には彬良氏の手によって『交響組曲』のA面再現演奏のコンサートがありました。

ヤマト音楽とドラマ編アルバム

1.ヤマトのサントラ盤との出逢いまで

 私がアニメ音楽に初めて関心を抱いたのは「宇宙戦艦ヤマト」でした。それ以前にも主題歌が好きな作品は幾つかありましたが、劇中のBGMまでも心に残った作品はありませんでした。
 まあこれは年齢に寄るところも多いと思います。ヤマトの最初の再放送(といっても関西在住ですので関東よりは1年ぐらいは早かったはずです)を見たのはちょうど小学校の高学年、ようやく主題歌以外の音楽にも注意がむくようになっていたのかもしれません。

 自分の意志で最初に買ったEP、LPはそれぞれヤマトのものでした。当時は新譜の情報なんて持っていないし、レコード店に行きつけていたわけでもありませんので、ふとヤマトのレコードが欲しくなって買ったのは78年の春のことでした。ちょうど中学校に上がる前の春休みにEP*1を買った覚えがあります。
 それはEPといっても穴が小さくて33回転盤。正確にはLPのミニサイズなのですが、便宜上EPと呼んでいます。A面に「宇宙戦艦ヤマト」と「真赤なスカーフ」、B面に「ドラマ・ガミラス絶対防衛線突入」が収録されていました。

 主題歌2曲はコーラス・グループがオリジナルとは違うロイヤル・ナイツのものになっていましたが、当時はそんな細かいことには気付きませんし、それよりもイントロの前のファンファーレみたいな曲が付いていないとか、ラストがフェードアウトしていないとか、TVで流れたバージョンと違うことに疑問を感じていました。TV音源はレコード発売用とは別個に編集されていることなんて知る由もありませんでしたから。
 でも、「真赤なスカーフ」の伴奏が全然違うのには気付きませんでしたね。この曲の伴奏までは記憶していなかったのかもしれません。
 ドラマはタイトルとは無関係に第3話のヤマト発進シーンと、第22話の七色星団の決戦を編集したものでした。これはこれで、感激したものです。当時テープレコーダーは家にありましたが、カセットが高くてTV放送を録音しようとまでは考えも及びませんでしたので。(小学6年当時、月に500円程度の小遣いで、カセットが1本500円程度だったから……)

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2.宇宙戦艦ヤマト オリジナルサウンドトラック盤

 それからしばらくしてLP*2を買ったのですが、このきっかけというのは偶然手に入れたヤマトのロマンアルバムにあった広告で知ったからです。広告の収録タイトルを見ると、先に買ったEPのドラマのようなものがより多く収録されている感じでした。買ってみると事実、そのとおりでした。
 内容はというと、劇場版に新たに付け加えたと思われる「無限に広がる大宇宙……」というナレーションに続いて主題歌「宇宙戦艦ヤマト」。冥王星海戦の敗退、遊星爆弾を説明するシーンのナレーション。そしてヤマト発進……。以降はナレーションで端折りながら、一部の印象的なシーンのみを収録していると言う感じでした。
 その頃は他にレコードを聴いていたわけでもなく、アニメのレコードなんてこんなものかなと思っていましたが、聴き込めば聴き込むほどBGMに関心がおよび、ドラマ抜きに音楽だけ聴きたいなという思いが高まって来ました。

 このドラマ編のアルバムですが、公称40万枚というアニメ・サントラ史上最高の売り上げを出したと言いますが、高々ドラマ編アルバムが何故こんなに売れたのか、いままで疑問に思っていました。単純なる音楽アルバムならともかく、ドラマ編なんて一部のファンにしか需要が無いのではないかと。
 しかし、いま改めて考えると、ドラマ編だったから売れたのでは無いでしょうか。ファンなら音楽を聴くだけで、そのシーンを思い出し感動することができますが、それは一部の人にすぎません。また音楽のないドラマだけのアルバムなら、やはりファン以外には感動を与えることはできないでしょう。
 ヤマトのドラマは宮川泰氏の音楽と密接に結び付いていて、それはLPのドラマも変わりません。ドラマ編と言っても音楽の占める比重は大きく、しかもその音楽はそれぞれ印象的なシーン*3に使われています。このことにより、このアルバムはヤマトのことをよく知らない人にもヤマトの音楽の魅力を伝えることができたのです。これがこのアルバムのヒットの最大の原因でしょう。
 単なるドラマ編ではなく、名音楽シーン集になっていたのですね。後の作品のドラマ編アルバムが単なるドラマ編でしかなかったのとは大きく異なっています。

 ただし、このアルバムがなまじ売れたためかどうか、あれだけのヒット作にも関わらず、肝心のBGM集は81年になるまで発売されていません。77、78年のブームの時に出ていればかなり売れたアルバムになったことと思われますが、返す返すも残念です。

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3.ヤマトのBGM集が出なかったわけ(?)

 ついでながら、81年に発売されたBGM集*4について、ちょっと触れてみましょう。
 発売されたのが『宇宙戦艦ヤマトⅢ』放映中ですから、初期のヤマトファンの中にはすでにヤマトから離れていってしまっていた人も多かったと思います。熱心なヤマトファンでも、このアルバムの発売を知らなかった人がかなり多いようです。
 内容はTVサイズの主題歌2曲と主要なBGM。もちろん多くの未収録曲が有り、それらは現在はパート1のLD-BOXのおまけとして聴くことができますが*5、選曲的には主要曲を網羅*6してはいます。ただし、曲間が詰まってしまっているのが難点で、プレーヤーで選曲して聴く時、針を落とす位置に苦労しました。

 いささか発売時期を逸したアルバムでしたが、どういう形であれ、発売されたということに意義が有り、ヤマトファンにとっては嬉しいことでした。現在なら、それなりにアルバムの売れる作品なら未収録BGM集まで出してくれる感じですが、当時はヤマトのような超ヒット作品でもなかなかBGM集は出なかったのです。というより、超ヒット作品だったから出なかったのかもしれません。
 現在ではCD化を前提にBGMが作られていますが、当時そういう発想はなく(そもそもヤマトLPのヒットから考えられたことですから)、レコード化の際には新たにレコーディングされるのが普通だったようです。当時もBGMそのままに収めたアルバムもぼちぼち出始めていたようですが、それらの多くは新たにレコーディングする予算が無いためにTV用のBGMを流用していたというのが真相ではないでしょうか。
 ヤマトに関して言えば、ずっと後、『完結編』に至ってもコロムビアから出ていたサントラ収録曲の多くは実際に劇中で用いられたものと違うバージョンでした。

 レコード発売するからにはTV用音源よりも立派な音楽にして出したいという意図もわからなくは無いですが、TVで馴染んだ曲との相違点が大きいと、やはり物足りなく感じてしまいます。ヤマトのアルバムについては、一部を除いて最後までそういう意味で失望させられ続けて来ました。
 しかし、それでもヤマトのアルバムに期待を抱き続けて来たのは、ヤマトの音楽の素晴らしさのためです。

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4.そして……

 最初のサントラ盤はBGM集ではなく、ドラマ編として出たヤマトですが、ヤマトの魅力の大きな要素が音楽であることは動かし難い事実であり、次いでシンフォニック・アレンジの『交響組曲 宇宙戦艦ヤマト』が発売され、そしてブームの高まりの中、続編『さらば宇宙戦艦ヤマト 愛の戦士たち』が公開されます。次回はこの辺りを扱ってみる予定です。

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(記事初出 ニフティサーブ・アニメフォーラムマガジン館 94.10.17)

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LPはともかくCDはかなり入手困難みたいですね
オリジナルBGMコレクション 宇宙戦艦ヤマト Part1 オリジナルBGMコレクション 宇宙戦艦ヤマト Part1
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コロムビアミュージックエンタテインメント 2005-05-17
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ETERNAL EDITION File No.1 「宇宙戦艦ヤマト」 ETERNAL EDITION File No.1 「宇宙戦艦ヤマト」
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*1:宇宙戦艦ヤマト』(CH-53 77.07.01 ¥700)

*2:宇宙戦艦ヤマト オリジナルサウンドトラック盤』(CS-7033 77.07.25 ¥1,800)
 このLPは90年代半ばにヤマト関連のアルバムが一斉にCD化された際にラインナップの一つとして復刻されています。
  『宇宙戦艦ヤマト ―ドラマ編―』(COCC-12477 95.04.01 ¥2,427)
 また、2010年代になって出た『YAMATO SOUND ALMANAC』の全巻購入特典にもなっています。

*3:例えば「艦隊集結」というBGMがあります。この曲はヤマトの発進シーンやドメル艦隊の集結シーンに用いられていて、どちらかが印象に残っていると思いますが、このLPには両方のシーンが含まれています。

*4:『TVオリジナルBGMコレクション 宇宙戦艦ヤマト PART1』(CX-7008 81.01.25 ¥2,500)
 これも90年代半ばにヤマト関連のアルバムが一斉にCD化された際にラインナップの一つとして復刻されています。
  『TVオリジナルBGMコレクション 宇宙戦艦ヤマト PART1』(COCC-12869 95.09.21 ¥2,621)
 のちに『ETERNAL EDITION』や『YAMATO SOUND ALMANAC』のシリーズで商品化されたBGM集はそれぞれ別の構成で作られていますので、アナログ盤をそのままCDにしたのはこれと2005年の再発売盤だけです。

*5:原文の執筆当時の話。LDの各面の空き容量に数曲ずつ収録されてたわけですから、聴くのは非常に面倒でした。後に『ETERNAL EDITION』や『YAMATO SOUND ALMANAC』でほぼ全曲網羅されたCDが出ていますので、今や昔の話です。

*6:オープニング・スキャットからヤマトが地球を飛び立つシーンの音楽、デスラー登場の音楽、ワープ……等々、シーンとともに思い出すような音楽はほとんど入っているでしょう。ただしマニアになるとこれだけでは満足できないのですが。

語られるゲーム音楽と語られないアニメ音楽

(これは10年ぐらい前に一度、この連載を掲載しようとした時の序文です。昨今、一部の人気作品でオーケストラコンサートが開かれたりして劇伴音楽自体にもスポットが当てられてきていますが、アニメ音楽全体から見れば基本的な状況は変わってないように思うので、ここに掲載しておきます) 

 

 昔の連載では最初に自分とアニメ音楽との来歴について書いていたのですが、そういう個人的な話は書いても面白くないだろうから、その代わりに日ごろから常々、疑問なり不満として感じてる点を問題提示として取り上げてみましょう。

 さて、この連載の主題はアニメ音楽に関することです。アニメ音楽といってもいわゆる主題歌等のアニメソングを含めた広義のアニメ音楽ではなく、主に劇伴音楽を指す狭義のアニメ音楽です。
 いまや日本のアニメはオタク文化の広がりとともにメジャーな存在となってきましたが、そのアニメにとっては昔から絶えず不可欠な要素でありながら、ほとんど語られて来なかったのがアニメ音楽ではないでしょうか。
 確かに菅野よう子川井憲次の音楽が注目を浴びたり、時々断片的に取り上げられることはありますが、継続的に音楽の動向が分析されたり、ビッグネーム以外の作曲家に陽が当ったりすることは皆無といって良いでしょう。
 逆にアニメソングの方は飽きるくらいに語られています。アニメ音楽専門誌と名乗って発行された雑誌なりムック本が実際はアニメソング専門誌だったというのは、珍しくもありません(というか、ほとんど全部) 中にはアニメソングには劇伴も含まれるとしたり顔で語る人もいますが、それに与することはできません。

 ところで、アニメの近縁ジャンルであるゲームの世界では、ゲーム音楽というのは確実にひとつのジャンルとして確立されています。アニメ音楽と違ってゲーム音楽は語られる存在として認められているのです。
 この違いは何なのでしょうか? メディア的な違いからゲームはアニメほど語るジャンルの数が少ないから音楽にも注目されているのでしょうか? あるいはあまりにコア過ぎる趣味だからかえって尖鋭化して目立ってるだけなのでしょうか?
 そうではないと思います。

 ゲームの世界ではアニメソングのような「ゲームソング」というべきジャンルは確立されていません。ゲームソングは今はまだゲーム音楽の一部としか認識されていないのでしょう。そもそもアニメソングは『鉄腕アトム』の時代から存在してアニメとともに発達してしましたが、ゲームソングが出て来たのはゲームハードがCD-ROMなりPCM音源を備えてサンプリング音源を再生できるようになってからのことで、まだ歴史は古くはありません。それまでは音楽はあっても歌は無かったのです。(観賞用のイメージソングとかならそれ以前にもあったでしょうが)

 アニメの場合はその初期の頃からアニメソングという語られ易いアイテムがあったのに比べて、ゲームには長らくそういうものは存在しなかったのです。したがってゲームの音楽を語るとなると必然的にBGMの話にしかならないので、それがそのままジャンルとして定着したのでしょう。
 逆にアニメの方はなまじアニメソングという語られ易いアイテムがあったがために劇伴の方は放置されてしまい、一定のコアなマニアはいるものの、広く語られる対象のジャンルとしては確立されることが無かったのでしょう。

 確かにアニメの劇伴を語ることはアニメソングを語るよりも相当に難易度が高いでしょう。歌詞と歌手のことに触れればそれなりに様になるアニメソングと違って、劇伴にはそんな「見える要素」は存在しません。内容に触れるには音楽の素養が必要ですし、文字で書いて理解させるのも困難でしょう。でも、だからこそ語られる意味はあると思うのですが。ま、日本の場合はテレビの映画音楽番組等で取り上げられる邦画の音楽も歌物ばかりという傾向もありますから、ゲームの世界の方が異質なのかもしれませんが。
(もっとも、邦画の映画音楽が歌物ばかりなのは歌物以外のスコアが残ってないとか、歌手で視聴率を稼ぐ目的とか、いろんな事情があるとは思います)

 ま、ゲーム音楽とアニメ音楽の大きな違いといえば、ゲーム音楽はステージなりシチュエーション単位で流しっぱなしのものが多く、プレイヤーは何度でも繰り返し聴けるのに対し、アニメの音楽はシーンごとにきっちり使い分けられていて、視聴者との出会いは一期一会ということですね。アニメもパッケージソフトで繰り返し見てると話は別ですけど、ゲームの方が音楽の印象を与えやすいのも確かです。アニメの方も変身シーンとかで何度も使われる音楽もあって、そういう馴染みのある音楽は語り易いでしょうけど。

プロローグ

(これはオリジナルの会議室に掲載した序文を、現状に合わせて改訂しました)

 アニメ音楽に目覚めたのは「宇宙戦艦ヤマト」の音楽に触れた時からでした。それまでのアニメ作品では、主題歌や挿入歌を覚え、口ずさむことはあっても劇中のBGMにまで関心を抱くことは無かったのですが、ヤマトは主題歌も魅力的ながら、その華麗なBGMにまでも魅せられてしまいました。
 生まれて始めて自分が買ったレコードはヤマトでした。そしてヤマトブームと前後してヤマトのアルバムが多く出るようになると、中学生当時の小遣い程度ではままならず、その度に親にねだって買ってもらったことが、つい昨日のように思い出されます。
 高校、大学と、自由になる小遣いが増えても、その用途のほとんどはアニメのレコードでした。ヤマトは、そして松本零士作品は消えたけど、その代わりにもっと広くいろいろな作品の音楽に触れられるようになりました。

 一時期、アニメの音楽よりもゴジラ等の伊福部音楽のほうに主点が移ったこともあります。音楽に魅力のある作品を感じられなくなったこともあります。最初は劇伴中心だったのに、いつしか主題歌の収集にまで広がったりもしました。
 アナログ盤からCDへの移り変わり。旧盤そのままにCD化されるもの、独自に再構成されてCD化されるもの、そして望めども一向にCD化されないもの・・・。アニメ音楽そのものでないにも関わらず、いやがおうにも様々な影響を与えてくれました。

 宮川泰羽田健太郎久石譲川井憲次田中公平鷺巣詩郎・・・時代によって中心に聴いて来た作曲家の顔ぶれも変わって来ました。そして、音楽の演奏形態もオーケストラ曲から、シンセ中心の音楽までいろいろと変わって来ました。

 LPが150枚を越えてから切り替えたCDも、すでに500枚(1994年当時)を越えてしまっています。その中には声優さんのアルバムや、アニメソングを含んだ一般歌手のアルバム、特撮の音楽、そしてその周辺のクラシック音楽をも含んでいますが、依然アニメのアルバムが多数を占めていることには変わりません。
 それらのアルバム達を材料に、自分なりのアニメ音楽史を語れたらなと、以前から考えていましたが、なかなか手を付けられずに来ました。一度にまとめて発表するのは無理でも、会議室の発言として少しずつ書いていくのは楽かななどと思い、最終的には発言を合わせるとひとつの形になっていることを祈って、ここに書きはじめることにしました。

 とりあえず、ヤマトから順に年代順に追っていきたいと思います。主要と思われる作品については独立して項目をあげていくつもりです。当然のことながら、取り上げる作品はアルバムを所有している作品に限られますので、独断と偏見の誹りを受けることは免れませんが、仕方がないでしょう。客観的には重要な作品でも無視することが多々ありますが、ご了承ください。

   (中略)

 なお、作者はアニメ業界やレコード業界とは何の関りも無いアニメ音楽の1愛好家に過ぎませんので、専門的な内容や裏話的なものなどは当然のこと書けません。記載内容に誤りがある場合もあるかも知れませんし、資料的な価値を期待されても困ります。
 あくまで、素人ならではの発想と切り口で書いていきたいと考えています。

              ヤマト誕生20周年の秋に(※当時)   結城あすか